2.
摩訶不思議な事態は、続行中、だった。
そう。
この世は波乱万丈で諸行無常、なのだ。
「お姉さまぁ~(ハート)」
「あ、いや、私にはアーヤという名があるのだが…」
「まあ!」
「ん?」
「容姿だけでなく、お名前も素敵なんですね!」
「...」
そんな何とも形容し難い会話を背後に聞きながら、俺は、豪奢な荷車を牽いていた。
そう、豪華で装飾過多な荷車。
どこから湧いて出たのか謎な、物体エックスならぬ豪華絢爛な荷車を、俺は、馬やロバの代わりに引っぱりながら、とぼとぼと歩いている。
そして。
その荷台というか座席には、ゴスロリ衣装を装備した少女と、質素なワンピースを纏ったクールビューティな美少女剣士のお姉さん。
あれよあれよという間に、ゴスロリ少女である自称エイプリルちゃんが、旅する美少女剣士であるアーヤさんを丸め込み。
何がどうなったのか、気が付けば目の前に、立派な座席が二つ装備された開閉式の幌付きオープンカー型の小型軽量な馬抜き馬車が出現していて。
どういう理論から帰結した結論が根拠か、一切の選択の余地を与えられず、俺は人を乗せた豪奢な車を牽く人夫と相成っていた。
うん。全く以って訳が分からん。
と、まあ、兎に角。
何故だか俺は、前世に観光地でよく見かけたような人力車の豪華版を引っ張り、当初からの目的地である最寄りの街を目指して歩みを進めているのであった。
* * *
周囲の景色は、雑草が疎らに生え砂礫や小岩が転がる荒野から、お世辞にも生育が良いとは言えそうにない麦穂が一面に広がる農耕地へと移り変わり、前方には、高い城壁で囲まれた大きな街が見えてきた。
美少女剣士なお姉さんとの二人旅が、美少女な剣士さまと高慢なゴスロリ少女さまに使用人一人が付き従う御一行さまへと強制変換されてから、数時間。
俺は、キャピキャピと盛り上がる会話を背に、黙々と人力車を曳航する車夫の役割を全うしていた。
うん。偉いぞ、俺。
「なるほど。そういう事、だったんだな…」
「はい。流石お姉さま、理解が速いですわね」
「いや、そんなことはない、と思うが…」
「キャー、そんな謙遜するお姉さまも、素敵!」
「「...」」
いや、ホント。俺、偉いと思うよ。頑張ってるよね?
いったい、俺は何を延々と聞かせられているのかな?
この世は、諸行無常、なのだ。何事も我慢、だよね?
ただ、まあ。
この数時間の全てが徒労、という訳ではなかった、筈。
なかなかに貴重な、有意義なお話も聞けた、とは思う。
はっはっはっはは。
聞いたと言うより、漏れ聞いた、と言うべきなのかな?
いや、まあ、なんだ。
すぐ傍にいる俺にも聞こえるよう普通の声量で会話していたのだから、美少女二人の会話を盗み聞きした、などと言われるのは心外だ。
うん。俺は口出しなど一切しなかったけど、一連の会話の参加者、だった筈だ。たぶん。
と、まあ、言い訳や御託は兎も角。
ゴスロリ少女のエイプリルちゃんは、高度な魔術を操る魔術師さん、らしい。
唐突に荒野のド真ん中に現れたのも、突飛で個性的な衣装を紡いだのも、何処からともなく豪華な人力車を取り寄せたのも。全て、彼女が魔術に行使した結果、なんだそうだ。
そう、人力車。観光地を闊歩しているアレ、だね。今世では見たこと無いけど。
魔法陣に術式を記述し命名、音声もしくは思念で術名を発し、魔術を起動。
微精霊、もしくは、意志ある魔素とも言われることのある「魔術の素」を使役し、現実のモノとする。
いや~。興味深いねぇ。
この世に生を受けて、十数年。
ファンタジー要素とは無縁な人生を歩んできたけど。魔術、あるんだねぇ。
それを語っている人物が、微妙に胡散臭いような気はするけど…。
んん?
俺の危険察知センサーが、ピロンって感じでアラートを告げる。
周囲に何か、違和感が…。
後ろ、ではないな。
左右も特に異変は無さそう。
じっと目を凝らすと...前方に、微かな違和感を発見。
うん。前方に砂煙、な気がする。
と。ドドドドドッって感じの音が...時間差で、聞こえて来た。
ドッブラー効果付きで急速に接近してくる、よね。
おお~、騎馬の一団かな?
なんて、お間抜けにもノンビリ構えていたら…。
「どけどけどけぇ~」
「道を開けろぉ~」
「おらおら邪魔だぁ~」
げげげげげっ。罵声が前方から飛んできた。
俺は、大慌てで、退避。
お嬢様二人を乗せた優雅な人力車を、強引に加速し牽引。
少し先の街道脇に見えた、退避スペースへとドドッと駆け込む。
のと、ほぼ同時に。
俺たちの真横を、騎馬に乗って重武装した厳ついお兄さん達の集団が、爆走していった。
ドドドドドドドッ。
ひえ~。
「うわぁ、ヤバかった…」
「この、おバカ!」
「へ?」
「ほけぇ~としてるから、爆走筋肉軍団に気付くのが遅れるのよ!」
「んな、理不尽な…」
「ちゃんと前を見てたら、もっと早くに気付けた筈ですわ!」
「いや、まあ、気付いてはいたんだけど…」
「いいから、ゴミは、黙ってサクサク働きなさいな!」
何故だか俺は、ゴスロリ装備の美少女さんに罵倒されていた。
その、汚物を見るような視線が、ス・テ・キ。
いやいや、嘘です。冗談です。
はっはっはっはは。
うん。やっぱり、世の中は諸行無常なのだった。




