5.
美少女剣士のアーヤさんは、今日も朝から、冒険者ギルドを経由して街の外へと出掛けていった。
臨機応変に暫定パーティを組み、魔物退治のクエストを片っ端からクリアしている、ようだった。
うん、うん。アーヤさんらしい、よね。ホント。
けど。構って貰えないゴスロリ魔術師のエイプリルちゃんは、ご機嫌が斜めな状態が続いている。
のだが...ここ数日は、ふんフンと鼻歌が出るレベルで、超ご機嫌だった。絶好調なのである。
今日も朝から、ご来店。
本来であれば俺の勤務時の待機場所、店のバックヤードにある店内が見渡せる場所に設置された椅子に、鎮座。
超絶にご機嫌の満面笑顔で、店内の様子を眺めている。
「むふふふふ。今日も、ルルちゃん達は、可愛いわぁ」
「...」
「エイプリルちゃんも、飽きないわねぇ」
「当然ですわ。可愛いは、正義!」
「...」
「ふふふ。エイプリルちゃんも、可愛いわよぉ」
「ありがとうございますぅ」
俺が朝食の席でポロリと零した、簡素ながらも可愛らしい揃いの制服で忙しく立ち働きする三姉妹の話に、ガッツリと喰らい付いてきたエイプリルちゃん。
間髪入れず、その日のうちに店まで押しかけて来たのであった。合掌。
しかも。巧みな話術で、バックヤードでパンを焼くお婆さん達も陥落させ、本来は俺が居るべき場所を当然の顔で占領し続けていた。とほほほほ。
店内が混雑し、接客対応の美少女三姉妹がフル稼働中の、現在。
エイプリルちゃんは、眼では可愛い美幼女と美少女の姿をシッカリと追いながら、店のスタッフであるお婆さん達から彼女たちの情報を抜かりなく収集している。
本当に、ブレないよね。
「へえ~、そうなんだ。ルルちゃんも、リナちゃんも、ランちゃんも、偉いのね」
「そう。みんな、頑張り屋さんなんだよ」
「でも、学園に通うのもタダではないのでしょ?」
「それは、ね」
「でしょうね…」
「でも、ね。このお店で働くと、学園で授業を受けている間も特別にお手当がでるから、大丈夫なのよ」
「へえ~、そうなんだ…」
なるほどぉ。
と、思わず聞き耳を立てていた俺も、感心してしまった。
従業員が成人前の幼い少女やご年配のご婦人ばかりなのにも拘らず職場の雰囲気が底抜けに明るいのも、納得の仕組み、だった。
児童労働で人件費を安く上げているかのように見えて実は、子ども達の将来を見据えた基礎教育を施している、というのが実態であったのだ。
むむむ。ここの経営者、凄いなぁ。
俺がこれまでに見た限りでは、正規雇用の三組と見習い雇用で一組分の計四組が十二の勤務枠をローテーションしているようなので、一組あたり三枠しか働いていない計算になるので不思議だったんだが…。
店で働いていない時間帯には学園で勉学に励んでいる、という事であれば、納得だ。
うん。超ホワイトな職場、というここのイメージにも合致する。
う~ん、感無量、だね。
世の中には、こんな場所も存在するんだなぁ。
けど。
大丈夫なのか?
こういう善良な見識で運営されている場所って、強欲な輩に恰好の餌食とされるものなんだが…。
「ねぇ、カイト」
「ん?」
お婆さん達と和気あいあいと会話を楽しんでいた筈のエイプリルちゃんが、何やら考え込みながら、俺の方へと向き直り話し掛けてくる。
「あなたと此処の契約って、一週間単位での自動継続、だったわよね?」
「ま、まあ。そうですが…」
「ふむ、ふむ」
「?」
「じゃあ、ね。次の契約から、わたくしとの交代制に変えましょう」
「へ?」
「カイトが不在の際には、わたくしがこの店の用心棒を務めるわ」
「は、はぁ…」
「うん。そうしましょう!」
「...」
「わたくしの実力であれば、このお店の防御も完璧よ!」
「いや、まあ、でも…」
「何かしら?」
「エイプリルお嬢様、店を破壊したら駄目ですよ?」
「失礼ね。その程度の加減、余裕よ!」
「え、えぇっと…」
美幼女が三度の飯より大好きなエイプリルちゃんが、可愛い店員さん目白押しなこの店に居たがるのは、分からなくもない。
魔物と対峙する際に醸し出すあの威圧感があれば、小さな店で粗相をするレベルの悪漢など、ひと睨みで追い払うことも可能だろう。
何だか俺の存在意義が跡形なく消滅しかかっている現状に、忸怩たる思いが無い訳ではない...が、別の意味での心配が頭をもたげる。
そう。
俺には、エイプリルちゃんが無礼なバカ男を物理で排除した結果として店舗が破壊される光景が、まざまざと目に浮かぶのであった。
けど。
店の従業員である女性陣には、筋肉モリモリで立派なガタイのお兄さん達に喧嘩を売って暴力に屈する非力な少女の姿しか思い浮かばないようだった。
そんな周囲の常識的な反応を見回して、エイプリルちゃんは、可愛く首を傾げる。
「あら?」
「...」
「まあ。こんな可憐な少女が、強面のならず者たちを撃退できるか不安なのよね?」
「...」
「う~ん、そうね。こんな感じで如何かしら?」
そう言って、エイプリルちゃんが、パチンと指を鳴らすと…。
俺は、何処からともなく現れた荒縄により、ぐるぐる巻きにされ、ポテッとその場に倒れ伏すのであった。




