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3.

 ゴスロリ美少女のエイプリルちゃんにド派手な専用衣装を着せられた美幼女のリリアンちゃんを見送った俺は、ここ数日で馴染んできた感もある街路をのんびりと歩き、今日もこの場所へとやってきた。


 店舗の正面上に「カナのパン屋さん」という可愛らしい看板を掲げた、然程は大きくない一軒のお店に。


 ここは、色々な意味で有名なお店、だ。

 街の住人にとっての誇りであり幸運の象徴でありながら、記憶の奥底へと埋もれ掛けている逸話の舞台。

 人の感情は複雑だ、と様々なことを考えさせられるエピソードに事欠かない場所なのだ。


 俺は、開店準備がほぼ整って後は営業開始の時間到来を待つばかりといった状態の店舗周辺をサクッと巡回点検してから、裏口へと回って店舗内に入る。


「おはようございます」

「おや、おはよう!」

「本日も、よろしくお願い致します」

「相変わらず堅苦しいねぇ~」

「ははははは」

「仕方ないわねぇ。じゃあ、申し訳ないけど、いつも通り、店内が見える場所で暫く待機ね」

「はい。承知しました」


 という訳で。

 さて、さて。本日も、外見と実力のどちらも非力感が満載な俺による、繁盛店の用心棒的なお仕事、を始めましょうかね…。




 * * *




 前日まで滞在していた近隣への影響力を誇る大きな農村での一連の騒動の後始末を終えた、ゴスロリ衣装がよく似合う美少女魔術師であるエイプリルちゃん。

 彼女は、嬉々として、俺たちが滞在しているこの街でも高級な宿の一室へと戻ってきた。

 そして、眠気もスッキリ解消してニコニコ笑顔となった美少女剣士のアーヤさんとご対面、満面の笑みで抱き着こうとして...フリーズしてしまった。


 突然の、アーヤさんの独立宣言に。


 この近辺でも随一の規模と繁栄を誇るこの街には、冒険者ギルドがあるので、腕試しと修行も兼ねてギルドのランク取得に挑戦してみたい。

 目指すのであれば当然、最低ランクではなく中堅クラス以上の評価を得ることを目標としたいから、当面の間はこの街に腰を据えて取り組もうと思う。

 だから、残念だけど、エイプリルちゃんのお家へと向かう旅には同行できなくなった。


 そう、エイプリルちゃんの顔を見るや否や、のほほんとした笑顔で(のたま)ったアーヤさん。


 うん、まあ、冷静に考えれば、納得のいく話ではある、よね。

 だって、アーヤさんが生まれ育った村を後にしたのは、武者修行の旅が目的だったからね。


 普段はフワフワおっとりと静かに微笑んでいるアーヤさんだけど、その本質は剣士様、なのだ。

 生まれ故郷の村での周囲の評価は微妙だったけど、凄腕の刀使いさんなので、思考形態は基本的に脳筋だ。

 つまり。武道に対する向上心は高く、チャレンジ精神も旺盛。


 そんなアーヤさんの目の前に現れた、冒険者ギルド。その実力と実績で付与されるランキング制度。

 うん、うん。絶対に、うずうず、してたよね?

 腕試ししたくて仕方がない心境、だったんだよね。


 俺は、アーヤさんらしいな、と納得だったけど…。


 エイプリルちゃんには、青天の霹靂だったようだ。

 けど、茫然自失から数秒後には自動復帰、猛然と巻き返しを図り始めた。


 はっはっはっはは。エイプリルちゃんの()がマジ、だった。

 灰色の脳細胞をフル駆動、ギンギンに見開かれた瞳でアーヤさんの一挙手一投足を漏れなく注視しながら、値引き交渉ならぬこの街への滞在日数削減の駆け引きを怒涛の勢いで展開した。


 が、しかし。天然だけど天性の勘も鋭いアーヤさんは、簡単には丸め込まれない。

 しかも。今回は特に自身の剣術を極める絶好の機会と確信している様子で、安易な妥協はなかった。


 いや~、凄かった。良い勉強になった。


 手に汗握る、迫真のシチュエーション。

 笑顔で、悪意なく、お互いの目的を叶えるための空中戦。

 俺の目の前で、のほほんと、真剣勝負の言葉による応酬が延々と繰り広げられた。


 その結論は、約一ヶ月間の滞在。

 エイプリルちゃんとアーヤさんの旅を一ヶ月後に再開する、で妥結したのであった。


 本当に。エイプリルちゃんは、頑張った。

 途中から涙目になってたけど、最後まで諦めなかった。

 アーヤさんと合意した後も、ロリ婆こと実家の侍女長さんであるローズさんとの交渉も熟し、最後は抜け殻のようになっていたけど完遂した。


 うん。立派、りっぱ。

 偉いぞ、エイプリルちゃん!


 と、まあ。そんな訳で。

 俺たちは、賑やかで繁栄するこの街に、長期滞在することになったのであった。


 で。

 そうなると、当然、俺にも時間的な余裕が出来てくる訳なのだが...俺個人として、将来を見据えると能力的にも金銭的にも厳しい状況であることに変わりはなく、呑気に遊んでいる場合ではないのは明白であった。


 まあ、人力車の車夫を兼ねた雑用係としての雇用は継続となり、使用人部屋と朝晩の食事は支給が継続されることになったので、当面の間は経済的に安泰と言えなくもない。

 が、しかし。空き時間は増えるし将来への不安が健在なままなので、唯々無為に過ごすのは愚の骨頂。


 という訳で。

 俺は、アーヤさん達のお供にて冒険者ギルドへと出向いた際に、自身も冒険者として登録し短期の仕事を請け負うことにしたのだった。

 そして。あれよあれよという間に、俺で良いのか?と思わなくもなかったが、不思議なご縁で、「カナのパン屋さん」での用心棒的なお仕事を請け負うことが、トントン拍子に決まったのであった。

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