2.
お馬さんのお世話は、大変だから。
そんなゴスロリ少女なエイプリルちゃんの発した鶴の一声で、街に到着して早々に呆気なく、小洒落た黒塗りの小型馬車は売却された。
二頭の立派な馬たちも、良い買い物をしたとホクホク顔の行商人っぽい人の好さそうな初老の夫婦に引き取られ、その後ろ姿を見送ることとなった。
そして。今、俺は、人力車を牽く車夫としてお仕事中、であった。
勿論、乗せているのはゴスロリ衣装を纏う魔術師少女のエイプリルちゃん。と、リリアンちゃん。
そう。何故だか、本日の乗客は、エイプリルちゃんと、ふわふわキラキラの金髪にパッチリと綺麗な碧眼と艶々で真っ白なプルプルお肌にド派手な専用ゴスロリ衣装を着た美幼女であるリリアンちゃん、の二人だった。
ちなみに。
さらさらストレートの長い黒髪を後頭部の少し高い位置で束ねた小柄でスラリとした体形のストイックでクールビューティな美少女剣士であるアーヤさんは、お宿でお昼寝中。
うん。相変わらず、強者でありながらもポワポワと掴み処のない美少女お姉さま、である。ははははは。
閑話休題。
この近辺ではピカイチの発展具合を誇示する街中を、俺が牽く人力車は、颯爽と進んで行く。
珍しさもあってか絶妙に注目を浴びている、人力車。
そんな、エイプリルちゃんが再出現させたお馴染みの豪奢な人力車を牽き、俺は、街中をテッテケテケテケと進んでいる。
具体的な行先は聞けなかったのだが、進行方向についてはエイプリルちゃんから適時に端的な指示がある。
ので、何も考えず無になって進んでいる訳なのだが...どうやら、これ、街の外へと向かっているようだね。たぶん。
うん。前方に、近隣の都市間を結ぶ主要道ではなく長閑な感じで深い森に向かう街道へと続く住民が日常使いしているっぽい気持ち小さめの門が、見えて来た。
街道のド真ん中に、一瞬前まで存在しなかった小さな美女が、仁王立ちしていた。
そう、仁王立ち。
空から降ってきた、かのように...って言うか、飛び降りて来た、よね?
シュッタッと、着地したよね?
マジですかぁ…。
見覚えある、耳の先っぽが少し尖った童顔にツルペタ体形を装備した女性。
うん、うん。アレだね。
見た目は美幼女、頭脳は大人。って奴だよね。
名探偵Kナンも吃驚の、ロリ婆さまの再登場、だった。
はっはっはっはは…。
ギロリと、見ため幼女さまが、こちらを睨む。
いかん、遺憾。ヤバい。
ローゼさんを怒らすと、拙いのだ。冗談抜きで。
エイプリルちゃんと顔を合わせる度に楽しい掛け合い漫才を見せてくれるからと油断してたら、首が飛ぶ。
勿論、被雇用者の立場という意味で。
いや、まあ。当然ながら、物理も容易そう、なんだけどね…。
エイプリルちゃん曰く、侍女長さんであり魔術の先生でもあるローゼさんは、色んな意味で要注意人物。
そう。働き口の確保は重要だが、人生の下剋上を可能とする魔術修得のチャンスを逃さないためにも、是非とも、懇意にしておきたい人物なのだ。
まあ、前途は多難、だけどね。とほほほほ。
「お嬢様、お迎えに参りましたぞよ」
「はい、はい。ご苦労様」
「やっと、お屋敷に戻る気になられましたかな?」
「いいえ」
「な、なんですとぉ~」
うん。お約束、なんですね。
ははははは。
ぎゃあぎゃあと、仲良く二人で騒ぎながらも、何気にキッチリとこの後の行動の打合せをするお二方。
パッと見は、美少女と美幼女が微笑ましくも仲良くじゃれ合っている。
のだけど、その実態は、言葉による殴り合いの応酬、という…。
まあ、お二方が実に楽しそうだし、必要事項の取り決めもバッチリのようだから、これで良いのだろう。たぶん。
俺とリリアンちゃんを蚊帳の外におき、高度な頭脳戦が十数分間に渡り繰り広げられた結果、どうやら決着が付いたようだった。
「リリアンちゃん。後は、あの見た目は幼女なお婆様の指示に従ってくれるかな?」
「は、はい。分かりました」
「お婆さまではなくお姉さまじゃ!」
「はいはい、理不尽な要求は控えなさいね」
「どこが理不尽じゃ!」
「うんうん。現実は、素直な心で受け入れないとね?」
と、まあ。言葉によるジャブとフックの応酬は止め処なく続く一方で、予定は滞りなく進んでいく。
着慣れない豪華でヒラヒラなゴスロリ衣装に戸惑いの表情を浮かべつつも、リリアンちゃんが、人力車を降りて通称ロリ婆が定着した感のあるローズさんの元へと移動。
口は機関銃のように動かし続けながらも合間に魔術を発動し、何もない空間から続々と何やら荷物を取り出してはローズさんへとぶっ飛ばす、エイプリルちゃん。
平然と遅滞なく受け取った荷物を、これまた悪態をつく合間に魔術を駆使しながら何もない空間に収納する、ローズさん。
曲芸の様な荷物の受け渡しが終わると同時に、リリアンちゃんがローズさんの元へと辿り着く。
と。幼いエルフっぽい美幼女のローズさんが、究極のロリータ美幼女であるリリアンちゃんをガシッと抱え込み、真顔になる。
「では、お嬢様。お早いお帰りをお待ちしております」
「頼んだわよ」
ローズさんが綺麗に一礼し、いつの間にか出現していた小型の雲に飛び乗った。
リリアンちゃんを抱えたまま、サクッと1メートルほどジャンプして。
ん?
んんん?
「エイプリルちゃん。あれって…」
「ああ、キントーンね」
「は?」
「空飛ぶ雲と言えば筋斗雲だけど、言い難いらしいからキントーンって名付けたのよね」
「えええ?」
ドラGンボールか?
いやいや、西遊記?
って言うか…。
ひゃ~、というリリアンちゃんの奇声と共に、キントーンがドビュンと飛んで行く。
アッという間に小さくなって、晴れた空の彼方へと消えていった。
「さて。用事も済んだし、戻るわよ」
「は、はぁ…」
寡黙となり追加の質問を完全にシャットアウトしたエイプリルちゃんを一人乗せ、俺は、トボトボと人力車を牽き街へと戻るのであった。




