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4.

 煩悩に勝てず天国に召され、現実に戻って地獄に落ちる。


 ここ暫くの俺は、過激なジェットコースターに初めて無理やり放り込まれた乗客の心境を堪能していた。

 そう。人生とは(まま)ならないもの、なのだ。

 この世は、諸行無常。それが通常運転。


 俺単独での悪戦苦闘は何の成果も得られず、豪華な村営集会所の貴賓室に滞在したまま数日が経過した。


 丁重な態度での露骨な足止めに、(てい)のいい退去の口実を提示できず、絶好の機会(チャンス)も見い出せない。

 ほとほと、自分の対人交渉力の皆無さには愛想が尽きた。

 とほほほほ。無念。


 美少女剣士なアーヤさんは能天気に笑い、ゴスロリ魔術師なエイプリルさんは不敵に微笑む。

 そんな数日間を、俺は無為に過ごしていたのであった。






 村の集落内を歩くと、何処からともなく唐突にシンシア嬢が湧いてくる。

 ボンきゅんバンな完璧お色気お嬢様が、問答無用で、俺の右腕に密着してくるのだ。


 一瞬、俺の脳内が桃色に染まる。が、迅速に立て直し、適切な距離と紳士的な態度にギア変換(チェンジ)


 はっはっはっはは。

 うんうん。俺も、少しは進歩するのだ。


 流石にここまで頻繁だと慣れも出てくるし、何と言うか...そう、お嬢様には熱意がない、のだ。

 残念というか、自分が情けないというか。客観視し冷静に観察してみると、シンシア嬢の瞳が死んでいることに嫌でも気付く。


 うん、彼女も必死なんだよなぁ。

 と、理解できてしまったら、もう、煩悩など綺麗さっぱり何処かへと去っていく。たぶん。


 相も変わらず規格外なゴスロリ少女なエイプリルちゃんの諜報魔術から得られた情報によると、容姿端麗な妖艶美少女であるシンシア嬢は、現在、窮地に立たされている、らしい。


 魔物襲撃の被害を免れ生き残って男性陣のカースト最高位に繰り上がった男が、ダメ駄目、なんだとか…。


 その男を村のトップとして遇するかどうかで議論が紛糾する程に、全てに於いてイマイチな人物らしい。

 しかも。過去の関係は不明だが、シンシア嬢は、その男からは現在、相当に嗜虐的な対応をされているようなのだ。


 それは、まあ、逃げるよね。

 傍に侍っても安泰とは決して言えないし、自分を大切にしてくれない人には余程の事情でもない限りは従えない。

 そこは、まあ、当然と言えば当然。


 けど。そこに俺を巻き込むのは、勘弁して欲しい。


 え?

 もしかして、きちんと報酬は払っている、って趣旨?


 むむむむむ。

 当初は盛大に鼻の下を伸ばしていた自覚があるだけに、反論し難いけど...やっぱり、ご容赦願いたいなぁ。




 * * *




 俺は、超絶な塩対応と化しているゴスロリ少女なエイプリルちゃんから申し付けられた課題を達成すべく、本日も村の中を徘徊していた。


 そして。気が付くと、三下多数を引き連れたガラの悪い細マッチョに見えなくもない小柄で貧相なおっさん達に接近されていた。


 んんん?

 いや、まあ。ガラが悪いとか、見ためが貧相とか、初対面で悪し様な評価をしてしまう俺も良くはないと思うのだが...その、何て言うか、雰囲気が良くないんだよなぁ。


 しかも。どう見ても俺に、ガンを飛ばしてきているし。


 そう。悪意と馬鹿にした空気を盛大かつ一直線に此方へ放出しながら、物理的には下からなのに見下してくるのだ。


 まあ。馴染みある光景、ではある。

 うん。つい最近まで、生まれ育った村に居た頃には、こんな感じでよく絡まれていたよなぁ。

 何故だか、人畜無害で弱者な立場の人物を虐めて鬱憤を晴らそう、という人種は巷に溢れているのだ。


 けど、まあ、ね。

 ここでの俺の立場は、村の恩人の付き人、として周知されている訳で…。


 つまり。卑屈になる必要など全く無く、決して下手に出てはイケない立場、なのだ。


「おい、おい、にーちゃん。困るなぁ」

「はぁ」

「余所者が、大きな顔をしてるんじゃねぇぞ」


 ビクリッ、と怯える気配。が。背後で発生する。

 そうそう。今、俺は、村人の少女にお話を聞いている最中、だったのだ。


 村長さん宅で見習い使用人として働いている、リリアンちゃん。


 ガリガリ貧相な体形で全体的に薄汚れた感じが漂い、ボサボサになった髪で顔の大部分が隠されている。

 けど、よく見るとロリ系の美幼女さんで、この子は絶対に磨けば光る逸材、だと思う。

 うん、俺の見立てに間違いはない、筈だよ。たぶん。


 そんな磨けば美幼女の有力候補なリリアンちゃんから、村や村長宅の日常についてのお話を聞いていた訳なのだが…。


「おい、こら、ヨソ見してんじゃねえよ!」


 何故かブチ切れて額に青筋など浮かべながら拳を振りかぶって間合いを詰めてくる、細マッチョ風なガラの悪いおっさん。

 その後ろに続く、ニヤニヤ笑いながら俺の包囲網を構築しようという意思を一応は見せてチンタラ寄って来る、三下の皆さん。


 う~ん。


 見慣れ過ぎていて、驚きも恐れも全く涌いて来ない。

 ある意味でステレオタイプながらも、熟練度と脅威度の低い攻撃が、スローモーションのようにコマ落ちで迫って来る。

 ああ~、もしかして。これって、避けちゃうと拙い奴、だったりするのかなぁ?


 なぁ~んて、のほほぁ~んと考えていたら…。


「へぶし」

「うきゃ」

「ぎゃあ」


 中々に聞き応えあるユニークな擬音を発しながら、貧相悪人面おっさんとその取り巻き数名が、ぶっ飛んで行った。

 そう。見覚えのある、綺麗な放物線を描いて。


 やな感じ~。とでも叫んでいそうだ。

 うん。ポKモンに登場するロKット団の面々が持ちネタとして披露している、アレ、だね。


「ほんと、嫌になっちゃうわね、低能すぎて」

「...」


 汚物か害虫を見るかのような眼差しに嫌悪感がテンコ盛りな表情を添え、ゴスロリ魔術師であるエイプリルちゃんが登場したのだった。

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