3.
超絶有能な魔術師であるエイプリルちゃん謹製の、諜報の魔術によって、この村の現状は把握できた。
うん、まあ、予想通り。そこはかとなく、ヤバそうな雰囲気が漂っている。
勿論、魔術により編纂された報告書を俺が実際に読んだ訳ではなく、エイプリルちゃんからの伝聞情報な訳だが…。
この村の指導者層であった男性陣は全滅した模様。
残った役職持ちの女性たちは、亡くなった男たちの後ろ盾あってこその立場であり、どうやら指導力や行政能力など皆無な人たちばっかり、な状況らしい。
まあ、よくある話、だよね。
美貌と手練手管で地位と名誉と財産を持つ男を誑かし、カースト上位の立ち位置を確立するボンきゅんバンな美女たち。
それもまた、弱肉強食な競争社会を生き抜くための立派な処世術。なので、俺がどうこう言うような話では、ない。
ただ、まあ。腕力と知略を担っている目ぼしい男たちが全滅するという今回のような不幸な事態に見舞われた場合、既存の体制が一気に崩壊する、といったデメリットが表出してしまうのだ。
長年に渡って君臨した歳の功により実務能力が覚醒した女傑が埋もれていたりすると、そんな問題も帳消しになるモノだが...うん、残念ながら、この村には現れなかったみたい、だね。
つまり。この村の執行部は、機能不全に陥っている。
そうなると、現在進行形にて下剋上やら裏切りやら人材流出やらが絶賛進行中な訳で、それに巻き込まれると悲惨な状況が待っている。
いや、まあ。火事場泥棒ならぬ危機に駆け付けた救世主として、美女も財宝も選り取り見取りで脚光を浴びる絶好のチャンス、と言えなくもないけど…。
うん。分不相応な欲をかくと、碌でもない事態に陥るのは、間違いない。
という事で。君子危うきに近寄らず、だよね。
そう、三十六計逃げるに如かず。ここは潔く、撤退あるのみ、だ。
どんな名目を付けて流れるように自然とこの村から立ち去るか、俺の錆びた頭脳の見せ処?
はっはっはっはは。
* * *
で。どうして、こうなった?
なぜだ?
何が起こっている?
さらさらストレートの長髪ツインテール。
ボンきゅんバンの完璧お色気お嬢様な体形。
そんな、規模が大きく豊かな農村で立派なお屋敷に住み贅沢の限りを尽くしているであろう村長一家の一人娘が、何故だか俺に言い寄って来ている。
「カイトさま~」
「...」
「どうか、こちらを向いて下さいませ」
とうとう俺にも、モテ期、到来か?
いやいや、ないない。あり得ない。
そうだ。冷静に、状況と俺の立ち位置を検証してみよう。
って言うか、考えるまでもなく、容姿端麗な村長の娘である妖艶な少女が俺に好意を寄せる理由など無い!
俺が、魔物殲滅に一切の貢献をしていないのは周知の事実、だ。
俺は、凄腕剣士と剛腕魔術師の単なる金魚の糞、だと村中に知れ渡っている。
俺の、人力車の車夫という立場には確たる保証がない、という現実は周囲の共通認識な筈だ。
うん。俺を落としても御利益が何も無いのは自明の理、だよね。
なのに、何故か、容姿大人な女性の美少女が俺に迫って来ている。
物理的に、かつ積極的な攻勢をかけて来ている。
具体的に言うと、甘い言葉と態度と共に、ベッタリしなだれかかってくるのだ。
オカシイ。変だ、何かの間違いだ。
というか、これは、罠だ。トラップだ。美人局に違いない。
だから、俺は、可及的速やかに戦力的撤退を敢行すべき、なのだ。絶対に。
うっ。頭では分かっている、解かってはいる...のだが、身体が言うことを聞かない!
こ、これが、男の性、って奴なのか?
ヤツなのかぁ~!
むむむむむ。初体験だな、これ。
大変遺憾ながら、実戦経験なしの素人には、怒涛の色仕掛けを冷静に回避する能力など存在しなかった。
そう。理解はしていても、実力が伴わない。
絵に描いた餅。画竜点睛。
この少女のような俗に言う、良い女、ってタイプの若い女性は、常に集団カーストの上位に食い込んでいる。
筋肉馬鹿や狡猾策略家の横に侍り、立場が下位の男たちを見下しバカにしてガシガシ踏み付ける。
つまり。
俺のように最下層を彷徨っている男は、ずぅ~っと、この手のタイプの女のお陰て酷い目に遭い続けるのだ。
だから。トラウマとなって生理的に受け付けない、筈なのだが...なぜだぁ~、カラダが違う反応をする。
く、くそぉ~。悔しいぞ。
頑張れ、俺!
負けるな、俺!
今こそ、根性だぁ!
全ての気力と理性を振り絞って何とかスゴスゴと退散し、疲弊し切った俺。
そこに。容赦なく、ゴスロリ少女の冷めきった鋭い視線が突き刺さる。
うっ、イタイ。視線が痛い、です。身の置き場所がありません。
これは、物理的にもヤバい奴、だ。
早急に何とかしないと、失職の危機。
拙い、不味い、マズイぞぉ~。




