8.和真の執着
「くそっ、雪乃のやつ、警告ってなんだよ!」
和真は書類をくしゃくしゃに丸める。読んでいたのは、ストーカー規制法に基づく警察からの警告書で、雪乃に対してメッセージの送信やつきまとい行為を止めるようにという内容だった。
「ストーカーなんてしてねぇよ!ただメッセージ送ったり会いに行っただけだろう!」
無駄にプライドが高い和真にとって、雪乃から別れを告げられたことは受け入れがたいことだった。デート代は全部出してあげて、行きたい場所に付き合ってあげた。雪乃にとって良い彼氏だったはずだ。自分は間違っていない。雪乃の誤解を解かなければ。そう思って必死に連絡を取り、話すタイミングがないか雪乃の生活範囲で彼女を探した結果がこんなことになろうとは、思ってもみなかった。
(そうだ、雪乃は悪い男に騙されているんだ。助けてやらなきゃ)
恋人からの別れを受け入れられないときにありがちな妄想に、和真はどっぷり浸かっていた。とはいえ、これ以上雪乃に関われば警察からどんなことをされるか分からない。下手すれば、逮捕されるかもしれないのだ。そこまで考える理性が、まだ和真には残っていた。
(つまり、俺が直接雪乃に会わなければいいんだよな…)
そう考えた和真は、探偵を頼ることにした。
恋人が不定行為をしているか調べて欲しい。探偵は和真の依頼に疑問を持つこともなくすんなりと依頼を引き受けた。
探偵は、雪乃のアパートの近くで様子を伺う。すると、美月が来て雪乃の部屋に入った。
数時間後、大きなバックを持って部屋から出てきた2人は、美月の車に乗り込んだ。探偵が後を追うと、向かった先はリサイクルショップだった。
店から出てきたとき、持っていたバックの中身は少なくなっていた。買い取ってもらえなかったものが入っているのだろうと、探偵は目星を付ける。
2人はコンビニに寄った後、雪乃のアパートに戻り、しばらくして美月は自宅に帰った。その後、雪乃に動きはなく、探偵はその日の調査を終わらせた。
探偵は調査をするにつれて、可燃ゴミと不燃ゴミの日は雪乃が一人暮らしとしては多い量のゴミを出すこと、週末に美月が来ていること、頻繁にリサイクルショップを利用していることに気がついた。しかし、肝心の不貞の証拠は得られなかった。
「…調査結果としては、雪乃さんは不貞行為をしていませんでした。ただ、生活状況から恐らく引っ越しの準備をしていると考えられます。」
探偵から調査報告を聞き、和真はほっとすると共に不思議に思っていた。雪乃が不貞行為をしていなかったのは良かったが、それならなぜ自分は振られたのか。それに、引っ越しとは一体どういうことだ。雪乃の考えが分からないストレスは、次第に憎悪になり、和真を繋ぎ止めていた理性が切れようとしていた。