6.異母姉妹の対面
1時間後、美月が最寄駅に行くと、写真で見た黒髪が印象的な女性が待っていた。
「橘雪乃さんですか?」
美月が声をかけると、雪乃は振り向いた。
「はい、そうです。佐藤美月さん?」
「はい、そうです。はじめまして。」
「はじめまして。」
2人は近くのカフェに移動した。今の季節は夏。美月はアイスカフェラテ、雪乃はアイスキャラメルマキアートを注文する。
雪乃は少し落ち着かない様子で、それは生まれて初めて異母姉と対面しているからだと思った美月は話しかける。
「お互いに姉妹がいるなんて信じられませんね。私は母子家庭で、兄弟姉妹が欲しかったので、嬉しいです。」
「そうだったんですね。美月さんはどんな仕事をしているんですか?」
「メーカーの経理部で働いています。雪乃さんは?」
「私はSEの仕事をしてます。」
お互いにドリンクを飲みながら当たり障りのない話をしていると、雪乃のスマホにメッセージが届いた。それを見た雪乃の顔が凍りついた。
「ちょっと用事ができたから帰ります。」
「え、雪乃さんどうしたの⁉」
突然の出来事に美月は驚いたが、雪乃はそのまま足早に店を出た。
夜、雪乃から電話がかかってきた。
「美月さん、昼間はいきなり帰ってしまってごめんなさい。」
「それは大丈夫ですけど、何かあったんですか?」
「実は、元彼にストーカーされてて。本当はブロックしたいんですけど、ネットで調べたら相手が逆上するかも知れないからダメって書いてあったからしていないんです。今日は『僕には会ってくれないのに友達には会うんだね。』ってメッセージが来たんです。それで怖くなって帰ってしまいました。」
美月と雪乃が異母姉妹だと知らない元彼から見れば、2人は友人に見えたのだろう。メッセージの内容からして、元彼はどこからか雪乃を監視していたのだ。
(それってヤバいやつじゃん‼)
「元彼は美月さんのアパートを知っているんですか?」
「はい、付き合っているときに何度か遊びに来たことがあるので。」
「お母さんや警察には相談しましたか?」
「母には心配かけたくないので話していません。警察にも、大事にはしたくないので相談していません。」
(まあそうだよね~)
美月は言葉に詰まった。せっかく出会った異母妹を助けたい。考えたくもないが、ストーカーは相手を手に入れるために最悪の手段を取ることがある。何かあってからでは遅いのだ。
そこで、美月はある提案をした。
「もし良かったら、うちで同居しませんか?亡くなった母が使っていた部屋が余っているんです。正直、今までずっと母と2人暮らしだったのにいきなり1人になったから寂しくて。いい大人なのに恥ずかしいんですけど。」
美月が自嘲気味に笑うと、雪乃もつられて笑った。
「あと、やっぱり警察には相談しましょう。私も付いていきます。何かあってからでは遅いですから。」
「でも、美月さんに迷惑をお掛けするわけには…」
「迷惑なら言っていないです!今まで会えなくて出来なかった分も姉らしいことさせてください。とりあえず、来週警察に行きましょう。」
「分かりました。ありがとうございます、お姉ちゃん。」
「…っ、どういたしまして、雪乃。」
2人は笑いあって、お互いの距離が縮まったのを感じながら電話を切った。