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16.記憶を求めて

芽生とのランチのあと、午後の仕事を終えた美月は「自分を信じる」というアドバイスを受けて、記憶がなくなる前のように残業せずに定時で帰った。


「ただいま。」

いつもより早く帰宅した美月を見て、雪乃は驚いた。

「お姉ちゃんお帰り。今日は早かったね。」

「うん、定時で帰ってきた。」

「そうなんだ、夕飯の準備するね。」

そう言ってパタパタと台所に向かう雪乃を見て、雪乃は過去の自分と雪乃を信じようと心に決めた。


雪乃が準備した夕飯を2人で食べていると、雪乃が意を決したように話し出した。

「お姉ちゃん、私との生活、ストレスになってない?」

急な質問に美月は食事の手が止まった。

「急にどうしたの?」

雪乃も箸を置いて言葉を繋ぐ。

「お姉ちゃんの記憶が戻らないのは、他人の私が同居していることがストレスになっているんじゃないかって。それに、今日は帰ってくるの早かったけど、今まで残業してたでしょ?被害妄想だって言われればそれまでだけど、私と一緒に居たくないんじゃないかなって。元彼のことがあったから同居させてもらったけど、もうその必要はなくなったわけで、もし1人で暮らしたかったら出ていくから遠慮なく言ってほしい。」

(雪乃にこんなことを言わせるなんて…。身から出た錆だけど、私は姉失格だ…)

雪乃の告白に、美月は言葉に詰まった。2人の間に沈黙が落ちる。しばらくして、美月はゆっくりと言葉を紡いだ。

「私がぎこちない態度だったから不安にさせちゃったね。確かに、最初は朝起きたらいきなり妹が現れて、どう接していいか分からなかったよ。でも、ストレスに思ったことはないよ。家事も手伝ってくれるから助かってるしね。それに、幸い日常生活に問題はないから、記憶を失ったことはあまり気にしてないよ。戻るかどうかは、自然に任せようと思ってる。」

美月の言葉を聞きながら、雪乃は安堵したあと、複雑な表情を浮かべた。

「お姉ちゃんが記憶を失ったことを気にしないでくれているのはありがたい。でも、長くはなかったけど、お姉ちゃんが警察署に付き添ってくれたり、2人で引っ越しの準備したり、一緒に過ごした思い出を私しか覚えていないのは寂しい。」

「そうは言っても、記憶を思い出す方法もタイミングも分からないよ…」

今度は雪乃が言葉を詰まらせた。再び沈黙が落ちる。それを破ったのは雪乃だった。

「ありきたりかもしれないけど、私たちが行った場所にもう一度行ってみない?」

「分かった。それでも思い出せなかったら、私も諦めがつくしね。」

雪乃の熱意に根負けした美月は、彼女の提案を受け入れることにした。


休日、美月と雪乃は最初に出会った、雪乃の実家の近くのカフェに来ていた。そのときは夏で、美月はアイスカフェラテ、雪乃はアイスキャラメルマキアートを飲んでいた。時間が経つのは早いもので、いつの間にか肌寒い季節になっていた。そのため、2人は同じドリンクのホットを注文する。

「最初に会ったときは、この席に座っていたんだよ。」

雪乃に案内されて、2人は以前と同じ席に座る。

「初めて会ったときは、元彼にストーカーされてたから、外出するのが怖かったんだよね。こうやって話しているときに、監視されてるメッセージが来て、慌てて帰ったんだ。」

雪乃が当時のことを説明する。

「そうだったんだ。逮捕されて本当に良かったね。」

美月は温かいカフェラテを飲みながら頷いた。2人はお互いの会社での出来事や、話題の歌手の話で盛り上がり、楽しい時間を過ごした。


その後、掘り出し物発掘も兼ねて、2人はリサイクルショップに向かった。

「私が住んでいたアパートからお姉ちゃんの家に引っ越すときに、要らないものを売りに来ていたんだよ。」

雪乃が再び説明する。

「なるほどね。せっかくだから、いいものないか探そう!」

以前にリサイクルショップに来た記憶がない美月は、物珍しそうにきょろきょろしている。

「今使っているペアのマグカップ、ここで買ったんだよ。」

「そうなんだ。リサイクルショップって何でもあるんだね。」

2人はしばらく店内を物色した。雪乃は何も買わなかったが、経理部でデスクワークが中心の美月は「有名整骨院監修!姿勢が良くなるクッション」という代物を購入した。

そのクッションを休み明けに会社に持っていった美月が同僚たちとその話題で盛り上がっていたところ、総務部のお局に「あなた、姿勢悪いものね」と嫌味を言われ、帰宅して雪乃に愚痴ったのはまた別の話である。


しかし、最終的に美月が記憶を思い出すことはなく、いつも通りの生活に戻っていった。

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