13.記憶喪失 雪乃side
朝起きたら、知らない女が台所で料理をしている。
そんな状況で半分パニック状態の美月に、自分は異母妹だと説明してなだめながら、雪乃は美月を入院していた病院に連れてきた。
検査の結果、脳に異常はないと分かり、雪乃はほっと息を吐いた。しかし、美月は雪乃と出会ってからの記憶がすっぽりと抜けていた。それ以外は健康そのもので、日常生活に支障はなかった。美月の代わりに雪乃が話を聞いた。
「過去の記憶を思い出せなくなる『逆行性健忘』です。おそらく、頭部外傷による影響でしょう。」
「記憶はいつ戻りますか?」
「はっきりとは分かりません。数日で戻ることもあれば、数ヶ月かかることもあります。」
「数ヶ月…」
「焦らずに回復を待ちましょう。頭痛や吐き気が出てきたらすぐに来てください。」
「分かりました。ありがとうございます。」
2人は家に戻り、状況を整理する。美月はまだ少し混乱しているので、雪乃から話す。
「さっそくだけど、私は雪乃。あなたの異母妹です。」
「私に妹がいたなんて信じられないけど、そうなんだ…」
「亡くなったお母さんからの手紙はどこにあるか分かる?」
美月は頷くと、自室に戻って手紙を持ってきた。確認も兼ねて2人でそれを読む。
「つまり、私の父親の雅人さんが、母と別れた後に結婚した女性との間にできた子供が雪乃ってこと?」
「そういうこと。」
雪乃が頷くと、美月の表情が少し緩んだ。
「雅人さんは今どうしているの?」
「3年前にガンで亡くなったよ。」
「どうして一緒に住むことになったの?」
「私、元彼にストーカーされてて。それを知ったお姉ちゃんが元彼の知らないこの家に来ないかって提案してくれたの。でも、元彼は探偵を雇って居場所を突き止めて、飲み会の帰りに襲われた。そのときにお姉ちゃんがかばってくれたんだけど、頭を打って記憶喪失になったの。でも、元彼は逮捕されたから大丈夫だよ。」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう。迷惑かけるかもしれないけど、よろしくね。」
美月は自分が記憶を失ったことが信じられない、という感じで力なく笑った。
美月の記憶喪失は日常生活に支障はないため、2人の生活に変化はなかった。しかし、以前と比べてどこかよそよそしい美月の態度に、雪乃は内心ショックを受けた。
思い返せば、和真からのストーカーを避けるために同居を提案してもらったのであり、彼が逮捕された今、その必要はない。毎月の家賃や水道光熱費を払ったり家事をしているものの、美月にとって他人との生活はストレスだろう。
いっそこの家を出ていったほうがいいのだろうか。しかし、それだと記憶を失って混乱している美月を見捨てることにならないだろうか。
表面上は以前と変わらず接しているものの、葛藤を抱えたまま時間だけが過ぎていった。




