12.和真の襲撃 後編
美月が目を覚ますと、白い天井が目に入った。蛍光灯が眩しくて目を細める。意識がはっきりするにつれて、記憶がはっきりしてきた。
「…雪乃‼…ったぁ…」
急に飛び起きたからか、頭が鈍く痛んだ。触れると、包帯が巻かれているようだ。
「お姉ちゃん、気がついた?」
顔を上げると、雪乃がベットサイドの椅子に座っていた。
「うん、雪乃は怪我してない?」
「お姉ちゃんがかばってくれたから大丈夫だよ。ありがとう。」
お互いの無事を確かめ合ったあと、雪乃は美月が気を失ってからのことを話してくれた。
「あの後、バックに入ってた防犯ブザー鳴らして大声で助けを求めたら、周りの人たちが気づいて警察と救急車を呼んでくれたの。和真は逃げようとしたけど、警察官に取り押さえられて、傷害と公務執行妨害で逮捕された。お姉ちゃんは脳震盪みたいだけど、念のため2、3日入院だって。」
「そっか。元彼は逮捕されたんだ。これで安心だね。あ、2、3日休むって会社に連絡しなきゃ。」
美月がほっとしていると、雪乃が抱きついてきた。
「おわっ!雪乃どうしたの?」
「お姉ちゃんのばか!意識が戻らなかったらどうしようかと思った~!」
雪乃の声は震えていた。よほど心配をかけたらしい。
「心配かけてごめんね。もう大丈夫だから。」
美月は優しく雪乃の背中をなでた。
その翌日は、仕事がある雪乃の代わりに連絡を受けた紫乃がお見舞いに来てくれた。紫乃は着替えから日用品まで、新しいものを揃えてくれた。
「サイズは雪乃と同じものにしたわ。さすがにデザインの好みまでは分からなかったから、気に入らなかったらごめんなさいね。」
「すみません、ありがたく使わせていただきます。」
「いいのよ。娘の命の恩人なんだから、これくらいさせてちょうだい。」
紫乃は足りないものはないか、不便なことはないか、かいがいしく世話を焼いてくれたが、母子家庭で幼い頃から自分のことは自分でやってきた美月は恐縮しっぱなしだった。
入院中の検査でも異常はなく、医師のお墨付きをもらって美月は無事に退院した。
翌日、美月が出社すると、上司や同僚たちが心配そうに声をかけて来た。
「佐藤さん、大丈夫ですか?」
「急に休んでしまってご迷惑おかけしました。」
「そんな、とんでもない。ニュースでもやってましたよ。すぐに犯人が逮捕されて良かったですね。」
「本当に。日本の警察は優秀ですね。」
「体調が悪くなったりしたら言ってくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
美月は周囲の気遣いに感謝しつつ、溜まっていた仕事に取りかかった。
事件から約1週間後。異変は突然起きた。
朝、雪乃はいつも通り2人分の朝食とお弁当を準備していた。美月が起きてくる気配がして、朝食をリビングのテーブルに配膳する。美月がリビングに入ってきた。
「お姉ちゃんおはよう。」
雪乃が挨拶をすると、美月はその場に立ち尽くしたままとんでもない言葉を口にした。
「…どちら様でしょうか?」
「…は?」
雪乃は、これ程自分の耳を疑ったことはなかった。




