9.同居生活の始まり
引っ越しに伴う諸々の手続きが終わるのを待って、雪乃は美月の家にやって来た。最初は気を遣い過ぎたり、生活リズムを掴むのに苦労したが、次第にお互いの生活習慣が分かってきた。雪乃は、前に住んでいたアパートより最寄駅までの距離が短くなったと喜んでいた。
雪乃と同居したことで、美月にとって嬉しい誤算があった。ある朝、美月が起きると雪乃が台所に立っていた。
「おはよう、雪乃。今日は早いね。」
「あ、お姉ちゃんおはよう。ここでの生活にも慣れてきたから、またお弁当作ろうと思って。引っ越す前は、お昼ごはんはお弁当作って持って行ってたんだ。それをSNSにアップしてたの。」
そういって雪乃が見せたスマホの画面には、シンプルだが栄養バランスが考えられたお弁当の写真が並んでいた。フォローワーの数は1,100人ほど。中々の数だ。
「雪乃偉いね。どれも美味しそう。」
「市販のお弁当とかお惣菜も美味いけど、毎日買ってるとお金がかかるからね~」
料理は好きだが洗い物が面倒で、食事はコンビニや会社帰りのスーパーの値引き品で済ませていた美月は、ぐうの音も出ない。
「お姉ちゃんの分も作っておいたよ。いつもお昼は買ってるでしょ?これからは私が作るね!」
(マジか‼ありがたい‼)
料理は雪乃が担当すると決めたが、あくまで夕食だと思っていた美月は心の中でそう叫んだ。雪乃が差し出してくれたお弁当をありがたく受け取り、美月は会社に向かった。
昼休み、美月がお弁当を食べていると、同僚たちが話しかけてきた。
「佐藤さん、今日は手作りのお弁当なんですか?」
「そうなんです。同居し始めた妹が作ってくれたんです。」
「妹さんいたんですね!」
美月は今までの経緯を手短に説明する。同僚たちは目を丸くして驚いた。
「『事実は小説より奇なり』っていうけど、本当にそんなことがあるんですね~」
「そうなんです。これからは今まで会えなかった分も仲良くしていきたいと思ってます。」
そんな話をしているうちに、昼休みは過ぎていった。
1日の仕事を終えて美月が帰宅し、夕飯とお風呂を済ませて一息付いていたとき、雪乃が「お姉ちゃん、ちょっといい?」と声をかけて来た。
「どうしたの?」
「お母さんに引っ越したことを伝えたほうがいいかなって思って。実際にこの家に来てもらって、3人で話したいんだけど、どうかな?」
「そうだね。私は土日ならいつでも大丈夫だから、紫乃さんの予定確認してくれる?」
「分かった、電話してくるね。」
数分後、電話を終えた雪乃が戻ってきた。
「今週の日曜日に来ることになったよ。」
「分かった。」
美月と雪乃は、紫乃にどう説明するか作戦会議をすることにした。




