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ドクター・パラドックス  作者: たかなしコとり
前編

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第9話 停戦


翌日は補給が届く日だった。

まだ医務室のベッドに鎖でつながれている状態だから、あちこち見て回れるわけじゃないが、小さいはめ込み窓から外は少し見える。日が高くなったころ、人の動きがあわただしくなって、やがて荷物を積んだフォークリフトっぽいのとか、箱を持ったおじさん達とかがうろうろしはじめた。


ドアが開いて、クーガが箱を二つ持って入ってきた。

「お待ちかねの、医療資材だぜぇ。」

トイレットペーパーの予備でも入っているのかと思うほどの大きさの箱だが、開けると、トイレットペーパーの代わりに、似たような巻いた白テープがいっぱい入っていた。

「これは?」

「これが止血テープ。必要な分だけ切って、貼る。」

ただの包帯でもない。ちょっと貼付剤に似た素材で、おでこに貼る冷却シートにも似た手触りだ。

「これさえあれば、ほぼ医者いらないんだけどな。」

それも困る。ユーリィに、役立たずは出て行けとか言われそうだ。


箱を開けて、中のものを棚に並べていると、車いすのユーリィが一人でやってきた。

「止血テープ来たんだよね? ここ貼って欲しいんだけど。」

ステープラーで止めた傷。

「え。もう結構くっついていると思うぞ。」

「いいから! こんな服を縫うみたいな感じにされたの、気持ち悪いのよ。」

うう。俺にしては最大限丁寧にやったのに。でもまあ、まだ信用されるには日が浅いかもしれないし。常識は場所によって違う。


傷口のガーゼをはがすと、まだ血がにじんでいる。ステープラーで止まっているのを抜鉤する。

「いったーい!」

「しょうがないだろ。」

止血テープを切って、貼り付ける。

「これでいいか?」

「まあ、仕方ないからいいことにする。」

なんだ、その言い方。しかしこの止血テープ、ガムテープ並みにがっちりくっついている。

「はがすときに痛くないか?」

「あー。これ、十日ぐらいで自然に剥がれ落ちるのよ。それまで貼りっぱなしで大丈夫。」

へー。思わず止血テープを貼った太ももをしげしげと見つめていると、グーパンチが飛んできた。

「セクハラ!」


確かにこの止血テープ、本当に優秀なのだった。

血液に反応して薬剤が溶け出し、中に含まれるナノマシーンが傷を治す。

骨までやられてなければ、相当深い傷でもこのテープを巻けば、傷がくっつくらしい。しかも、見せてもらった傷跡は、縫ったのとあまり変わらないぐらい綺麗だ。神経が切れている場合は元通り動くようになるのに相当時間がかかるらしいが、医者でなくても扱える手軽さを考えれば、クーガが言う通り、これさえあれば外科医いらずなのだった。

ただし、傷の深さにも限度はある。内臓や脳みそをふっとばされては、さすがに助からないらしい。


「ていうか、停戦とかしないわけ?」

「うーん。それができるぐらいなら、とっくにしている。」

クーガは説明しにくそうだった。

爪切り貸してくれ、とやってきた副司令官に、同じ質問をすると、半分白髪の眉の太いおじさんは、うんうんとうなずいた。

「なにしろこれで、停戦中なんだからな。けどな、そもそもこの海峡は、メヒーガが作ったんで、エイムリーサが横取りして実効支配してるんだから、そりゃメヒーガも怒るだろう。返すか、建造にかかった金と土地代を総額支払えってなるわな。でも、こっちにはそんな金を支払う気がない。返す気もない。終戦交渉は堂々巡りだ。」


げ。こっち悪役じゃん。

「だけどそのずっと前はエイムリーサの土地だったわけで、核爆弾が落とされて不毛の土地になったんで、管理を放棄していたところを、メヒーガ人が入り込んだ。もともとエイムリーサの土地で、海峡は勝手にメヒーガ人が作ったんだ、ていうのがこっちの言い分だ。」

うわ。めんどくさ。


しかし原爆がおちたのか。放射能とかどうなってるんだろう。

「毎年終戦交渉が開かれているが、決着しない。仲良く共同支配って案も出たけど、それにしてはあっちもこっちも死人がですぎたからな。」

遺族が断固として補償と、相手国に対する処罰を求めている。


「その核爆弾ってのは、どこからどこにあてて撃たれたんだ?」

「あー。それも今となっては判然としない。とにかくエイムリーサ国内から、どこかにむけて発射されたらしいのが、急に軌道を変えて落ちたらしい。ていうのが、通説だ。でも四百年も前の話だし、どさくさで色んな資料とか散逸したらしいからな。ほんとのことは分からない。」


地図を見たい、と言ったら、ロマダのおっさんは、端末を貸してくれた。

ここが今いる基地、と指したところを動かして、全体を見る。そして驚く。

地形が変わっている。

ロサンゼルスの南、サンディエゴの北あたりの土地が、ばっくりなくなっている。海峡は、そことソルトン湖とメキシコのサラダ湖をつなぐ形になっている。そしておそらく吹き飛んだと思われる土が、サンディエゴのあたりで瘤のような土地を作り出していた。

そして下の方を見ると、見慣れたクジラのしっぽのようなメキシコの形が変わっている。ユカタン半島がない。メキシコ湾が小さくなっている。


聞けばメキシコにいくつかある火山が噴火を繰り返し、土地を広げたのだという。ただし、そのせいでかなりの人が移動を余儀なくされた。溶岩が流れた土地にヒトが再び住めるようになるには、かなりの時間がかかる。それでこっちまで来たのかな。しかし放射能汚染された土地より溶岩の方がマシなんじゃないかと思うが。

「原子爆弾じゃなくて、隕石だったという説もある。とにかくそのせいで、第三次世界大戦はなし崩しに終わった。戦争を続ける体力がなくなったんだろう。」

さすがに副司令官だけある。聞けば大抵答えが返ってくる。でも爪を切り終わると、忙しいからとおっさんは医務室を出て行った。


俺はまた暇になる。

さすがに、その第三次世界大戦の前にタイムトリップだか異世界にとばされたかの男の話なんか、伝わってるわけないわな。

あーでも、本当に俺、もう帰れないのかな。腹を決めるしかないのか。


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