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第6話 医務室

続けて何か言おうとしたクーガの言葉は、ピーピー鳴ったインカムにさえぎられた。

クーガが応じる。

「おう・・・ああ、止血テープな。もうあんまりなかったな。どうした。・・・なんか代わりになるものがあるだろう。」

どうした、と聞くと

「ユーリィの血が止まらないらしい。」


急いで医務室に行くと、横になったユーリィの太ももに、止血の包帯がぎゅっと巻かれている。その下の傷口に貼られたガーゼが、もう血が滴るほど真っ赤になっている。結構な出血量だ。ユーリィは貧血を起こしていそうな顔色だ。

「なんでもいいだろう、ステープラーは?」

フィーンがバタバタあちこちの引き出しを開けている。

「使った。でも止まらない。」


俺は医務室を見渡した。棚の中はスカスカだった。パッと見て、消毒薬とガーゼの箱ぐらいしか見当たらない。フィーンの後ろから引き出しをのぞくと、医療用の糸と針があった。

「ここに医者はいないのか?」

「そんな上等なもの、いない。」

「麻酔薬は?」

「ある。」

「よし、出せ。俺が縫合やり直す。」


俺は上着を脱いで、シャツの腕をまくった。水道がある。手袋があるかを見たが、見当たらなかった。とりあえず手を洗う。

「できるのか?」

「俺、医者だから。」

ホントは医者の卵だけど。まだ基礎的な実習をやっただけだけど。縫合のやり方は習った。がユーリィは喚いた。

「えー、やだやだやだ。信用できない!」

「バカ。このまま放っておくと、最悪死ぬぞ。」

ガーゼをはがすと、血があふれてきた。医療用のステープラーで傷口を止めてあるが、その隙間から血がだらだら出ている。


「ええっと、消毒薬は?」

フィーンが瓶を差し出す。とりあえずぶっかける。

「ちょっと。量がないんだから、気前よく使わないで。」

「あー了解。麻酔薬は?」

また瓶ごと出される。どうしよう。注射器は見当たらない。ガーゼにしみこませて、傷口に当てる。

「いったーい!痛い!」

「動くなって。一回抜鉤するから。」

「うげっ」


さすがにリムーバーはあった。手早く抜いて、傷口を見る。結構深い。

太ももにある大腿動脈に傷がついているようだ。どうするか一瞬悩む。しかし悩んだって仕方がない。やるだけやってみる。

失血死するよりましだろう。


疲れ目なのか乾燥なのか、目がしばしばする。血はだらだら出て来るし、見づらい。しかし何とか血管の傷を縫い合わせる。バキュームがあるか見渡すがわからない。仕方がないから大量のガーゼに、溢れた血液を染み込ませる。

よし、出血かなりおさまった。

あとは表皮を縫う。まだ若い女の子だし丁寧に塗う。

「もういいでしょ?いつまでやってんのよ。え、まさかセクハラ?やだやだ!触んないで!」

「いいかげんにしろって。こんだけ失血してよくそんな元気あるな。表はステープラー使うぞ。なるべく動かすなよ。」

上から新しいガーゼを当てて、紙テープで止める。止血していた包帯を解いて、傷口に巻いた。


「終了。三日は動かさない。」

処置用のベッドから、療養ベッドに移そうとして、拒否られた。おっさんたちが仮眠に使ったりするから嫌なんだそうだ。

だから、貧血起こしている状態で、よくそんな主張できるな。

仕方なく車椅子を出してもらって、抱いて移す。フィーンが押して、ユーリィは自分の部屋へ戻っていった。


「助かった。あんた医者なんだな。」

クーガに感心される。

「まあ・・な。」

まだウズラの卵みたいな、小さい卵ですが。


「あのままだったらヤバかった。本当ならあれぐらい止血テープで何とかなるんだが、おやっさんが死んでから補給が滞りがちなんだよ。ルーシアが人質代わりにやってきたんで、やっとベルナディーノ家の援助が得られている状態だ。」

「ルーシアは人質なのか?」

「ベルナディーノ家の次期当主なんだよ。ずっと命を狙われているらしい。ここなら跡目争いに無関係なやつらばかりだから、安心なんだとさ。ベルナディーノ家としては、表立って殺すわけにはいかないから、せっせとルーシアの食い扶持を運んでるって訳だ。俺らとしては、まあ人質みたいなもんだ。」


ここが未来にしろ、パラレル・ワールドにしろ、なんか人のやることはどこもロクでもないなと思う。

「戦場だろ。危なくないのか?」

「ここまでAMFが飛んでくることはほぼない。」


この南に自動迎撃システムがあり、それを回避しようとすると、相当高度を上げるか、一旦海上にでてから回り込む必要がある。AMFの飛行航続距離を考えると、ここまで来ていては帰投出来ない。

死ぬつもりで突っ込んでくることは有り得るが、AMFは使い捨てにするには高価すぎる機体だ。


「だから基本、俺たちがやるのはシステムの整備と支援。海峡を利用する船の護衛。でもさっきみたいに、たまに迎撃システムを振り切ってくる奴もいるからな。気は抜けない。」

フィーンの親父さんが死んだのも、そのせいだ。やっぱり戦場は戦場だ。

「お前を送っていくのは、当分先だな。ユーリィがあの調子じゃ、AMFを飛ばせない。」


ああ。そうだ。またあの地下牢に逆戻りか。

そう思ったら、クーガに医務室のベッドを指さされた。

「それまで、そこのベッド使うか? 留置所のよりましだろ。」

「いいのか?」

「医者なんだろ?せっかくだから役に立ってもらおう。」


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