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第5話 戦闘


ユーリィはハンドルらしきものを握って、中腰でペダルを踏んだ。

機体がふわっと持ち上がる。そのまますうっとバックして、半回転。そしてすごい勢いで格納庫を飛び出した。

ふぉお。

しかもユーリィだけじゃない、どうやら何機か後に続いているらしい。短い言葉でやり取りしながら、機体を飛ばし、やがて爆発音がし始めた。外が見えないから想像するだけだが、これは戦闘状態なのか?

振動で、床に頭をぶつける。痛。


ユーリィが喚いている。どけ!とかぶっとばしてやる!とかそんな感じだ。あと、翻訳しきれないらしい罵詈雑言。

機体の音が静かだから、なにかミサイルとかを撃っている音と爆発音とがはっきり聞こえる。

当たりませんように。当たりませんように。当たりませんように。

神様。今までの不信心をお許しください。

ヤオヨロズの神様でも。なんでも。


「よし!落とした!・・・了解。あとは頼んだ。一旦基地に戻る。」

爆音が止んだ。戦闘は終了したのか?

「終わったのか?」

声をかけた。ユーリィは不機嫌そうに、まあね、と応じる。

「何かあったのか?」

「ちょっと破片で切っちゃった。」

基地に着くと、俺の事はそのままにしてユーリィは降りて行った。またほったらかしか。


「いい加減にしろよ!!これはずせよ!」

怒鳴ったが、返事がない。1時間ほどで、今度はクーガがのぞいた。

「あんた、ほんとおとなしいのな。もうちょい自己主張しろよ。そのまま飢え死にしても知らねぇぞ。」

「こんな体勢で、どうやって自己主張しろってんだよ!いい加減はずせよ。」

「あー。はいはい。」

クーガは、手に持ったリモコンみたいなので、俺の手錠を外した。


「ユーリィが怪我したんで、あんたを送っていくのは明日になった。もう一日、地下牢で待機だ。」

「またあそこかよ。」

「屋根があるだけましだと思えよ。」

クーガと話していると、本当にデニーと話しているみたいだ。


「怪我ってどんな? 破片で切ったとか言ってたけど。」

「ま、ここじゃそんなの日常茶飯事さ。テープ貼っときゃ治る。それで治らなきゃ、切って人造の体部に入れ替えるだけだ。」

驚いて立ち止まりかけた俺に、クーガは、ハハハと笑った。

「別に珍しくないだろう。俺だって、左の脛から下は出来合いの足だ。怪我の度合いによっては、治療するよりむしろ安いしな。」


見せてもらったが、本物の足と区別がつかない。つなぎ目が合って、そこからわずかに肌の色が違うかな、という程度だ。すね毛はないけどな。

医学は進歩しているのか。後退しているのか。聞けば、つなぎ目部分にマイクロチップを埋め込むことで、まるで元から自分の足のように動くし、感覚もあるということだった。

「でも、自分の足の方がいいだろう。」

「どっちでもいい。こんな商売してりゃ、手足なんて何回でも吹っ飛ばされる。いちいち治療してたんじゃ何か月も前線に出られないが、義足だったら付け替えるだけですぐ、次の戦いに出られる。」

戦いに参加すりゃ、義足代払ってお釣りがくる、とクーガは笑った。


傭兵なのかと聞いたら、ここにいるやつのほとんどが傭兵だ、と返事が返ってきた。司令官と副司令官だけが、正規軍の軍人で、残りはほぼ傭兵なのだということだった。

「フィーンも傭兵なのか?ユーリィも?」

「あー。彼女たちはさ。説明難しいな。」

クーガは少し考えるそぶりを見せた。


「フィーンは司令官の娘なんだよ。」

へぇ。それであんなに偉そうなのか。しかし親父さんには会えなかったな。女の子を戦場に連れて来るなんて、ちょっと褒められたことじゃない。きっとろくでもない奴だろう。

「司令官てどんなヤツなんだ?」

「先々週、死んだよ。」


基地の扉をくぐりながら、後ろからさらっと言うクーガに、俺はつんのめりそうになった。

「仕方ない。ここを十年以上も守った英雄だったんだけど、とにかく相手のAMFがめちゃめちゃ強くてな。おやっさんは自分で出てって、相手を道連れに死んだんだ。」

なるべく淡々と説明しているが、表情はそれ以上聞くな、と言っていた。

「次の司令官をだれにするか、中央はまだもめている。フィーンはここで育ったんで、なんとなく次の司令官みたいな立ち位置にいるが、ほんとのところ、もう町に戻ったほうがいい。軍人でもないし、傭兵でもないんだから。副司令官はロマダのおっさんだが、フィーンと一緒に町へ戻る気でいる。年だしな。」

「ユーリィは?」

「七年か八年前におやっさんが拾ってきた孤児だって。補給基地の隅っこで、かっぱらいやってたらしい。仲間に全部巻き上げられて泣いているのを、見かねたおやっさんが連れてきたって。もともとフィーンの子守り要員だったんだが、今は傭兵見習いってとこかな?」

あんな高校生みたいな子が、傭兵。


「女の子が戦場にいるなんて、危ないだろう。」

「だから言ってるだろ、町に戻るって。」

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