第17節 幸せな新年
ハッピーニューイヤー。
新年あけましておめでとう。
マウスをたった二匹捕まえるのに、半日がかりだった。
一匹目を捕まえた後、カサコソ音がするところを追い回してみたが結局捕まらず、くたくたになってちょっとうたたねをしている隙に、二匹目がガムテープまみれになっていた。
やっぱり、罠を仕掛けた後、一度デルモンテの所に戻り、時間をおいて見に来てもよかったかもしれない。
とにかくミッション達成。
確認すると、次元のアンカーは完全に外れていた。どこにもない。
そして研究室が吹き飛ぶ未来もなくなっていた。あったのは、数十年後に穏便に解体されている様子だけ。よかった。
これがWWⅢの引き金になっていたかどうかは分からないが、少なくとも次元の狭間に関わる出来事が、そこに絡むという事態は避けられた。
捕まえたマウスの息の根を止めた後、エルパソのモールのゴミ箱に、捕獲器ごと放り込む。
さらに十六時間かけてまたパサデナに戻ってきて、深夜の工事現場に入り込む。合図の白いハンカチを振って、ターシャに引っ張ってもらった。
戻ってくると、十二月三十一日。俺たちが五年前に飛び込んで、まだほんの五分も経っていなかった。
お菓子の袋をまだ一つも開けていなかったアイリィに、「え、もう終わり?」と言われたが、俺はもう十分頑張ったよ。
デニーのアパートでカウントダウンが始まるまで寝て、とりあえずTVのカウントに合わせてテンカウントした後、「ハッピーニューイヤー!」と叫んでもう一回寝た。
ああ、清々しい新年だ。
昼近くになって、ようやく起きた。
ダイニングルームの方で、女性陣達は先に起きて、実家や友達にあけおめメールを送ったり、ビデオ通話したりと忙しい。その声が静かになってから出て行く。
いい正月だ。朝からアイリィの声が聞けるなんて幸せだ。
「おはよー。」
デルモンテが起きてきた。
「よー。」
こいつもお疲れだった。
ホットドッグにコーヒーで、朝食をすませる。
新年の静かな朝。
全ての物事が片付いて、すっきりしている。
片付いた、よな? 片付いたはずだ。
なんか気になってきた。
「あのさ、一度また四百年後に行って、どうなったのか見て来たいんだが、いいか?」
「へ?」
デニーは、寝起きの頭を振ってうーんとうなり、時計とカレンダーを見やった。
「見るだけか?」
「いや、行ってきたい。俺がやったことが、どういう結果になったのか、確かめたい。」
デニーは肩をすくめた。
「まあ、いいんじゃないか?向こうで長居しなけりゃ。」
元旦のパサデナは、カウントダウンのお祭り騒ぎの余韻がほんのり残っていた。
気の早い家では、もうクリスマスツリーが家の前に捨ててある。
「もう一回、アヒルダンスな。」
「え、昨日も踊っただろ。」
「あんな適当な踊りで、俺が満足すると思うか?」
結構ひどい。
あんなにクタクタだったのに、頑張ってあのへんてこダンスを踊ったのだ。
でもまあ仕方ない。俺の希望でもう一回時間を飛ぶのにつきあわせるんだから、ダンスぐらい踊ろう。
アルタデラ・ドライブの研究所から、次元の狭間に入る。
しかし完全にアンカーが外れている状態で、前がどの辺りだったか探すのは至難の業だった。
研究所が解体されて見える街並みは、ゆっくり古びていく。
並木道が邪魔で、はっきりとは見えないが、ゴーストタウン化しているようだ。
「この辺かなあ?」
デルモンテが一点を指した。
「分かるか?」
「うーん。勘?」
適当だな。
目を凝らす。
確かに、他と比べてほんの少し、明るい気がする。ほぼ気のせいのようにも思える。
もしかしたら、まだ何か残っているのかもしれない。デルの車の部品とか。まだ見つからない俺の古いスマホとか。
とりあえず行ってみよう。指さされた時間帯に飛び込む。
建物は解体されていて、更地だ。
そこから見えるのは、見渡す限り荒野だった前とは違う、古びた街並み。立ち入り禁止のフェンスを越えて、街へ下りていく。
太陽の位置から言って、まだ午前中だ。
街の中心部までてくてく歩く。本当にゴーストタウンのようだ。
一体ここが西暦何年なのかも、あるいはARO何年なのかもわからない。
しかし、街の中央に近づくにつれて、少しずつ人通りが増える。ていうか、みんな自転車に乗っている。
「あのー、すみません。」
通りがかりの自転車の男に、声をかける。
「あ、言葉通じます? この辺で、図書館か本屋ってありますか?」
声をかけられた若い男は、ちょっと困ったようだった。やっぱ言葉通じないのか。と思っていると
「知らねぇよ。」
おお、言葉が通じる。少し訛っているが、ほぼ変わらない英語だ。
「WWⅢって何年前でしたっけ。」
「知らねぇよ。」
あ、すみません。
謝って、そこを離れる。
時間間違ったのかな。感覚的にこの辺だろうと思ったが、もはや「改訂前」の未来は存在しないし。
みんなどうなっただろう。クーガはいるだろうか。基地は。




