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ドクター・パラドックス  作者: たかなしコとり
後編

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33/42

第11節 変装

さて、次の仕事だ。メインイベントだ。


まだ残っているアンカーの場所を探す。ラムリーが入った、WWⅢ開戦初期の時代だ。

見つけるのは簡単だった。こちらはデルモンテと二人で入る。

ちなみに、一人で行ったラムリーがどうやって帰って来たかと言うと、次元の狭間の中から、脱いだ上着の袖を伸ばして、橋渡ししていたらしい。なるほど。

それをやると、行った先の時間と元の時間が同期する。

俺とデルがやったように、体感二日なのに、実時間半日なんてことはできないわけだ。


女子チームは、お菓子を買い込んで、実験室にて待機。時々覗いてもらう。気を付けないと意識が飛んで、次元の狭間で迷子になるので、長いリボンでお互いをつないで、一人は必ず狭間の外で待っている。


さて、ラムリー氏が入った時間を確認して、後を追った俺たちは、奴が研究所の敷地内にある、別棟に入るのを確かめた。時間は深夜。

ここは何年後だろう。五、六十年は経っているように見える。

研究所は経年劣化の様相だったが、壁は塗り替えられたようだった。別棟は後から建て増しされたものだろう。


ラムリーが外に出るのを諦めたのは分かる。

元々は人の胸あたりまでしかないしょぼい塀に囲まれていた敷地は、恐ろしいほどの鉄条網で囲まれていた。出入口の辺りはカモフラ柄の軍人で溢れている。出るのは出られても、戻るのは難しそうだ。

建物は施錠されていたが、デニーもラムリーも、そもそもここの研究員だから、年齢的な齟齬があるとはいえIDカードで出入りするのに問題ないらしい。

ラムリーを追って、別棟に入る。入り口に宿泊棟のプレート。なるほど。

出入りが難しくなったので、研究員が中に泊まれるようになったんだろう。


深夜だが、いくつかの部屋には明かりがついている。

ラムリーはウロウロしながら、おそらくは空き部屋になっている部屋を探していく。そして倉庫っぽい空き部屋っぽい一部屋に滑り込んだ。

「ここに一か月、缶詰?」

小声で聞く。

「まさか、俺たちも?」

「まあ待て。」


俺たちは元の研究所棟の方に戻った。

そもそも病院のがん治療の研究施設なので、造りは微妙だが、部屋数はある。

デルモンテは、おそらく元の自分の研究室と思われる一部屋に入ると、持ってきた自分のパソコンをつないで、ハッキングを始めた。

俺が見ても何のことか分からないが、画面がすごい勢いでスクロールしていく。そして


「見つけた。手あたり次第メールを送ってるな。技術漏洩の相手を探しだすまで、一か月か。」

「その間、張り込むか。」

「見つかるだろ。それに時間の無駄だ。」

「一回戻って、もう一回来る?」

「それがいい。」


デニーが、ハッキングの痕跡を消して、ついでに俺たちの侵入の痕跡も消す。

「堂々としてりゃ大体大丈夫だけどな。」

本当かよ。こんな深夜にウロウロしていたら、普通に怪しまれそうだ。

しかし、案外あっさり実験室まで戻れた。

中に入って、合図の手を振る。

おーい、アイリィ!引っ張ってくれー!

不意に目の前に、腕が現れた。細くて筋肉がしっかりついている。あ、ターシャの方だ。

と思ったら、その手をデニーが握った。こっちを見てにやっと笑う。

「お前にはアイリィがいるだろ?」


翌日。念入りに時間を調べて、ラムリー氏がこちらに戻ってくる少し前の時間を選んで飛びこむ。やはり夜だ。おそらく奴も、昼間は動きにくいのだろう。

そして前と同じようにデルモンテが使っていた研究室に入る。

ハッキングを始めると、

「いない。」

え。ヤバい。見失った?

「おかしいな。こっちの時間帯にいるのは間違いないのに。」


別のアプリを起動する。そして

「あの野郎、見つかってやがる。」

そりゃそうだ、一か月も籠城していたら、食事とか排泄とか見つかる可能性が上がる。

「そんで?今どこ。」

「待て。メールのやり取り見てる。あー、揉めてる。ほら、IDカードが本人のだから。」

過去からきたと思しき研究員が、宿泊棟の物置に籠城していた。事情を聞くべく、捕まえて研究所棟の一室に閉じ込めてある。


「だったら早く言えよ!」

”今”のラムリーに対して毒づく。

「捕まったなんて言えなかったんだろうよ。」

「どこだ?ヤツが帰ってこれなかったら、まずい。」


中から開けられない鍵のついた部屋は限られている。

急いでそこへ向かって、鍵を開けた。覗くと、たしかにあの極太眉毛の男が、部屋の中に拘束されている。ガムテープに巻かれて、転がされている。

ガムテープを切った。

誰だこいつ、と顔を見られたが、大丈夫、事情があって俺は変装している。

しかも、前に顔を見られたのも一瞬だった。

「早く逃げろ。」


ラムリーがここと繋がっているはずの六か月前に戻ったのを確認して、一旦俺たちも引き上げる。

アイリィに引っ張ってもらった。

「いやー、この変装、意外に役に立ったな。」

デルモンテが感心した。


昨日ロシア語を話せるかと聞かれたときは、急にどうした、と思ったが、作戦を聞いて、悪くないと思った。

つまり、ラムリーが接触するロシアの研究員に、俺が成りすます。

どうせ画面上での接触だから、横でデニーがちょいちょいと操作すれば、何とかなる。はず。

その作戦のため、朝から俺は白衣、髪は七三分け、青いコンタクトレンズ。アイリィに、化粧で色白に塗ってもらっていた。ちょっと気持ち悪い仕上がりだ。が、仕方ない。

こんな形で役に立つとは思わなかった。


「だけどどうするんだよ。顔を見られたぞ。」

「あー。大丈夫だろ。暗かったし。金髪のかつらにすれば、イケるって。」

ゲロゲロ。この上、かつらかよ。

一回目は断固阻止した金髪のストレートボブのかつらを、観念してつけることになる。

ターシャの私物だ。彼女の髪はくりんくりんの巻き毛で、それはそれで綺麗だと思うが、本人はストレートへの憧れがあるんだそうだ。


でも、俺がかぶるとちょっとな。

向こうを向いたアイリィの肩が震えている。


「いい!似合う!最高!誰もお前とは思わない!」

それは誉め言葉なのか?

デルモンテに引きずられるようにして、再度、次元の狭間に入る。

くそー。今度こそ。


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