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ドクター・パラドックス  作者: たかなしコとり
後編

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第9節 弾丸ツアー

グイッと引っ張ると、細長い画像の中からするりとデニーが出てきた。

「遅いわ。凍えて死ぬかと思った。」

「いやいや。俺としては精いっぱいだったぞ。文句言うな。」


録画を高速で早送りすると、「このシーン」てところで止めるのは難しい。そんな感じで、若干のラグが発生する。仕方ない。

デニーが戻ってきたので、グレーになっていた画面がまた元に戻った。

それを確認して実験室を出る。そして、出口までまた一時間のジョギング。

デルの親父さんの車に乗り込んで、一息つく。

「・・・これでまたパサデナに戻るのか?地獄だな。」

「とりあえず、ガススタ。二十四時間営業の店がどこかにあるだろう。」

デルはシートベルトを締めながら、言う。


「おお。そうだ、今朝お前を五年前に送るときに見たが、お前、四百年後の世界に何か持って行くか、持って帰って来たか、しただろ。アンカーが下りてる。それを外さないと、何をしたって『WWⅢが起こった後の破滅的な世界』という状態に世界が戻ろうとする可能性がある。心当たりは?」

ある。

たぶんあの、ヘッドセットだ。


理論としてはこうだ。

しおりがはさまった後の世界は、しおりの影響で改訂版になる。改訂版になった後のシナリオに、しおりをはさむと、さらにそこから改訂版になる。

しかし、そのずっと先にしおりが挟まっていると、後から間に挟まれたしおりの効果は制限される。

例えるなら、ロミオとジュリエットの話に散々手を入れて、外国で幸せに暮らす話にしたものの、結局二人で心中するオチになる、みたいな感じだ。

「幸せに暮らしました」で終わりたいなら、心中するラストに挟まったしおりを取り除く必要がある。


交代でパサデナまでのI-10をかっとばしながら、デルモンテの推論を聞く。夜明けをアリゾナ州に入ったあたりで見た。

疲れた。吐きそう。

そこからさらに十時間ほど運転して、夕方にロサンゼルスに着いた。

夕食を取りに、チャイニーズレストランに入る。


五年前のアルタデラ・ドライブはまだ病院のがん治療センターが出来るところだ。重機で地面をならしている最中なので、日が暮れれば工事は終了、無人になる。それまで待たなくてはならない。

ワゴンで回ってくる点心のセイロを取りつつ、でももう、食べたら寝そう。

寝るなよ、とデルモンテに念を押されるが、こいつだって、今にも寝そうな顔をしている。

二人で雪山の遭難者のごとく励まし合いながらパサデナに向かい、工事中の敷地に入る。


どの辺だろう、と見回していると、デルモンテは急に走り出した。

「どうした。」

「俺のバッグ。あった。」

あー。いいな。

しかし数週間も工事用土の中に埋もれていたバッグは、ドロッドロになっていた。肩ひもの一部だけが見えている状態だった。何とか引っ張り出したが、中も相当ヤバい。

それでもアンカーになるとまずいから、持って帰るしかない。


デニーが工事用に引いてある水道でバッグを軽く洗っている間、俺は次元の狭間がある辺りを探す。

おーい、ターシャ。ここだよー。

すると目の前にするりと手が現れた。

「凛!こっち!」

アイリィだった。おおう。びっくり。


前も思ったけど、ドアの隙間みたいな感じの細い空間なのに、アイリィの全身が見える。物理法則とか無視されている。

「デニー!デルモンテ!急げ!」

「急いでるって!」

デニーが走ってくる。俺はアイリィの手を掴んだ。もう片方の手で、デニーの腕を掴む。

「引っ張れ!」


戻ってきて、とりあえず一日休憩になった。眠くて死にそう。

深夜、一番近いデルモンテの部屋に転がり込む。そこで七時間ぐらいは死んだように眠った。

なにしろこの二日、仮眠を取りつつとはいえ、ほぼ完徹でテキサスを往復したのだ。無事故でよかった。


女子チームの方の体感は、大体十四時間ぐらい。

こちらも実験室が閉まってしまわないように、一人が中に残りつつ、交代で食事を取ったりして待っていたらしい。

テキサスの研究所まで、飛行機を乗り継いでどんなに急いでも十時間以上はかかるんだから、二人でのんびりカードゲームなんかしながら、待っていたとのこと。


「すっごく仲良くなったの。」

とアイリィは笑っていた。まあ、そりゃそうだろうな。

見た目おっとりほんわかのアイリィと比べると、きつめの美少女のターシャの方が、若干年上に見えなくもない。が、このおっとりほんわかが曲者で、気が付くとすべてアイリィのペースになっている。

たぶんターシャでは太刀打ちできない。

「デニーから電話があって、『実験室の前に着いたから次元の狭間の中で待ってて』って言われて、でもそこからそんなに時間かからなかったわ。」

「電話まではずいぶん待ちましたけど。次回があるなら、もう少し準備しないと。」

ターシャは、近くのモールでサンドウィッチを調達してきた。熱いコーヒーとで一息つく。


しかしこれからが本番だった。

まずは俺が持って帰って来たヘッドセットを、四百年後の世界に返さないといけない。

たぶん何かしら、今とは違う技術とか材質とかが使われているんだろうな。


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