第3話 留置所
美少女だが、人を射殺せそうな眼付。
セリフも、ハイティーンの女の子とは思えない。しかもなんか、なんだって?最前線?戦争中みたいな?
気が遠くなりそうだ。
「俺、あの、事故・・・かなんかありました? 昨日、友達と飲んでて、ええと、ちなみに俺しゃぺってんの英語ですが、大戦前の北部共用語とは?」
「四百年前に起きた世界大戦の前に、この辺りで使われていたらしい言語だ。翻訳機に入っているのが奇跡だな。」
四百年。前。俺は・・・タイムスリップしたのか?
「こちらも聞きたいな。なぜ荒れ地の真ん中にいた?」
ええ?いや、俺も聞きたい。
しかし急いでいたらしいフィーンは「また後で聞く」と言い残して、身を翻した。
お前はこっち、と連れていかれて、地下の留置所みたいなところに放り込まれた。
そこからしばらく、夜も昼も分からない状態で、一人放っておかれた。何とか水だけは、壁際に洗面台があってそこの蛇口から出たのを飲めたが、まずい。
簡易的なベッドがあったが、固いし、腹が減って寝られない。しかも枕元に便器があって、匂いが上がってくるので、かなりつらい。
入れる方がないので、出す方もそんなにない。
脱走を考えた方がましかもしれない。
そもそも四百年後の世界とか言われても、すぐには信じられない。
大がかりなドッキリだと言われた方が、まだ信用できる。
でも三日間水だけ飲ませて放置する、そんなドッキリがあるか? 誰の得になる?
そんなことを考えていると、やっとのことで、誰かがやってくる足音がした。
「あー、ごめんね、すっかりあんたのこと忘れてたわ。」
見ると、最初に俺を捕まえた赤毛の女の子だった。今日は風防グラスの代わりに、何かキラッとする額あてみたいなのをしている。
「はい、食事。」
手に持ったトレーを、格子の隙間から差し込む。
パン。シチュー。パックに入った何かの飲み物。この際何でもいい、腹減った。
がっつく俺に、ユーリィと呼ばれていた女の子は、鉄格子の向こうから状況を説明した。
エイムリーサと呼ばれるこの国と、ムシーガと呼ばれる国が、長年交通の要衝である海峡をめぐって争っていること。今のところ、海峡はこちら側のものとなっているが、おととい攻撃があって、なんとか防いだことを手短に話した。
「ばたばたしてたら、あんたがいることすっかり忘れちゃってたわ。飢え死にする前に思い出してよかった。」
なんか恐いことを言うなぁ。
右耳からはユーリィの生の声が直接聞こえ、半拍遅れて、左のヘッドホンから無機的な翻訳の声が聞こえる。
「君も、戦争に参加してるのか?」
俺の声も、翻訳されたらしい音声が、半拍遅れてヘッドホンについたスピーカーから聞こえる。
「まあね。」
まだ未成年じゃないか。
「それで?あんたはなんで、あんなところにいたの? あの辺、まだシェルターが残ってるの?名前は?」
シェルター。核シェルターとか?
「名前は・・ファラ。ええと。正直、なんで俺もあそこにいたのか分からない。友達と飯食って、酒飲んだ後、車で友達送っていった所だった。それで気が付いたらあそこで寝ていた。」
「はぁん。」
疑う根拠も信じる根拠もない、という表情を彼女は浮かべた。
「こっち側の人なら、次の補給で帰りの補給機に乗せてあげようと思ったけど。友達と飯食って酒飲んで、車? どんな上流階級よ。そんな人が、荒れ地で寝てるってありえないでしょ。」
「いや、でも本当の事だから。」
「分かった。あんた、ルーシアを追ってきたんでしょ。それで迷った。」
いや、誰それ。
勝ち誇ったように言うユーリィに、俺は困惑する。
「お生憎様よ。彼女はちゃんと私たちが守ってるし、誘拐も暗殺も許さない。」
「だから、誰それ。」
「え、違うの?」
ユーリィは困ったように首を傾げた。
「ま、とにかくフィーンに説明しておくわ。トレー返して。」