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ドクター・パラドックス  作者: たかなしコとり
後編

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28/42

第6節 感謝祭

今の研究をやめれば、WWⅢがタイムマシンの取り合いが原因で起こる可能性は低くなる。

デニーがテキサスの実験室で飛び込んだせいで、次元の狭間が縮みはじめたのなら、同じことをすればパサデナの方も縮むはずだ。

政府が納得するかどうかはともかく。


前回の疑問はいくつか解消された。テキサス時代の研究員は、未来の改変には直接は関与していない。

連合国家の名前に一致が見られるのは、偶然の可能性が高い。

新しい疑問もある。

オリジナルメンバーの五人が、研究の継続を強く主張したのはなぜか。

ラムリー氏はその意向を酌んでいるのか。

一か月もの間、次元の狭間に籠っていたラムリー氏は、そこで一体何をしていたのか。


一番早いのは、ラムリーをとっ捕まえて、全部吐かせることだ。でもラムリーはずっと黙秘している。

「ヤツが何かしら未来に手を加えた、というのが順当な考えだな。」

ちなみに、次元の狭間に対する研究というのは続いている。質量や光線量を計測したり、中の空間の大気の組成や放射能を調べたり。内部の映像は、動画も静止画も撮影できないらしい。真っ黒あるいは虹色になるんだそうだ。

ただラムリーとデニーが中に入って無事だったという実績があるので、テキサスでの実験結果と照らし合わせて、次はどんな実験をするのか検討中らしい。


デニーのアパートで、俺は自分の書いたレポートを見ながら、考える。

「五か月前の過去に行って、ラムリーを止められるか?」

「それは無理だな。今現在、ラムリーが次元の狭間に行った事実は変えられない。」

俺たちの主観的な時間は、連続している。

「あと、ターシャ嬢も言ってただろう。俺がテキサスの研究所に忍び込んだ後の五年間が、変な風に閉じているって。その中にラムリーが次元の狭間に入った一か月が含まれている。」

「閉じてる?」

俺がCOSTCOで買ってきた、感謝祭の七面鳥を貪り食いながら、デニーは説明した。


こちらから向こうに物が行くと、それがアンカーになる。何かしらのつながりが出来る。

パサデナから五年前に飛ばされたデニーは、自身がアンカーになっている状態で、テキサスの実験室から五年後に飛んだ。そのため、次元は変な風に入れ子状態になって、閉じてしまっている。この五年は行くことも出来なければ、覗くことさえできない。


「ラムリーが残したアンカーは? アンカーをたどれば、ラムリーがどの時代に行ったか分かるだろう。何をやったか追跡できたら、それを帳消しにできるんじゃねぇ?」

WWⅢに行かない時間軸に世界を乗せることができるかも。デニーは唸った。

「可能性はあるが、見てみないと分からない。調べてみる。」


次元の狭間から違う時間へ飛ぶことが出来るという事実は、まだ俺たちのほかは誰も知らないはずだった。

一応ラムリーも知っていて、こいつが未来を改変したせいでWWⅢが起こった、と推測はしているが、実際は分からない。未来を改変したおかげで、WWⅢはむしろ被害が軽減された可能性だってある。

大体、一度他の時間帯へ飛ぶと、自力では戻ってこられない。どうやったんだろう。


俺たちは、三日ぐらい悩んだ末、結局次元の隙間をもっと調べなくてはどうにもならない、という結論に達した。

あんな、一回ごとに実験の計画書を作って、検討して、隙間に入った被験者の健康診断まで込みなんてことをやっていたら、話は一つも進まない。

デニーは一大決心をして、次元の狭間の内部についてのレポートを出し、その中でアンカーについて触れた。

次元の狭間から見える世界は、時間を超えたこの世界の姿であり、場合によっては行き来することが可能なように思われる。ラムリー氏が数十年後の世界に行ったのが見えた、未来に対し何かしらの改変を行ったのではないかと危惧される。


もちろん、最後の所は嘘八百である。閉じた五年の間の事は、今は見えなくなっている。しかしラムリーはそのことを知らないはずだ。

研究所は大騒ぎになった。


ラムリー氏が所長に呼ばれ、事の真偽を問われた。

最初は、なんとしても口を割らなかったラムリーだが、オリジナルメンバーが顔をそろえて問い詰めると、やっと白状した。

それは、致命的な未来への改変だった。


テキサスの実験室で、研究所がミサイルでぶっとぶ様子を見た彼は、未来に対し深刻な危機感を抱いた。こんなド田舎にミサイルが飛んでくるからには、WWⅢが起こり、それが深刻な状況になっているのだろう。止めなくてはならない。おそらくアメリカにのみタイムマシンの技術があり、そのせいで世界の均衡が崩れてWWⅢが起こったに違いない。

ではどうするか。他の国にもその技術を伝えれば、抑止力になるのではないか。


ラムリーは、自分が救世主になった興奮で、ウキウキとしゃべり続けたらしい。

ヤバい。


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