第5節 未来の話。過去の話。
やっぱり、タイムマシンのせいでWWⅢ(第三次世界大戦)が起こったのか。
どう使ったのか分からないが、おそらく時間を移動して自国に有利な状況を作り出し、それを相手方も真似したことで、二大勢力同士がぶつかる、みたいな状況になったんだろう。
そうなれば復興もままならないはずだ。
テキサスだって吹っ飛ぶだろう。
「研究員の間でも、意見が分かれたようです。あれは未来だ、という人と、あれはペテンだ、という人と。ただ可能性は無視できない。そのうちに、あの隙間が小さくなってきたらしいんです。もう人が入ることはないかもしれない。それで事の真偽はともかく、何十年か後にWWⅢが起こる可能性を憂慮して、父たちはシェルターを作りました。」
個人で、核シェルターを持っている人は結構いる。
ターシャんちは金持ちなんだろう。
自分たちが逃げ込むためだろうと思っていたら違った。
「そこに復興に必要な様々な資料や道具を集めています。役に立つかは分かりません。」
そして他にも、WWⅢが起こる未来を想定して、別の動きをする者がいた。
それが今現在、カリフォルニアに来ている五人のメンバー。
テキサスの研究所が縮小されるにあたって、こんなものが人工的に作れるわけがない、というスタンスであった他のメンバーと違い、同じ条件を繰り返せばきっと再現できると強硬に主張し、政府を説得した。そして幸運にも、パサデナで再現に成功したという訳だ。
急遽、そこは次元研究所となり、テキサス時代の研究員が呼び集められた。しかし何人かが「被曝した」と言い張ったため、強制はできなかったらしい。新しく研究員を募集することになった。
おそらく、未来を見ることで戦争を食い止める、あるいは戦争に勝つことを想定していると思われる。
ぽつりぽつりと続く話を、しかし俺は途中からあんまり聞いていなかった。
今頃フィーンたちはどうしているだろう。街に戻ったんだろうか。クーガはどうしただろう。新しい司令官とうまくやってるかな。フィーンが十九歳だったら、クーガも一緒に街へ行って、さくっと結婚なんかしてたかもしれないな。
みたいなことを、ターシャのきりりと美しい顔を見ながら、考えていた。
「聞いてます?」
「まあ、大体。」
「私がデタラメを言っていると思うんだったら、もう止めますけど?」
「いやいや。デタラメなんてとんでもない。」
俺は生クリームたっぷりのパンケーキを、口に押し込んだ。
「確認だけど、バーンズ氏は見ただけで手は出さなかったんだな?」
人が入れることを確認するのに、一年。さらに内部を調べるのに半年。テキサスチームに与えられた時間はそれだけだった。しかも、変な風に閉じていている時間帯があったらしい。さらにその先では、無人の実験室の様子が続いていて、さらに先ではテキサスの研究所全体がミサイルでぶっ飛んでいる様子が映っていたとのことだ。
なんとかしたいとは思ったが、次元の狭間からさらに別次元に行けるとは思わなかったらしい。
俺とデニーは、うーんと唸ってお互いの目を見交した
「WWⅢが起こるのは、既定なのかな。」
俺はぬるくなったコーヒーでパンケーキを飲み込む。デニーはうなずいた。
「例えばあの研究所だって、テキサスが攻撃されると思うからこそ、何百回も実験して新しい次元の狭間を作り出したわけだろう。条件はあるにしろ、再現可能なわけだ。それだけの価値があると言える。そして戦争の原因にも成り得る。」
駐車場で、ターシャはデニーの車に乗った。デニーが送って行くらしい。
「私で何か力になれることがあれば、また連絡してください。」
ターシャは別れ際にそう言った。心強い。




