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第1節 三か月後

三か月がたった。

町はすっかりハロウィン気分だ。


俺はと言えば、生活そのものはすぐ立て直せたが、気持ちを立て直すのは相当時間がかかった。

何度も何度も、もう帰れないと覚悟を決めた後の帰還だったので、ちょっとした拍子に、ああ戻れてよかったと涙が出そうになる。最初にアイリィと会った時なんか、つい大泣きしてしまった。


リンがおかしくなった、と夏休み明けにゼミで噂になった。夏休み中に仕上げないといけなかったレポートは、出せなかった。

一か月でついていけなくなって、結局うつ病の診断をもらって、医科大を一年間休学することになった。

親父にはちょっと怒られて、お袋にはちょっと心配された。まあ仕方ない。

アイリィは州立の医科大に落ちて、製薬会社に就職を決めた。残念だがそれもまた仕方ない。私立の医科大は、めちゃめちゃお金がかかる。


暇になったので、例の「四百年後の世界」の事を思い出せる限り細かくレポートにした。まあ、そんなことをしているから、余計に動揺から立ち直れないのかもしれない。

が、気持ちは楽になった。客観的に見れば、夢だったと片付けられてもおかしくない事象だった。重症のインフルエンザのせいで、うっかり死後の世界でも見たんだろう、というオチだ。

だけど俺のスマホは新しくなったし、パサデナのアルタデラ・ドライブに行けば、一部だけ色の変わった研究所の壁が見える。使い方の分からないヘッドセットもまだ手元にある。


あれは現実だった。少なくとも俺にとっては。

未来の世界の彼らは、四百年たっても第三次世界大戦の後遺症に苦しんでいた。燃料の枯渇。人口減。不毛の土地。

クーガと約束した。四百年後も希望の持てる世界にする、と。

大学院に戻るまで、一年間の猶予がある。

ちょっと真剣に考えてみよう。


とりあえずレポートをデニーに読んでもらった。

「どうだ?」

感想を聞くと、デニーはううっと唸った。

ちなみにデニーは、次元の狭間に入った後、いろんな検査を受けさせられたらしい。まあ、宇宙旅行士だってそんな感じだろう。

「なんか気になる名称がある。」

「どれ。」

「ここ。基地にいたお嬢さん。えーと、バーナディーノ嬢。俺の職場の所長が、バーナディーノだな。」

「いや、よくある名前だろ。」

「まあな。そうなんだけどな。」


他に気になるのは、あの「誰も由来を知らない伝説の超すごい武器」。

それは俺も気になる。核兵器ではないらしい。核兵器なら「取り合い」にはならない。「開発競争」と表現されるはずだ。今この瞬間にだって、そうあるように。

「なるほど。製造方法の取り合いか。よほど画期的な武器だったんだな。」

デニーは指摘した。


ルーシアの話では、第三次世界大戦は、まずアメリカがその武器を開発して、それを盾に周りの国に同盟を広げた。そこに、同じものを開発する国が現れて、多くの国がアメリカとの同盟を解消、向こう側と手を組んだ。

アメリカは機密を盗まれたと相手を攻撃、実力行使に出た。結果、世界中を巻き込んだミサイルの打ち合いになった。終戦あるいは停戦になったのは、あまりにも被害が出過ぎて、双方余力がなくなったせい。


もう一つ気になるのは、戦後どんなに生産力・経済力を上げようとしても、結果に結びつかない、ということだ。研究者は全員、中途半端な成果をもって他国へ行ってしまう。

「どこかで、それを利とする人あるいは団体があるはずなんだが、そこまで聞けなかったな。」

うーん、と二人で首をひねる。


デニーのアパートで考えていても仕方がないので、近くのモールのSUBWAYへサンドウィッチを買いに行く。日曜日なので、まあまあの混み具合だ。

「ハンバーガー見て泣く癖は無くなったか?」

「やめろって。さすがに見慣れた。」

「いやいや。テメキュラのワイナリーで大泣きされた身としては、心配にならざるを得ないだろ。」

一応自分のせいだと気にしてくれているデニーである。


「あの実験室、俺がもう一回入ることって出来るのかな。」

「そりゃ無理だろ。俺ごと捕まるからやめてくれ。」

「その第三次世界大戦直前に行って、どんな武器かを見てこられたらいいんだけどな。」

「どうやって探す。無理だって。」

そう。結局あれが、未来の世界なのか平行世界なのかさえ正確には分からないのだった。分かるのは、次元の裂け目から見える数多の世界のうちの一つだったということだけ。

「何とかしたいんだけどな。もし仮にあれがこの世界の未来だったとしたら、あんまりにも残念過ぎる。」

「そうは言ってもな。あ、ちょっと黙ってろよ。」

クーガが声を潜めた。


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