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第21話 林檎

結局、リンゴの箱と一緒にトランクルームでドライブすること、数十分。

深夜にやっとデニーのアパートに落ち着いた。


ほれ、と差し出されたコーヒーに、ちょっと涙が出そうになる。久しぶりだ。

「何が起こったのか、説明してくれ。」

「いや。俺も聞きたい。どうなってんだ?」


どっちが先に言うかちょっと揉めた後、まず俺から説明した。あの日酒を飲んだ後、デニーを送って行ったら、研究所の外で爆発みたいなものに巻き込まれて、気が付いたら四百年以上も後の世界にいたこと。アイリィからの手紙を見て、そこで待っていたこと。その間、十日か二週間といったところか。


次にデニーが説明してくれたことは、一回聞いただけではやや信じがたかった。


デニーは俺と飲んだ翌日、例の実験で次元の裂け目に入る予定だったらしい。さすがにちょっと怖かったので、酒をたらふく飲んでごまかしていたとのことだった。もし帰ってこれなかったら、後は頼む、というつもりだったらしい。

そこに、あの機械の暴走が起きた。デニーは五年「前」に飛ばされた。


ご、五年前。微妙。


自分が働いていた研究所はまだ更地で、しばらく途方に暮れたらしい。

とりあえず実家に戻ってみると、まだ高校生の自分がいた。まさか未来の自分です、と名乗り出るわけにもいかず、名前を変えて数週間その辺でバイトなんかしていたらしい。

で、ある日ふと思い出した。

五年前なら、まだテキサスにある実験室が生きている。


急いで実家の車を分捕って(そういえば、昔デニーんちの車が盗まれたことがあった)、テキサスの実験室に忍び込み、そこから次元の裂け目に入った。

目指す世界を探すのが、本当に大変だったらしい。とにかく前にも聞いたけど図書館の本が並んでいるように、様々な世界が時間を越えて並列にインデックス無しで存在しているので、最初は闇雲に頭を突っ込んで、みんなをぎゃっと言わせたらしい。

そのうちその世界がそれなりに秩序立って並んでいることが分かって、元居た「五年後の世界」に一番近いのを見つけ、そこに飛び込んだ。


たぶんテキサスの実験室は、その時の負荷が元で、吹っ飛んだんだろうと思われる。

現在のテキサスの実験室のあたりに出たデニーは、ヒッチハイクでパサデナに向かい、俺と自分が吹っ飛ばされた事故の日の前日の朝、やっと自分のアパートに辿り着いたんだとか。お疲れさん。


「レンタカーとか使えよ。」

「すまん。元のカバンとか全部紛失してて、車、借りられなかった。」

もちろん「元のデニー」は出勤していて、部屋は無人だった。公衆電話から管理会社に電話して、部屋を開けてもらった。

中でカレンダーを見て、やっと日付を確認した。そして相当迷ったらしい。今なら友人と酒を飲みに行くのを止められる。でももしそれで、「ありがとう、ではお帰り下さい。」とか言われたら、俺はどうなるんだろう、と。


過去の自分に合うと、爆発するとかいう噂もある。ドッペルゲンガーみたいに見たら死ぬとか。

それに急に双子になったら、両親はびっくりするだろう。

それで、二人が機械の暴走に巻き込まれるのを一晩待った。おい。結局自分かよ。

「だから、助けに行っただろ。」

「そりゃそうだけど。」


事故の跡は、研究所の周りに直径三ヤードぐらいの穴を四つほど開けていた。デニーの車は、ボンネットの部分しか残っていなかったらしい。研究室の壁とか庭の植木とかもいくつかきれいにえぐり取られていた。

人的被害はなかった。という話になっている。そもそも表向きには病院の研究施設になっているので、壁の破壊もうっかりユンボがガリっと当ててしまった、という事に落ち着いていた。

デニーの車が残っていたことがやや問題になったが、「忘れ物をしたので、あそこに車を止めて、警備を呼ぼうとしていた。ユンボに座席をもっていかれた。」という主張が、一応通っていた。


で、一旦落ち着くと、今度は一緒に飛ばされたであろう、俺の事が気になった。

五年前に飛ばされたときに、一緒に飛んできていないか一通り探してくれたらしいが。

「あー。思い出した。なんか『五年後に飛ぼう』みたいなメモを、俺んちの庭の木に貼ってなかったけ。これか。あの時お前に聞いたな。何だこりゃって。」

「覚えてる。んで答えが『何それ』」

「『何それ』」

声が揃って、乾いた笑いが続いた。

「書いてから、思い出した。ああ、これかーってな。」


自分だけが飛ばされて俺は無事だった可能性もあるので、俺のアパートまで確かめに行った。

そこでアイリィに会った。急に電話がつながらなくなったので、何かあったのかと訪ねて来たらしい。

「初めて実物見たけど、かわいいよなー。」

「おい。」

「大怪我か、病気かって心配してたからさ。」


あらかた全部話したらしい。

あー。俺のスマホ。どっか行ったな。

アイリィは最初、デニーの話を信じなかったらしい。が、事故に巻き込まれて死んだかもしれない、と聞かされて、むしろ怒り出した。

「生きている可能性があるなら、助けに行くのが、あなたの義務ですよね?」

「いやー、参った。そりゃ惚れるよ。」

デニーは嬉しそうだった。やめろって。


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