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第2話 基地


ふと気が付いて、辺りを見回すと、もうすっかり夜が明けたんだろう、明るくなっていた。俺は荒野みたいなところに、大きな岩を背に一人で倒れていた。


見渡す限り、灌木のかたまり。そして所々に岩。ええと、ここはどこでしょう。もしかして、例の研究所がまた暴走して、辺りがふっとんだのか?それにしては何もなさすぎだけど。

瓦礫すらない。

見回すと太陽はまだ低い。デルモンテもいない。俺一人だ。どういうことだ?


立ち上がる。

ぐるぐる岩の周りを回る。

やはり誰もいない。何もない。

とりあえず俺の家があった方に向かう。レポートの提出用の実験をやる予定だったのに。もう間に合わないかもしれない。


しかし歩いても歩いても、何もない。まさかパサデナからモハベ荒野のあたりまで飛ばされたとか?

そりゃ飛ばされ過ぎだろ。


視界の端を何か動くものがあったので空を見上げると、こちらに飛んでくるものがある。

鳥かと思ったが、ドローンだ。大きいな。ああ、あれだ。エア・モービル。空飛ぶ自動車。実用化はされたのに、交通ルールの設定でもめていて、まだ一般人は使えない。

こんなところで使われているんだ。もしかして、助けてくれるかも。


「おーい!」

手を振った。エア・モービルは近くに降りた。やった。

中から人が降りて来る。

その姿を見て、俺はなんか、嫌な予感がぞわぞわしてくるのを感じた。

防弾ベストみたいなのを着ている。軍用ブーツみたいなのを履いている。風防グラス。肩の上で渦巻いている赤い髪の毛。そして手には、ごつめのサブマシンガンが握られていた。


見たところ、女だ。彼女が何か言った。分からない。でも声が若い。

すると、彼女が何か放ってよこした。ヘッドホンみたいだ。

頭に着ける。

「抵抗#$“¥撃つわよ!あんた?#$%&なの?ポケットに%&#して!」

いくらか聞き取れる。

ええ?訛ってる?


「俺、事故に巻き込まれたみたいで! 怪しいもんじゃない! 武器も持ってないし!」

両手を上げて、抵抗しないことを示す。

女の子は、サブマシンガンを構えたまま近寄ってきて、

「そこ#?<#腹ばいに&%#!」

いくつかある単語のうちの、一つか二つぐらいしか聞き取れない。おとなしく腹ばいになると、女の子は手際よく俺の手首を括った。


どうなんだ。軍用地の中に飛ばされたんだろうか。そういえば身分証明になりそうなもの、なんにも持ってない。帰らせてくれるかなぁ。

そのままエア・モービルに乗せられる。軍はもう、こんなの使ってるんだ。すげぇな。


しばらく空を飛んだ。どのぐらい飛んだか分からないが、降ろされると、空港っぽいところだった。

管制塔。短めの滑走路。格納庫。

わらわら人が寄ってくる。みんな同じような軍用ベストを着ている。しかしほぼおっさんだった。やっぱり、とか敵、とか二、三の単語が聞き取れる。


「敵じゃないっすよ!アメリカ人ですって。」

ちゃんとアメリカ国籍持ってる。そりゃお袋は日本人だし、父方の爺さんはスペイン人だし、いろいろ入り組んでるけど、生まれも育ちもアメリカだ。少なくとも弁解もなしに刑務所行きってことはないだろう。

しかしみんな、一瞬きょとんとした。そしてざわざわし始める。


俺を連れてきた女の子が、何か叫んだ。ざわざわがぴたりと止む。

何かと思ったら、もう一人女の子が現れた。こんな場に似つかわしくない、十七、八の女の子。ショートカットの巻き毛は明るいブロンド。灰色の瞳。控えめに言っても美少女だ。

しかしやっぱり軍用ベストみたいな服を着ている。いかつい。


彼女は俺を上から下まで眺めた後、俺を連れてきた女の子を見て、何か言った。

風防グラスを上げた赤い髪の女の子は、ぶんむくれた。こっちも可愛い。女の子だ。どう見たってハイティーンの女の子だ。

ブロンド巻き毛の方は、ひょいと手を伸ばして、俺がつけているヘッドホンをぐりぐり触った。

「これ&%&翻訳$#%#うーん。だめかなぁ。ん?聞こえてる?分かるか?」

雑音みたいに聞こえていた単語が、急に理解できるようになる。うなずくと、ブロンドはすっと目を細めた。


「大戦以前の、北部共用語か。」

「わぁ。そんな言葉、まだ使ってる人がいたんだ。」

赤毛の方は、まだサブマシンガンから手を離さない。

「まだ生き残ってるシェルターでもあるのかもしれない。ユーリィ、こいつどこにいた?」

「真っすぐ北の方。基地のレーダーに映るぎりぎりのところだったよ。熱反応があったから。」

「ふぅん。」


とりあえず地下に放り込んどいて、とブロンド巻き毛に指示されて、男どもが俺を牽きたてた。

「あの、ちょっとちょっ、あのここ、どこなんですか?」

手近にいた、無精ひげのおっさんに聞いてみる。おっさんたちは、顔を見合わせて肩をすくめた、

「何言ってるか分からんな。」

「おーい、フィーン。こいつ、何言ってるんだ?」


すると、さっきのブロンドと赤毛が戻ってきて、ヘッドホンからマイクっぽいのを引き出した。おお。こんな構造になってたのか。

「何か言いたいことがある?」

「ここがどこか、教えてくれますか。」

一応丁寧に聞いてみる。

「どこって。・・ティエゴ地区の西の端。最前線だ。抵抗すると殺すぞ。」


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