表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドクター・パラドックス  作者: たかなしコとり
前編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/42

第17話 恋人

アイリィからの手紙は、本当に大きな希望になった。

でも、元の世界に帰れたかもしれない機会を逃したことは、落ち込むには十分な理由だった。

修理中だった端末を放り出して、一番奥の養生ベッドでふて寝を決め込んでいると、クーガが夕食を持ってきてくれた。

「具合悪いのか? ユーリィから話は聞いた。」

「うう。ありがと。メシそこ置いといてくれ。」

「何言ってんだ。洗い物あるから、さっさと食ってくれ。今食えないなら下げる。」

くそー。オニだな。


渋々起きて、椅子に座って、クーガから食事のトレーを受け取った。

「新しい司令官が来るんだろ。お前はここに残るのか?」

スープを飲みながら、クーガに聞いた。

「ああ? そうだなぁ。その司令官との相性次第だな。相性よさそうなら残る。」

「フィーンと別れて?」

「んんん。別れるってかさ。あいつはさ、ちゃんと街で学校行った方がいいって。まだ十六なんだからな。」

うおー、十六。十六でした。すげぇな。


「でも俺はさ、それを卒業までただ待ってるなんて、できそうにないわけ。同じ待つなら、ここで待ちたいね。」

ふーん。

「お前、歳はいくつだ?」

「俺か?二十五。」

まさかの俺より年上。そうか、戦歴七年とか言ってたもんな。なんとなく同い年のデルモンテといっしょになってた。


「フィーンから見たら、おっさんじゃん。」

俺が突っ込むと、クーガは肩をすくめた。

「俺もそう思う。でもここじゃ、俺だって下から二番目とかそんな感じなんだ。」

「一番下は誰だ?」

「お前だろ。」

えっ。そうなのか。

「だからフィーンの感覚がおかしいんだって。周りにおっさんしかいないからな。」

普通に学校に行って、同じ年頃の彼氏を見つけたほうが良い。

クーガのいう事は真っ当だった。


「でも恋人なんだろ。」

「手は出してない。チューどまりだって。さすがに九歳も下じゃな。」

他に全然選択肢のない状態で好きになられても、どこまで本気なのか分からない。


「まあ、待てといわれりゃ待つさ。浮気なんかする余地もない。ここじゃ女っ気全然ないからな。おかま掘られて一人前とかそんな世界だから。」

「わー!!やめろ、怖いだろ!」

嫌がる俺に、クーガはひっひっひと笑った。

「お前も狙われてるぜ~~。若いし!いい体してるし!男前!明後日には町に行ってしまうし、後腐れなし!最高の物件じゃないか。今晩あたり、お誘いがあるんじゃないか~?」

散々からかった後、クーガは俺が食べ終わったトレーを提げて、医務室を出て行った。

ひでぇ。


男に襲われる可能性を示唆されて、その夜はまともに眠れなかった。

ここは軍事基地でもあり、前線でもある。常に人が動いている気配がある。医務室だから、誰が入ってきてもおかしくない。

一番奥のベッドで、ぎゅっと縮こまって寝ていると、ドアが開く音がして人が入ってきた。

バンソーコーでも探して出て行くかと思いきや、すーっと近づいてくる気配がする。


「おわっ」

びっくりして、ベッドの上に座りなおす。

「あ、ファラ。起きてた?起こした?」」

ユーリィだった。

「なんだ、びっくりさせんなよ。用事か?傷の手当か?」

彼女の太ももには、まだ例の止血テープが貼ってあるはずだ。


「違うって。あのさー。明後日。町へ行くでしょ。あんたも一緒でしょ。ルーシアがあんたの面倒見るとか言ってたけど、なんで? こっ恋人になったの?」

はい?

「なんでだよ。街へ行くとは聞いたけど、ルーシアが?俺の面倒を見る? そんな話は初耳だって。それになんというか、俺、ここに残るかもしれないし。」

「え!なんで?」


今日の手紙の件がある。

何がどうなっているか分からないが、あそこが元の世界への門になっている可能性が高い。なんならあの岩の辺りでキャンプしていたい気分だ。

そう説明すると、ユーリィは小首をかしげた。

「基地に残るのは無理だと思うよ。そりゃ今はさー、フィーンが仮の司令官みたいな感じで、結構ゆるいからさ。あんた一人ぐらい紛れてても平気だし、あそこまでAMF飛ばしても問題にならないけどさ、本当だったら物資の配分とかすごく厳密だよ。この前の前の戦闘で、あんたが勝手にAMF使ったことだって、大問題だよ。まあ、電源入る状態になってたのも良くなかったけどね。次の司令官きたら、捕虜か保護した一般人て体で街へ送り返すしかないと思う。それか急いで傭兵登録するか。」


ええー。そうなのか。困った。

ユリフェルは、唇を尖らせた。

「元の所に帰りたいんだ?」

「まあ、一応親も心配してるかもだし。俺まだ学生だし。」

「へー。結構いい身分なんだね。」

そんなこと言われる筋合いは、と思いかけて、ああ、そう言えばユーリィはどこかの町でかっぱらいをやってたって聞いたな。それもずいぶん小さい頃に。


「お前はさ、街へ行って頼れるあてはあるのか?」

「フィーンがいるから。ボスのおかげでお金も貯まったし、部屋借りて職探しする。」

そうなんだ。少し安心する。

「まあとにかくさ、俺の事は心配するな。お前が連れてきてくれたおかげで、飯も食えているし、ベッドで眠れている。後の事は何とかなる。お前もさっさと寝ろ。」

話しているうちに俺も落ち着いた。あくびが出た。

ユーリィを見送って、もう一度ベッドにもぐりこんだ。


ここを出て行かなくてはいけない。次どうやってあの岩場に行くか考えないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ