第15話 撃墜王
「よ、撃墜王!」
基地に戻ったら、散々フィーンに叱られた。そりゃそうだ。貴重な機体を、もう少しでダメにするかもしれなかった。
しょげている俺に、クーガが冗談で「ファラ・イーグル」と仇名をつけた。本当の所、追っかけられていたユーリィは危なかったらしい。
後から聞いた話だが、やはり他にも何人か医務室に運び込まれていた。止血テープで何とかなったが、戦力の低下は免れられない。
そして午後、さっそくクーガは俺に、機体の扱い方を訓練すると言い始めた。
「AMFを動かしたことさえない奴が、飛ばしてさらに敵機を落としたなんて、今まで聞いたこともない。お前、素質あるぞ!」
いや、いろいろ運が良かった。
「素質とかじゃなくてさ。やむを得ずだ。あのままだとヤバそうだったから、出ざるを得なかった。」
俺がそう言うと、クーガの笑顔がひきつった。
「ま、いざと言う時の為に、操縦知っておいて損はないだろう。」
あからさまな言い訳だ。非戦闘員まで駆り出さないといけなくなったなんて、ホントにマズい状況なんだよな。
大体ユーリィだって、ついこの前、ずいぶん失血したので、まだ本調子とはいえない。それでも戦闘員として参戦せざるを得ないのだ。
かなり逼迫している。
「とりあえず協力はするけどさ、戦力として期待するなよ。」
「分かってる。」
AMFを動かすのは簡単だ。
問題は、敵に撃たれない技術。敵を撃つ覚悟。
いや、ムリでしょ。
人殺しは出来ない。
そう言うと、クーガはうなずいた。
「当たるとは思ってないさ。撃墜王。目くらましとか。救援とか。そんな感じで頼む。」
軽く言うなぁ。
とりあえずバルカン砲の打ち方と、車で言うとドリフト走行みたいな、そんな技術を教わる。
まあ、実際に役に立つかどうかはともかく。
何にしろ、足の鎖をはずしてもらったのはよかった。
そして早速、翌々日の朝、緊急発進があった。
「ファラ!あんたも出撃!」
インカムから聞こえるフィーンの声に叩き起こされる。
ええっ!俺も?もう?
服を直しながら、慌てて格納庫へ走る。
追い付いてきたクーガが、並んで走りながらφと書かれた機体を指した。
「お前のは、そっちの機体。俺が援護につく。心配するな。」
もたついていると、整備のおっさんにAMFに押し込まれた。
「進路よし。発進!」
くそ。
発進ボタンを押す。自動で浮いて、センサーで駐機場まで進む。
そこでアクセル・ペダルをゆるゆる踏み込んだ。
「遅い!二時の方向!」
敵の機体が六機こちらに向かっているのが、レーダーに映る。
こちらは八機。
まだ肉眼では見えない。
クーガがすごい勢いで突っ込んでいく。もう少しで接触しそうになった瞬間、しかし相手の機体は大きく弧を描いて、西の方へ移動していく。
「どうする? 追うか?」
クーガの声に応じて、フィーンの声が飛んだ。
「いや、深追い禁止。奴らの狙いは、中央からの救援だ。そっちはそっちで何とかするだろう。全機帰投。待機。」
「了解!」
複数人の応じる声がして、今度は帰投する機体とすれ違う。
急いでUターンして、基地に戻る。
駐機場から格納庫にAMFを入れると、どっと疲れた。
「ファラ!そこでのんびりするんじゃねぇ!待機だからな!いつでも出られるように、この辺にいろ。」
うえええ。朝飯もまだなんですが。
しかしこの、窓のない機体。
乗ると分かる。撃墜されたときに、シートごと脱出するようになっている。
俺の知っている戦闘機は、キャノピーが開いて、操縦者を上へ放り上げるんだが、これは違う。
撃墜されても、モーターなので絶対爆発しないし、色々ジャイロ機能とかが働いて、必ず不時着するようにできている。その時に窓があるとむしろ脱出が難しくなる、ということらしい。
まあでも、言い訳に近い。
窓代をケチっているとしか思えない。とにかく内装がちゃちい。
横から撃たれたら、たぶん死ぬ。
待機と言われて昼近くまで駐機場にいたが、結局戦闘は、もっと北の方であったらしい。
朝昼兼用のメシを食堂で食う。
思ったより人が少ない。朝晩交代制としても、出撃できたのが八機。整備員とか調理班とか含めても、昼間はせいぜい十五人そこそこしかいない。
「この基地、ヤバいよな?」
医務室に戻ると、ルーシアがいた。俺がつなぎなおした端末を、触っている。
思わず聞くと、お嬢さんは肩をすくめた。
「今のところ、かなり滅茶苦茶だよ。」
まあ、フィーンが司令官代理をやっている時点で、相当滅茶苦茶なのだ。
みんな、よく頑張ってるよな。
午後、急に辺りが騒がしくなった。
何だろうと様子をうかがっていると、一旦自分の部屋に戻ったはずのルーシアが忙し気にやってきた。
「辞令が降りた。やっぱり中央から新しい司令官が来る。フィーンはユーリィと一緒に街へ戻る。副司令官も戻るし、私も自分ちに戻る。」
え、俺はどうすりゃいいの。
「いろいろ検討したんだけど、あんたは捕虜ってことになってるから、やっぱり町へ行くことになるだろうな。」
「いつ?」
「二日後だ。まあ、フィーンから話があると思う。詳しくはその時に聞きな。」
街の名前はゲイブリール。ルーシアが行くという自分ちは、フレインシーサ。なんとサンフランシスコだった。
「ずいぶん時間かかったんだな。」
「軍はエイムリーサの軍なんだけど、ベルナディーノ領だからね。こっちから出せって揉めてた。今回も、以前パサデナに駐留していた陸軍を、中央が引き上げるというのを、ベルナディーノ家がお願いして国境警備のためにここに残してもらっている、ていう立場なんだ。本隊はフレインシーサにあって、そこから司令官をお願いしている。」
なんか面倒くさくなってきたぞ。
俺が考え込んでいると、
「ま、とにかくそこはあんたには関係ないから、移動の心づもりだけしておいて。」
とルーシアは去っていった。




