第12話 寒冷化
医務室の床に道具を広げる。
端末二台を分解して、キーボードとモニターを付け替えた。
四百年たっても、機械は電気で動くし、配線は銅で出来ている。感動するなぁ。
なんとか元通りに組み立てなおして、電源を入れる。おお、画面が映った。ちょっとエラーメッセージみたいなのが出たが、読めないのでスルーする。
基本操作は、パソコンと変わらない。これはこれで、一つの完成された形なんだろうな。
ブラウザらしきところをクリック。地図らしきアイコンをクリック。おー、動くねぇ。
「読めるのか?」
急にのぞき込まれたので、びっくりする。いつの間にかクーガが戻ってきていた。
読めるというほどではないが、いくつかの単語が分かる。特に固有名詞はあまり変わらない。
おそらく発音が変わっただけで、綴りはそんなに変わっていない。エイムリーサはアメリカ。メヒーガはメキシコ。結構読める。
クーガに単語の意味を聞いたら、相当読めるようになった。
いくつか調べてまず分かったことは、世界は冷えている、という事だった。
理由は推測できる。
圧倒的に人が少なくなったことや、ミサイルを飛ばし過ぎて石油が枯渇したこと、おそらく石油の採掘施設なんかも吹き飛んだんだろう。
化石燃料の供給ができなくなった。それまで稼働していた色々なものがすべて止まったせいで、地球の温暖化も止まって、今度は逆に冷えてきたらしい。
いくつかの写真が見られたが、北極圏の氷がどんどん南に進出して、どこかの海では流氷で船が動かなくなっていた。
飛行機の技術は失われたらしい。
ただ船は、重油ではなく、風力とか電力とかで動いているらしい。物流の基幹は船に移っている。
地面が凍るので、耕作可能な土地がどんどん南下している。
そして凍ることで、世界的に水が減っている。海水面も下がっていて、それまで海に沈んでいた土地が、島として人が住めるぐらいになっている。
ただし、長い間潮に浸かっていたので、塩分に強い植物しか育たない。
温暖化が止まって、前は砂漠と呼ばれていた土地に定期的に雨が降るようになったが、土地が砂浜みたいな状態で痩せているので、大した作物は取れない。食べ物がないから人が増えない。人が増えないから、どの産業も大して伸びない。
終戦から四百年たっても、この状態だ。八方ふさがりだ。
そりゃ、絶滅を心配するわけだ。
しかし生物学的な観点から言えば、人が減れば、相対的に他の生物が増えるはずだが、その記事が見当たらない。
調べる余力がないのか。ただただ生物の総数が減っているのか。
あちこち調べていて見つける。記事がみな古い。今ARO四二二年だとルーシアが言っていた。しかしその年度の記事が、あまり見当たらない。
今の政権は誰が取っているのか。大統領は。議会は。軍事は。隣国との外交は。同盟国は。
そう言った記事が、ほとんどない。
資源は。貿易は。国内総生産は。
少ないなら少ないなりに、何かしらの数値があって当然だろう。しかしそれもない。
どうなってんだ、アメリカは。
「おーい、もういいだろう。早く晩飯食っちまえよ。」
クーガがあきれて声をかけた。机に食事のトレーが置いてあった。持ってきてくれたんだな。
「ああ。すまん。」
端末を取り上げられた。あああ。
「もういいだろう。どうせ大したことは分からない。それより他のも持ってくるからさ、それも直してくれよ。」




