第11話 端末
「暇人同士で何話してんの。」
クーガが、トレーを片手にやってきた。
「お昼だぜ~。ルーシアの分は、食堂にあるぞ。取ってこようか?」
「いや、食べに行くからいい。」
ルーシアは椅子から立ち上がって、医務室を出て行った。
「何話してたんだ?」
「人類の歴史について。」
「へ~~~!すげぇつまんなそう。」
「つまらないか?」
「だって、もうすぐ人間絶滅しそうじゃん。子供は生まれないし、年寄りはジャンジャン死ぬし。食料生産量あがらないし。あ、死ぬから生産量上がらなくても大丈夫か。」
クーガは笑いながら、テーブルにトレーを置いた。
「でもまあ、俺なんかが考えたって仕方ない。」
「そんなことないだろう。一人ひとりが声を上げて、政治に反映させないと。」
「それで何となるんなら、今頃もうちょっとマシになってるんじゃないか?」
投げやりだなぁ。
「もう少しここの事を勉強したいんだが、本とかないのか?」
「そんな場所取るものは、ここにはない。フィーンに予備の端末あるか聞いてやるよ。」
パソコンとか、スマホとかの技術は残ってるんだよな。なんならドローンの技術も残っている。それで人類絶滅しそうとか、どうなってるんだろう。
「一緒に来るか?」
基地の中をうろうろしたのは初めてだった。といっても、通路だけ。すごく狭い。両側に部屋があるのか、通路に窓はない。
「あちこち触るなよ。」
警告されたが、すれ違うのも難しいぐらい通路が狭い。向こうから来たおじさんに、フィーンの場所を聞く。
「捕虜連れてんのか。どーすんだ、そいつ。」
「んー。考え中。」
「無駄飯食わせる余裕はないぞ。」
「分かってるって。」
階段を上って、ぐねぐね通路を曲がった後、どこかの扉の前で、インターフォンを鳴らした。
「フェリア、いるか?」
「クーガ?入って。」
片開きの自動ドア。ガーっと開くと、フィーンが走ってきて、クーガに抱き着いた。そして濃厚キス。
うわ。
「おーい。だめだって。」
クーガがやっとフィーンと顔を離して、俺を指さした。
フィーンはキョトンとした後、一瞬だけ真っ赤になった。
「何。」
ふ・・二人ってそういう中だったのか。びっくりだ。まあ、分からなくはない。
クーガは割と男前だ。それにチャラいところはあるけど、基本、誠実だ。好きな事に対する情熱もある。あ、いやそれはデルモンテだった。なんか、ごっちゃになるな。
「あー、こいつが使える端末、ないかなと思って。」
「第三倉庫に古いのがある。それでよければ。」
ほとんど瞬間的に司令官の顔に戻るフィーンに、感動する。
しかしちらりと見える部屋の中は、超ファンシーだった。薄いピンクの毛足の長いラグと、壁に造花っぽいリース。クマっぽいウサギっぽいぬいぐるみ。
まあ高校生の女の子だもんな。
「そんな用なら、無線でいいでしょ。なんでここまで来るわけ。」
ちょっと怒っている。が、クーガはかるくいなした。
「来週、中央の決定が降りるだろ。君、どうすんの。」
「どうしようもない。新しい司令官が来たら、私やユーリィは居場所がない。町へ行くしかない。」
「あてはあるのか?」
「バルベイラに母の姉が住んでるって聞いてる。」
「こいつ、連れてってやってくれる?」
「何でよ。ユーリィは連れてくけど。そっちは無理。」
「そっか。だよなぁ。」
「医者なんだから、ここで働けばいいじゃない。食事と寝るところがあれば、なんとかなるでしょ。それよりもあんたよ。クーガ。ここに残るつもり?」
「えー、俺、職業傭兵だからなぁ。」
「私がいなくなってもいいの?」
「よくはないけどさー。」
のらりくらりとはっきりした返答は避けつつ、まあまあ、俺が好きなのはフィーンだけだからさ、などと甘い言葉をかけつつ、クーガはまた後でな、とフィーンの部屋の前から身を翻した。
なるほど、俺を連れてきた理由が読めてきた。
ここにいるのは、俺やクーガよりずっと年上のおっさんばっかりだ。フィーンの恋愛対象には年が離れすぎている。
たぶんクーガはこの基地から離れられないか、離れたくないかなので、身代わりに俺とフィーンを仲良くさせて、八方丸くフィーンを町へやろうって腹なんだ。
クーガはそのまま俺を、第三倉庫とやらに連れて行ってくれて、棚の箱の中にぎゅうぎゅう詰めにされていた端末を出してくれた。
どれもどこか壊れているか、傷だらけだ。
その辺のアウトレットに充電コードを差し込む。
最初の二つは電源が入らない。次のは画面が割れていて使い物にならない。でも電源は入るようだ。
「うーん。こっちのパネルをこっちに付け替えてみるか。」
「え、お前、直せんの!?」
「やってみないと分からないが。」
クーガはパチンと指を鳴らした。
「やってみてくれ。どうせここにあるやつは、補給基地に送り返すしかない。新品と交換してくれるかも分からないしな。」
基本的な見た目はラップトップパソコンと同じだ。いける・・かも。
工具を出してもらう。
「じゃ、直ったら連絡くれ。」
「え、俺一人にしていいのか?」
「あーじゃあ、全部持って医務室行こう。」
危機意識が薄い。いいのかね。
もう一回鎖につながれた。
はいはい。変に何かの疑いをかけられるより、ここでおとなしくしてます。




