第10話 歴史
ぐずぐず考えてたって、時間は止まっちゃくれない。
翌日もまた、緊急出動みたいなのがあって、何人かけが人が運び込まれた。
止血テープを貼って終了。ひどそうなのは、ステープラーで止めて、上から止血テープ。医療は・・進化している?
一通り片付いて、また医務室が静かになると、ひょいと誰かが部屋を覗いた。
あ、えーと。ルーシアだ。
「暇?」
と聞かれた。
「まあまあ。」
「第三次世界大戦の前から、時間旅行してきたって本当か?」
背が高くてすらっとしていて、クールビューティって感じだ。たぶん俺とそんなに年が離れていない。茶色みの強いブロンド。体にぴったりあうシャツに、こちらもぴったりした、スリムパンツ。似合う。そして品がある。なるほど、いいところのお嬢さんって感じだ。
「まあ、多分。前いた時代は、二十一世紀だった。」
「へぇ。BTWってこと?」
なんだそれ。
「BTW?」
「第三次世界大戦前のこと。大戦の時に何もかもぐっちゃぐちゃになったから、新しく仕切りなおすために、年号を変えたんだってさ。今はARO四二二年。」
おおー。なるほど。すげぇ。
もっと話を聞きたくて近寄ると、ルーシアは医務室の外へ逃げた。うわ。警戒されてるなぁ。
「なんもしないって。話を聞きたいだけ。暇なんだよ。」
「だったら、もっと部屋の端っこ行ってくれる?」
仕方ないので、医務室の隅っこに寄った。
ルーシアはまたドア口に姿を現す。
「それで?聞きたいことって?」
「BTWの事。もっと詳しく知りたい。」
俺はベッドのふちに座って、質問を投げかける。ルーシアは足を延ばして医務室の椅子をひっかけると、がーっと入り口近くに引っ張って、そこに座った。お嬢様の仕草とは思えない。
「あー。まあ昔のことだから、そんなに。エイムリーサよりもケイネディアの方が、色々残ってるらしいね。博物館も充実しているらしいし。」
「歴史は得意?」
「まあまあ。でも大戦前のことは学んでも仕方ないって、あまり教えてもらえない。詳しくやって、また戦争になっちゃいけないんだってさ。」
「えー。学ぶからこその教訓があるだろう。」
「そりゃそうなんだけどね。とにかく前の大戦が、なんかすごい武器の取り合いになったらしいんだよ。」
今では詳細を誰も知らない謎の武器。エイムリーサが開発して、次々に周りの強国を同盟国にしていったらしい。
世界征服。
というか、まあよく言えば世界統一を果たすところだったんだが、その直前、その武器が他国でも開発された。そうすると、まるでオセロの駒をひっくり返すように、同盟国が敵国に変わった。
エイムリーサは、技術を盗まれたと相手を攻撃し、その武器を破壊しようとした。相手国も全力で抵抗する。結果、お互い同盟国を巻き込んだミサイルの打ち合いになった。
「ざっくり言えば、そんな感じ。」
言葉で聞くと、あっさりだが、想像するとちょっと怖い。
「そんで?勝ったの?負けたの?」
「お互いにすごい被害になったんで、痛み分けの終戦ってことになった。核ミサイルのボタンを押した直後だったんで、急いでこの辺りで自爆させたらしい。」
「なんか、・・・隕石説は?」
「それもある。ただの核ミサイルでは開かないぐらいの穴が開いたらしいから。」
ルーシアの話では、そのミサイルの打ち合いで、世界人口はそれまでの五分の一以下になったらしい。直接ミサイルの被害にあった人もいるし、農地が荒れて食料生産が落ち、かなりの国で飢餓状態に陥ったせいもある。
例の武器は解体され、製造方法も処分された。作った科学者は、全員生涯監視が付いたそうだ。
「とにかくそれで、まあ一応収拾着いたんで、国際連合の会議が数十年後に開かれたとき、もう少しで世界の破滅になるところだったのを反省して、ARO元年と年号を改めた。」
新しい世界よこんにちは。
しかしその、すごい武器というのが気になる。核ミサイルではなさそうだ。
「その武器ってどんなの?どこに配備されてたんだ?」
「知らないって。大戦以前の歴史については、国立図書館に行けば本やデータが残ってるけど、見るのに国の許可がいるし、見ても絶対口外できないからさ。学校で習う歴史も、国の検閲を通って許可されてる部分だけなんだよ。」
徹底している。
「知りたいとは思わないのか?」
「国ににらまれるよ。それに人類が、歴史に学ばないことは知ってるから。」
うわー。辛辣だな。
「これだって、私がベルナディーノ家の娘で、学校に行けたから知っている知識で、ユーリィもフィーンも、通信教育で簡単な読み書き計算ぐらいしか習ってないし、あとはここにいる傭兵連中から吹き込まれるデタラメな知識で、それでもちゃんと生活している。」
ルーシアは不満そうだった。
「歴史を詳しく知りたい?」
「そうじゃない。」
ルーシアは言葉を探す。
「デタラメな知識でなんとかなっているのが、納得できない。フィーンに私が知っていることを教えようとしても、『ここでは必要ないから』と言われてしまう。それで罷り通るのが許せない。」




