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第1話 友人

イオン加速器が暴走した結果、多次元世界の存在が明らかになった、と聞いたのは、俺が中学生の頃だったと思う。

もっとも、適当なゴシップ紙のネタになっただけで、その後特に何かニュースになる訳でもなく、宇宙には宇宙人がいます的な位置づけのまま、そのゴシップネタもいつか忘れられて十年。中学生だった俺は、全力で医者を目指していて、やっとメディカルスクール1年目をこなしているところだった。


「なんで誰も何も言わないと思う? 政府はあれを、何かの兵器に使えると思っているらしい。」

友人のデニー・エルモンが、ビールを飲みながら言った。

「馬鹿げてる。どうやって、何に使うんだよ。」

「一般人が知らないだけで、実用化に向けたいろんな実験をしているぜ。」

「なんでお前がそんなこと知ってるんだよ」

「この前の秋から、それの研究している。」

「嘘だろ。」

「ホントホント。」


二杯目のビールを飲み干すデニーに、俺は恨めし気な視線を送る。俺はこの後、夏休み中に出されたレポートの準備に取り掛からないといけないから、酒は飲めない。

こいつは小学生のころからの友達で、高校まで一緒だった。その後大学では俺はUCLAに、こいつはカリフォルニア工科大学に進んだが、付き合いは変わらない。大学も近かったので、年に二回ぐらいこうやって会ってメシを食っている。


「卒業して、パサデナのIT企業に就職したって聞いたけど?なんでまた。」

「そこからの出向。歴史的発見だろ。面白そうだから、募集に応じたんだよ。これで何かに利用できるようになれば、人類の歴史が変わるぜ。」

「うは。お前そういうの好きそうだよな、デルモンテ。」

昔のあだ名を呼ぶ。誰がつけたか、小学校の頃にそう呼ばれていた。某ケチャップメーカーの名前だ。

「お前だって好きだろ。ファラ。」

こっちは俺の高校の頃のあだ名だ。百年ぐらい前にいたファラ・フォーセットという女優と、俺の顔がそっくりだったらしい。調べたけど、全然分からなかった。似てるか? むしろ髪型か?

「へへ。まあ、わくわくするけどな。なんか見つかったら教えてくれよ。」


デニーはウイスキーをロックで注文した。

「ところで、お前、前話してた可愛い後輩ちゃんと、なんか進展あったのか?」

ジンジャーエールを吹きそうになる。

「なんもねぇよ。」

「え、なんもねぇの?」

「この前、デートに誘って、人気のレストランも予約したけど。」

「え!それで?」

「育ててた細胞ちゃんがピンチになって、そっちを優先された。」

「うわ。細胞に負けた・・・」

「やめろよ。デートはいつでもできる。実験は、一度失敗したらやり直すの大変だから。」


ひたすら真面目なアイリィは、大きな瞳をうるませながら謝ってくれた。もうそれで十分。

「可愛いんだよな~。華奢で抱きしめたくなる。」

「やめとけよ。お前みたいなマッチョに抱きしめられたら、背骨が折れる。」

「マッチョ言うな。ちょっと鍛えてるだけだ。」


実際、外科医とかになったら八時間立ちっぱなしでオペとかやるし、みんなマラソンやったりジム行ったりしてそこそこ体を鍛えている。俺も自慢じゃないが、腹筋は割れている。

「UCLAの一年後輩だっけ。同じ医科大に進むのか?」

「受けるとは言ってたけどな。まだ結果を聞いていない。」

「受かってりゃいいけど。」

「私大も受けるって言ってたけどな。離れるのいやだなー。」

「やりたい職業があったら、わがままも言ってられないだろ。」

デルモンテはハイボールを頼んだ。かなりのハイペースだ。

「なんなら俺んとこ来いよ。俺のコネで入れてやる。」

「バカ野郎。お前の変な実験の手伝いなんかさせられるか。」


四杯目の酒で、デニーはさすがに酔っ払ってきたらしかった。なんか嫌な事でもあったのかな。こんなに飲むとは珍しい。

「お前もういい加減にしとけよ。家まで送ってやる。」

「はいはい。全然大丈夫だよ。」

足元の怪しい幼馴染を送っていくのに、タクシーを呼ぼうとすると、ほい、と車のカギを渡された。

「取りに来るの面倒だからさー。これで家まで送って、そこからタクシーで帰れ。」

うげ。こいつ車で来たのか。

「パサデナだろ。勘弁しろよ。」

「近い近い。」

最初からそのつもりだったな、こいつ。


まだ十時になってなかったと思う。

「そこ右」「左」「まっすぐ」というデニーの指示に従って運転していると、どんどん山が近くなってきた。

「あれ、こっちだっけ。」

「そこ左。塀に沿って、20ヤード。」

停めたのは、なんかよく分からない公園の入り口みたいなところだった。少なくともデニーの家ではない。こいつは大学近くのアパートに部屋を借りて住んでいるはずだ。


「いいかげんにしろよ。俺、これからレポートだぜ。なんのために酒を我慢したと思うんだ。」

文句を言うと、デニーはひらひらと手を振った。

「例の次元の裂け目、ここにあるんだぜぇ。見たくない?」

「え?」

こんなところに? 嘘だろ。確かテキサス州かどっかにあるイオン加速器の実験室じゃなかったっけ。昔、電磁石かなんかの爆発事故を起こして大問題になった。違うのか。


「それは本当。今でもそこにある。だけど、四年前の実験が失敗して穴はふさがりつつある。」

「ええ?そうなのか?」

「こっちは実験の結果、もう一個できた次元の裂け目。作り出すのには成功したけど、近くにいた研究員が吸い込まれて、消失した。」


うわっ。めっちゃヤバい。青ざめていると

「実験が極秘だから、事故もなかったことになってる。先月のことだ。そんで先週になって、その穴から突然戻ってきた。そいつが言うには、穴の中は図書館の本みたいに複数の世界が並んでいて、どこでも好きなところを覗けたらしい。どうよ。おもしろくね?」

おもしろい。しかし。


「いや、ちょっと待て、お前そんな事、べらべらしゃべっていいのか?国家機密なんじゃないのか?」

「お前がだまってりゃ済むことだろ。」

酔っ払いがへらへら笑っている。いやいや。俺でさえ、医科大入るのに百枚近い契約書とかにサインさせられたんだぞ。ばれたら逮捕どころの騒ぎじゃない。

「分かった。とにかくいったん家に帰ろう。この車、今どきナビも積んでないのか。ちょっと待ってろ。」

後ろの座席に放ってある俺のカバンから、端末を取り出すのに、いったん車を降りた。

後ろで何かが光った。

記憶があるのはそこまでだった。


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