取り戻す朝 〜哀しみからの再生〜
日本に戻る飛行機の中で僕は時間をもてあましていた、時差ボケが招いた不規則な睡眠のせいであまり眠くもならず、映画でも見ようとモニターを眺める
ふとかつての恋人と見た懐かしい映画が目に入り、そこに流れる緩やかなテーマ曲が僕の心を締めつけた
飛行機が雲の中に入り夜の帷の中に入ると僕はその静寂に合わせゆっくりと目を閉じた
記憶が10年前へと遡ってゆく
彼女は僕が高校の時に出会った女の子だった、彼女はどこか大人びていて16歳にしてもう世の中のすべてがわかっているような顔をしていた
彼女は誰かと行動を共にすることがほとんどなく、でも不思議とそれが孤立している様に見えるということでもなかった
僕達は自然と仲良くなり、休日にはよく2人で映画を見た、その後に2人で夕飯を食べ僕の部屋に来た彼女と一晩中見た映画について話すこともあった
僕が喫茶店で彼女と待ち合わせるとき、彼女は大抵僕より少し前に着いて本を読んでいた
僕が彼女の座の前についた時、彼女は少し躊躇いながら夢中になっていた本から視線を外し僕を見て微かに表情を緩める
僕はそういう時の彼女がとても好きだった
ある冬の日、僕と彼女は九段下を出てしばらく歩き大きな公園に着いた
澄んだ空気の中を歩いていると木の麓に小さな小鳥が死んでいた
寒空のおかげか鳥はついさっきまで生きていたように綺麗に保たれていた
「こんな寂しい場所でたった一羽で冷たくなるなんて」
彼女はそう言って鳥の傍にしゃが見込み、
「生まれかわったら暖かい春の日に思い切り飛びまわるのよ」
そう言って、かじかんで赤くなった小さな両手で土をすくい、そっと鳥にかけてやった
彼女の白い息と寒さで赤くなった頬を見て僕は彼女が血の通った暖かい女の子である事を強く感じ、僕は彼女をとても愛おしく思った
彼女はたまに不意に思い詰めたように黙り込む時があった
僕が「どうしたの?」と尋ねると彼女は僕の瞳をじっと見つめ
「わたしあなたにどうしたの?って尋ねられると急に自分が小さな子供になったみたいな気分になるの」
そう言って彼女は僕の体にぴったりと身を寄せた
「君は物事を難しく考えすぎるてる、君が思ってるほど世の中は難しくなくてもっと単純だよ、なにかがあったとしてもきっとなるようになるよ」
僕はいつもそう言って彼女の背中をゆっくりと撫でた
雨の降る4月の夜、彼女は命を絶った
彼女は突然にこの世界から存在を消し、僕は彼女に永遠に会うことができなくなった
それは本当に突然のことで、ふと気がついたときにはもう止められなかった
彼女とのたくさんの思い出の中のシーンががバラバラになり散らばっていた
彼女はただふっと僕の生きる世界の中から消えてしまったのだ
彼女を失ってから僕は大学に休学届を出した、
駅につき、目に入った電車に乗り、それから1ヶ月間、どう歩き何を食べどう生きたのか、僕にはほとんど思い出せない、ひたすらいきついた土地を歩き回り、時には安宿に泊まり、とある日は公園で寝た
夢の中で彼女のイメージがただひたすらに浮かび上がり、暖かい彼女の温もりで僕の心は暖かくなった
朝になり目覚めると夢の中の暖かい彼女は消え去り、酷い虚無感と喪失が僕を襲った
そんな中ふと1羽の鳥が僕の目の前にある木にとまった
あの冬の日に彼女が土をかけてやった白い小さな鳥だった
鳥は僕をしばらく見つめると、綺麗な羽根を羽ばたかせて5月の初めの空に飛んでいった
僕は思い切り泣いた、泣いたというより、自分の意思とは関係なく涙が目から流れ出てきた
ひとしきり泣いた後、僕はひどい姿で大学に戻った
長い夜が明け、飛行機の窓から新しい朝の光が入り、僕はそっと目を開けた
モニターに映る、かつて彼女と見た映画に目をむける
ふと窓の外を見ると、あの日と同じ真っ白な白い鳥が視界に入った
鳥は映画の曲調に合わせるように緩やかな曲線を描いて飛んでいった
飛行機は無事に着陸した、また新しい1日が始まる、
僕は朝日の中を歩きだした




