8.アリアフィディーナぁ~っ!(呪詛)
『仕方ないわね、助けてあげましょう。』
あ、ポンコツ様ことアリアフィディーナだ。
なに?
さすがにかわいそうになったから、救出してくれるの?
『はい、これでよし。』
ふんす、という、得意気な鼻息が脳内に響いてきた。
同時に、身体の不調が一切なくなる。
そう、お腹はいっぱいだし、ほこりは体内からすべて消え去り、吸う空気はきれいなものになっている。
『これであと半日は頑張ってちょうだい。』
……。え……?
ちょっと待って、今、ポンコツ、なんて言った?
あと、はんにち?
―――うそでしょ?
うそ、だよね……?
「じゃ、そーゆーことで!頑張ってね~☆」
%’‗&*#※$«?"#∴%□⁉……ッふ、ふざけてるよ~っ‼
どれだけ憤っても、返事は返ってこなかった。
……恨めしやおちゃらけててノータリンの役立たずでちゃらんぽらんのあんぽんたんでおたんこなすでぽんつくすかたんポンコツで無用の長物な落ちこぼれ木偶の神の与太郎・アリアフィディーナぁ~‼
ゼェハァぜぇはぁ。
◇◇◇◇◇
与太郎・アリアフィディーナ……。
わたくし、そんな名前ではないのだけど。
断じて違うわよ。
このミッションが終わり次第、断固として抗議するわ!
首を洗って待っていらっしゃいな!
By 激おこ・アリアフィディーナ
―――これも違うわよ~っ‼
◇◇◇◇◇
半日が経過した。
まだ、だぁーれも助けに来てくれない。
誘拐犯らしき黒ずくめの人たちが、何度かこの部屋をのぞきこんだだけ。
しくしく……。
……ん?
なんか、騒がしいよ?
誰かがワーワーギャーギャー奇声を上げてる。
さっきの黒ずくめの人たちの内の何人かかな?
喧嘩?
仲間割れ?
廊下の向こうから、すごい勢いでこっちに走ってくる人たちの足音が聞こえてくる。
バァ~ン!
ドアを開けようとしたようだけど、勢い余って壊して吹っ飛ばしてる。
黒ずくめさんはそんなことには目もくれず、わたしを乱暴にひっつかんだ。
痛い痛い痛いっ!
抗議の意味を込めて、黒さんの腕をぺしぺしてしてしと叩く。
……反応なし。
うん、一首詠もうか。
ドア破壊 誘拐犯の 黒ずくめ
赤ちゃん泣いて ゴキちゃん叩く
はい、意味不明な短歌の完成。
ん?
現実逃避だって?
そうだよ、現実逃避するほかないでしょ。
それとも、この光景を見てもわたしの事を責める?
わたしを抱えてるのはゴキちゃん、周りを取り囲んでるのもゴキちゃん、ゴキちゃんたちごしに見える廊下のはるか向こうに、ニャタリーほか我が家の使用人、そしてお父さまとお母さま。
目に入る生命体のすべてが鬼の形相。
責めますか?
責めませんよね。
そう、責められませんよね。
「エヴァ~!」
お母さまだ。
ぶんぶんと、小さい手を振り返す。
すごい。
折れそうなほど線が細くて儚くてたおやかな美女が、こんな大声を出せるんだ。
しかも、かっこいい戦闘服がとっても似合ってるよ。
「アンナマリーアさま~!」
猫のナタリーだ。
こっちも、意外なほど戦闘服が似合ってる。
「今すぐ投降しなさい!愛しの天使様をさらった悪魔には、天罰が下りますよ~っ!」
顔とスタイルはいいけど、残念な子だね。
流石のゴキちゃんたちも口から息がもれてる。
今、笑ったよね?
哂ったよね?
わたしを抱えているのはどうやらリーダー格なようで、かろうじて吹き出しこそしなかったものの肩がふるえていた。
それも一秒ほどで終わり、今度は嗤った。
「悪魔は退散するよ。」
ゴキちゃんたちの頭に角、背中に翼、尾骶骨あたりに尻尾が生えてきた。
―――本物の悪魔ぁ⁉
「じゃぁなっ!」
悪魔のくせに、晴れやかな笑顔をするなぁ……。(現実逃避)
18,8,2024




