0.転生しました!
Ⅰプロローグ
―――苦しい!息ができないよ!
自由のきかない体で必死にもがく。
……どれくらい経ったのかな。
体感的には長かったけど、実際はそこまでの時間ではなかったと思う。
「――щिуઅ! еў,laўкभ!」
まぶたにぱっと光が差す。
女性の明るい声が、わたしの耳に届いた。
何語?
地球上の言語はすべて二十歳までに習得済みになったのに、聞いたことない言葉だよ。
そんな事をつらつらと考えるわたしの思考は、急速に色褪せてゆく。
「éэja⁉ 0mn.πцcрядα,үஒьç!」
慌てた声がし、大きな手で掴まれて逆さにされてぶんぶんと振り回され、背中を叩かれる。
―――なにこの状況?
巨人にたたきにされて食べられちゃうの?
わたし、おいしくないと思うよ?
次の瞬間、気道に大量の空気が流れ込んだ。
わたしの意思とは無関係に大きな声が出る。
「μуоцقτققههлभφஎફ઼મેμαфтьப்,чशقउмقتصяьүц!」
……え?
もしかして、これ、赤ちゃんの泣き声ですか?
感激したような声の女性を思考の隅に押しやり、ようやくつかめてきた現状に一人愕然とする。
今、わたしは生まれて、産声を上げたところ?
馬鹿みたいに初歩的な失敗で爆発を起こして死んだはずだから、時間軸が巻き戻った?
それとも、転生した?
転生。
ありえない話ではない。
未だ世界に証明されていないだけで、そういう概念ははるか昔からあった。
仏教の、輪廻転生とか。
思い至るということは、可能性があるということ。
固定観念に取り憑かれた硬い思考回路では、到底新しいものを開発することなどできるはずがない。
柔軟性のある思考回路を使い、不可能を可能にすることを考えて行動するからこそ、発明や発見ができるのだ。
研究者の鉄則……いや、少なくとも、これがわたしのモットーなのである。
そうこうしているうちにわたしは抱きかかえられ、他の人の手に移った。
……お母さんかな?
興味が出て、鉛のように重いまぶたを初めて動かしてみる。
見えない。
ぼやけてるよ。さすがは生まれたての赤ちゃん、視力が弱いよ……。
「эжμξрүыقتصت,ытσπтيяன்صهصиيяتثبятүй.」
安心感がある。
いつの間にか泣くのはやめていて、気づいたらお腹いっぱいだった。
……眠い。
うつらうつらし始めた瞬間、ドアがノックされて、勢いよく開いた音がした。
びっくりして、目が覚めた。
「тलشνىьාбचयशю!」
「чशقउмقتصяьүц.」
男性の声に、明るい声の女性――たぶん産婆さんかな?――が答える。
そのあと、入ってきた男性がわたしをのぞき込んできた気配がした。
もう一度、目を開く。
―――やっぱり、見えない。
「تفவ்йºκйруйлр,жκςतःцະىωفمس٠ηபφ.」
とりあえず、言語の習得。
これを当面の目標として掲げよう。
「アンナマリーア・エヴァ・マーガレット・イルメンガルト・レ・ローズモンディット=ル・メゲッティンブルク」
初めて、はっきり聞き取れた。
なんか、この言葉だけすっと頭に入ってきて、焼き付いた感じ。
なんだろ、これ。
「દцуිкеસ્ન્વກбу່ກຶонຶດлр.」
頭をなでられた。
そのあと、その男性――たぶんお父さん――に抱き上げられて、ゆっくりと揺らされる。
―――眠い……。
今度こそ寝てみせる。
そう決意した瞬間、ドアがバンッと開いた。
―――ノックもなしに。
マナーがなってない!
そう言いたいが、まだ赤ちゃんで舌がうまく動かない上に、言語も理解できていない。
結果、意味不明の声しか出なかった。
「fàмоnດອຜຍມຳິຫлк0!」
「लва۸۴пè,يةрद-о9ક્વيىش'ફ઼лસр0قن!」
子供の声だ。
家族のだれかかな?お母さん(?)とお父さん(?)のたしなめるような声も続いた。
再びのぞき込まれ、頭なでなでされた。
……いつのまにか寝てた。
おやすみなさい。
11,5,2024