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午前0時の転生屋  作者: 玖保ひかる
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第7話 生きづらい世界なんでしょうね

 今日もいつものように、ディーとクロはラダの執務室へ、今夜の転生者の情報を受け取りにやって来た。

 いつもと違うのは、ラダの斜め後ろに、やたらと見目の良い青年が立っていること。

 見た目はディーより少し年上くらいに見える。つやつや、サラサラの髪は金髪で、顎のラインで切り揃えている。賢そうな切れ長な瞳は深い海の色、黄金比のスタイルの体に小さい顔が乗っている。美しいラダと並んでも遜色ないほど神々しい。


「彼はヒューぺリオン世界の管理人です」

「はじめまして。私のことはヒューとでも呼んでください」


 ヒューは片手を胸に当て、優雅にお辞儀をした。

 ディーは黙って深々と礼を返した。ディーの隣でクロが「まぶしいっ」と目を覆った。直視してしまったのだろう。

 ヒューぺリオン世界は、最近仕事で行ったばかりである。立花茜の魂を回収した世界だ。


「今日の仕事に、ヒューも連れて行ってください」

「かしこまりました」


 何か事情が?と思っても、それは聞いてはいけない。ラダの指示にイエス以外の返事はない。ヒューは嬉しそうに、ニコニコと笑顔を向けている。

 受け取った情報を見ると、今日の現場は、そのヒューぺリオン世界だった。


「それでは、行って参ります」


 ディーとクロは、足取りの軽いヒューを連れて、地の果てへと向かった。

 ヒューは機嫌よく、たくさん話しかけて来た。


「君たち、つい先日もヒューぺリオン世界へ来たそうですね。私の管理するヒューぺリオン世界はどうですか?文明が発達していてすごいでしょう?夜も明かりが消えず、人々は勤勉に働き、あらゆるものが手に入る。他の世界と比べても、かなり発展しているでしょう。と言っても、私は他の世界には行けないからね。君たちはあちこちの世界へ行っている。そうでしょう?」

「はぁ、そうですね」

「素晴らしい。私も他の世界を見てみたいです。自由に色々な世界を見て回れるなんて、転生屋にしかできないことです。実にうらやましい。それで、どうですか?ヒューぺリオン世界は、やはり文明が発展していると思いませんか?」

「まぁ、そうですね」


 ヒューぺリオン世界には、魔法や魔獣が存在しないが、科学の力で魔法以上のことができる。飛行機や鉄道はもちろん、最近では星と星をつなぐ星間船も運行されているようだ。人々はみんな端末機を所持し、人工知能と通信をしながら生活をしている。

 これ以上に文明が発展している世界は、ないわけではないが、非常に少ない。


「そうでしょう。やはり私の世界はどこよりも発展した素晴らしい世界でしょう。だから、どんな魂もこの世界に転生して来たいはずなのですけどね、この間発表された統計によると、なぜか魂の転出率がどの世界よりも高いということがわかったのです。おかしいと思いませんか?」


 ディーは思い返してみると、たしかにヒューぺリオン世界から異世界転生を果たす魂が多いことに思い当たった。それはつまり、不幸指数が高くかつ善人指数が高いこと、かつ寿命を全うできず予定外に命を落とす者が多いということになる。


「この統計は間違っているんじゃないかと思いましてね、君の上司のラダに転生の現場を見せてもらえるように掛け合ったのです。君は長いこと転生屋をしているのでしょう?」

「まぁ、そうですね」

「そんな君を見込んで聞きますが、どうして我がヒューぺリオン世界へやって来る魂が少ないのだと思いますか?」


 ディーは少しも考えずに率直に応えた。


「あ、別に魂に希望とか聞いていませんから」

「な!」


 ヒューは顎が外れたかのように口を開けた。


「なんですって!?どの世界へ転生したいか聞かないのですか?」

「聞きませんよ。だって、人々はそんなにいくつも世界があるなんて知りませんし」

「そんな・・・!では、人気の問題ではないと?」

「そうですね」

「では、なんで我がヒューぺリオン世界の転出率は高いのでしょう?」


 この質問にもまた、ディーはそっけなく率直に言った。


「生きづらい世界なんでしょうね」

「な、な、な!」


 ヒューが衝撃を受けているうちに、地の果てに到着した。クロはすぐに機械を取り出し、セッティングを始めた。


「それでは、現場へ行きます。ご自分でついて来れますか。それとも、手をつないだほうがよろしいですか?」


 ヒューはまだヨロヨロしながら、ディーに掌を向けた。


「大丈夫、自分で付いて行けます」

「わかりました。では、こちらの外套をかぶって顔を隠してください」

「あっ、転生屋の制服ですね」


 ヒューが少し嬉しそうに外套を羽織りフードをかぶると、金髪も美貌も隠れ、ちゃんと転生屋に見えた。

 ディーが先立って現場へと降り立つ。深夜、上空から見下ろす大都会は絶景である。もうすぐ午前0時になろうと言うのに、ビル群の灯りは煌々と燈り、道を行くヘッドライトは流星のよう。


「ここはトーキョーシティですね」

「はい、現場に近付きます」


 二人はぐっと高度を落とし、華やかな都会の裏道を一人の女性が千鳥足で歩いているのがはっきり見える所まで来た。街がこれだけ賑やかなのに、彼女の周りは不自然なくらい人気がない。


「あの女性です」

「あの女性が転生対象者…?まったく不幸そうには見えないのですが。友人と酒でも飲んで、気分良く酔っぱらって歩いているだけ、ですよね?」

「不幸指数が高いだけで、不幸とは限らないのです。彼女は佐藤彩香、35歳。たしかに、不幸指数がずば抜けて高いのですよ」

「まさか。衣食住に不自由もなく、酒まで飲んでるのに?」

「あ、見てください」


 彩香の足元には、マンホールのふたが外れていて、ぽかりと穴が開いていた。まったく気が付かずに彩香は落ちてしまった。


「あ、落ちてしまいました」


 そのうち彩香の魂がマンホールから天を目指して登って来た。ディーはすかさず近づいて、大きな鎌のような網を振り下ろした。


「捕獲完了。クロ、引きあげてくれ」

「了解にゃ」


 ディーに続いて、ヒューも空間に吸い込まれるように地の果てへと引き返した。


「いや、お見事!大きな網をさっと操り、あっという間に魂を回収してしまいました。素晴らしい!」

「はぁ、ありがとうございます…」

「この人うるさいにゃ」

「クロ、しっ!」


 そんなやり取りがうるさかったのか、彩香は割とすぐに目を覚ました。


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