第4話 意地悪な天界人
「ラダ様からオッケー出ましたにゃ」
ディーはわずかに眉を上げた。正直、許可が出るとは思っていなかった。転生者の希望で転生先が決まることなど、滅多にあることではない。
ディーとしては、ラダが良いと言うならその指示に粛々と従うだけである。
「聞いた通りだ。君は再び君がいた世界に転生する。それでよいな?」
「ええ、神に感謝いたします」
「希望を確認。クロ、世界の扉を開いてくれ」
「了解にゃ」
クロが再びキーボードを打ち込み始める。最後のエンターキーを力強くタン!と押し、準備が整ったようだ。
「準備完了にゃ」
空間に魔法陣が浮き出た。
「その魔法陣に乗って」
強い決意を瞳にこめて、ジョセフィーヌは魔法陣の中に立った。ピカッと強い光が出て辺りを明るく照らした。
次の瞬間、ジョセフィーヌごと光の輪は消えた。どうやら無事、元いた世界へ転生を果たしたようだ。
「転生完了を確認」
「お疲れ様にゃ」
クロは腑に落ちない様子で首をかしげていた。
「どうした?」
「んー、ぼくにはわからにゃいのよ。行くはずだったテュケー世界はどうにゃってしまうにゃ?予定が変わっても大丈夫にゃのか?」
「それは俺たちが考えても仕方のないことだが…。転生陣を見たか?今回の転生は時戻りだった。彼女は記憶を持ったまま過去へ戻り、人生をやり直す。きっと結末は変わるだろう。それをラダ様が許可したと言うことは、彼女の転生で修正すべきゆがみはこちらの世界の側にあったんじゃないか?」
「難しいことはわからにゃいのよ…」
「大丈夫だ。俺にもわからん」
そう言ってディーはクロの頭をポンポンとした。
二人は任務を終えて、ラダの許へ帰った。ラダはいつものようにほほ笑んで迎えた。
クロが転生への疑問を口にした。
「ラダ様。…転生屋って、必要にゃんですか?」
「というと?」
「だって、転生屋がいにゃくても人はいつか転生するのよ」
「ええ、そうですね」
ハーデスが治める黄泉に渡った魂は、幾千年の試練を経て、ふさわしき世界へと転生していく。試練に耐えきれなかった魂は魂喰いに喰われてしまうが。
「今日みたいに急に行き先を変えることができるんにゃら、今までだって、行き先を選びたい人もいたのかにゃ、不幸でもその世界に生きていたい人もいたのかにゃって」
「そうかもしれませんね」
「じゃあ、それじゃあ、転生屋のぼくたちって、ひどいことをしていると思うのよ。だから死神って言われちゃうのかにゃ…」
「クロ、本当なら死ぬはずじゃなかった人が死んでしまったら、助けたいとは思いませんか?」
「助けたいにゃ」
ラダは笑みを深めて、続きを話した。
「わたしたちにはそれができる。だからするのです。さあ、褒美を受け取りなさい」
そうして報酬の星のかけらをまた一つ受け取った。
ディーは部屋へと戻ったが、クロは気分転換がしたくなって、美しい花々が咲き誇る庭園へと足をのばした。
一人で歩いていると、いつもよりずっと、嫌悪のこもった視線や心無い言葉が浴びせられる。普段はディーが睨みを利かせてくれるから、ここまでの差別を受けることはないのだと実感する。
ディーへの感謝の気持ちがわいてきたとき、クロの目の前に、意地悪な天界人たちが現れた。
「おい死神、その手に持っている星のかけらを俺様によこせ」
ニヤニヤと馬鹿にしたように笑いながら、クロに向かって手を差し出す。
「え、にゃんで?」
「ははは、馬鹿な猫だな。星のかけらの価値も分からないくせに。代わりに俺が使ってやるよ」
「いやだ!これはぼくがもらったのよ!ぜったいにあげにゃい!」
「不吉な猫に星のかけらは必要ねーだろ!おい、やっちまえ!」
クロを押さえつけて星のかけらを取り上げようとする。クロは体を丸めて星のかけらを守った。たくさん殴られたり蹴られたりしたが、絶対に音をあげなかった。
その時、クロの耳元でバリバリっと大轟音が響いた。思わず耳をペタンと閉じる。
余韻が消え去ると、辺りはしーんと静まり返っていた。
クロは恐る恐る伏せていた顔をあげてみた。
すると、星のかけらを取り上げようとしていた奴らが全員白目を剥いて倒れていた。頭からうっすら煙が出て、手足が時々ぴくぴく動いている。
「え、にゃに?」
あたりをキョロキョロ見渡してから、クロは急いで逃げ出した。
建物の中に入ると、ディーが部屋から出てきていた。
「クロ、ケガをしているじゃないか。大丈夫か?何があったんだ?さっきの轟音は…?」
「ディー!!うにゃーん、こわかったにゃー!」
クロはディーに飛びついてしがみついた。
何があったか、事情を聞いたディーは珍しく驚いたように目を見開いていた。
「じゃあさっきのは、雷だったんだな?」
「うん、そうだと思う。ぼく小さくなってたから雷落ちなかったのよ」
「…天罰なんて、何十年ぶりだ?」
「ん?にゃに?」
「いや…。先に部屋に戻ってしまって悪かったな。今度から星のかけらを持っているときは、部屋に入るまで一緒に行動しよう」
「うん、ありがとう!」
クロが嬉しそうに笑うと、ディーはクロの頭を優しく撫でてやった。