第16話 そんな未来もあるかもしれない
最終話です。
それを聞いてディーとマリーは目を丸くした。自分たちの死が世界に影響を与えるなんて大それたことを、想像もしなかったのだから。
「どういうことなんですか?」
「実はな、其方らがいなくなったために、世界中で戦がおこり、田畑は荒れ果て、人々は飢えに苦しみ少ない食料を奪い合っておる。人々の恨み、妬み、嫉みが渦巻いておる。その隙をついて魔物がはびこり、かなり広範囲の土地に瘴気が渦巻いておる。このままでは人々は一人残らず死に絶えるだろう」
「そんな、私たちがいなくなっただけで、どうしてそんなことになってしまったのでしょうか」
マリーは困惑して聞いた。
「詳しくは省略するが、本来であれば魔女ミランダと英雄王ディオン、大聖女マリーの人生は交差することなく、互いに遠く離れた国でそれぞれの国の魔を払い、闇を切り割き、世界に戦が広がるのを阻止するはずだったのだ。兄妹と魔女が出会ってしまった後は、三人で世界を救う筋書きができておったのに、なぜか三人とも死んでしまった。まことに遺憾であった」
「まったく何が起きたのかわかりませんが、とにかく世界は大変なことになってしまったのですね」
「そうじゃ」
「それは大変ですね…。なんとか修正できるといいですね!がんばってください!」
マリーは心を込めてゲーラスに声援を送った。短い間とはいえ、自分が住んでいた世界の危機には多少は胸が痛む。世界がどうなろうとかまわないが、なんとか人々には幸せになって欲しい。それくらいの愛国心?のようなものはあった。
「いや待っておくれ。我の世界を救うためには、其方らの力が必要なのだ!どうか、我の世界に戻って来てはくれまいか」
ディーとマリーは顔を見合わせた。しばし互いの目を見て、気持ちはどうやら一緒と確信し、ディーは軽く頷くと、代表して意見を述べた。
「お断りします」
「な、な、なんじゃて?」
「お断りします、と言いました」
「なぜじゃ。其方らの世界が滅びるかもしれないのだぞ」
「致し方ないかと」
「なぜじゃ、なぜじゃ。其方らには救えるのじゃぞ…」
「俺たちはミランダばあちゃんに育てられ、早くに命を落としてしまいました。もし山に捨てられなかったら、もし早死にしなかったら、どんな未来があったのか知りません。神様にとっては予定外だったかもしれませんが、自分たちは自分たちなりに一生懸命生きて、死んだ。それがすべてです。それに今は転生屋の仕事をしながら星のかけらを貯めて、マリーと二人で婆ちゃんの転生した世界へ転生させてもらうという夢ができました。なので、その仕事、お引き受けできません」
ゲーラスは愕然として、力が抜け、へなへなと座り込んでしまった。ラダが静かにフフフッと笑った。
「だから言ったではありませんか。お二人はどんな辛い時もあなたにすがったりはしなかった、そしてあなたも手を差し伸べなかった。ならばどうして、神の道具となって世界を救いたいと思うでしょうか。お二人への無理強いは許しません。お諦めなさい」
ゲーラスは床に両手をついて、がっくりと肩を落とした。
その後、ラダとゲーラスは話し合って、ディーとマリーの代わりに、勇者と大聖女の素質を持つ魂を転生させることで合意したらしい。
「ねえ、お兄ちゃん。私たち断っても大丈夫だったかな」
「大丈夫だろ」
「でも世界の人たちが苦しんでると思うと責任感じちゃって」
ディーはマリーの頭を優しくなでてやった。
「俺たちの責任じゃない。仮にゲーラス世界に戻ったとして、神様の言うように世界を救えるかどうかはわからないんだ。そんな未来もあるかもしれないが、予定でしかない。全て予定通りに行くなら、そもそもこんなことになっていないわけだろう?何千、何万とある世界の中には、やはり滅亡する世界もある。それは管理する神の力不足だ。ちっぽけな人間が責任を感じるなんて、恐れ多いことだぞ」
それでマリーも納得して、勇者と大聖女の魂を転生させる時には、自分も精一杯協力しようと思うのだった。
転生屋は天界の嫌われ者、そう言われているけれど、マリーは幸せだ。
大好きな兄が側にいる。
優しい先輩たち、美しく有能な上司に支えられ、大事に思ってくれる神さまがいる。
目標までできた。
(お兄ちゃんと私が近くに転生してきたら、おばあちゃん、びっくりするだろうな。おばあちゃんは生まれ変わって聖女になってるんだっけ。おばあちゃんなんて呼べないのかな?)
マリーはびっくりしているミランダの顔を思い浮かべて、クスクス笑った。
ご覧いただき有難うございます。これで完結とさせていただきます。
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