終わりの始まり 〜終〜
周りはすっかり真っ暗だ、無理もない、時計は11時を過ぎている。唯一の光である街灯下のベンチで俺たちは座っていた。俺はゆっくりと考えこみ、しばらく沈黙の時間が続いた。茅野さんのような凄い人と付き合えるチャンスなんて、この先俺の人生永遠にこないだろう、例えその場限りの恋人のフリでも、俺は付き合いたいと思った。
しかしその時、俺の頭にふと、玲那の顔が浮かんだ。
「はっ!?」俺はいったい何を考えていたのだろ、俺のような奴は、やっぱり茅野さんに相応しくない、そして答えは出た。
「茅野さんすみません、俺、茅野さんとはお付き合い出来ません、本当にごめんなさい」
自分でももったいない事だと思った、俺とは全く不釣り合いの茅野さんと、婚約破棄の大義名分だけど、それでも恋人になれるチャンスだった。なのに、俺はそのチャンスを手放した。
なぜなら俺は、心のどこかで玲那に恋をしていたからだ。
10年経って今更そんな事に気づくなんて遅せーよ、玲那はもうここにはいないのだから。
『好きな子とか、いるの?』茅野さんが聞いてきた。
俺はとっさに、「どうなんでしょう…自分でもよく分かりません」と内心少し笑い気味で答えた。
「ただ、確かに俺の心の中に誰かがいるのは確かなんです、その人の事を忘れられなくて。」
『って、それが恋でしょ!!』とすっかり打ち解けた茅野さんがツッコむように言った、その明るい声はいつもの元気いっぱいな茅野さんそのものだった。
「そっか、やっぱり恋なんだ。」俺はそう心の中で確信した。
『そっかそっか〜でも、ちょっと残念…実はね、私本当に白石君の事好きだったの、研修の時から知ってるんだし、それに何をするのも一生懸命で、後輩くん達にも優しく指導したり、そんな白石君に憧れていたの。この気持ちは嘘じゃないよ、でも、伝嘘の制作とかあったじゃない?もっと早く伝えたかったんだけど、とてもそれどころじゃなかったから。』
確かに伝嘘の制作状況はとてもじゃないが悪い、なにせ伝嘘の原画マンはほとんど入社一年目の新人さんが殆どだったからだ、俺や他の作監達はそのサポートをしながら、原画チェックという重要任務をいくつもこなしていた。
ドリクラの精鋭アニメーターの殆どは他会社との共同制作の作品にかり出されていった。
『でも、これではっきりと自分の覚悟が決まったよ。白石君のおかげでね!』
その言葉がどうゆう事を意味しているのか、俺は分かっていた。
『私、彼と一緒に海外へ行くわ、そして彼のルポの仕事を手伝おうと思う。』
やっぱり…茅野さんが、好きな人がまた、遠くに行ってしまう。
でも、俺のわがままで「行かないでください」なんて言えなかった。なぜなら茅野さんが大好きなアニメの制作の仕事を辞める覚悟をして、行くと決めたのにその覚悟を台無にしてしまうからだ。
「分かりました。気をつけて行ってきてください!」
今度はちゃんと別れの挨拶を言えた。だけど、
この時の俺は知らなかった、これが本当の意味での、俺の、白石天斗としての、最後の挨拶だったなんて…
『ありがと!多分出発は再来月になると思うから、伝嘘の最終話までの納品まではいるから安心して。』
「はい!一緒に最後まで作りあげましょう!」
俺は元気よく言うと、「ええ!頑張りましょ!』と茅野さんは答えてくれた。
ちょうど酔いも覚めてきた、俺は車で茅野さんを自宅まで送り届け、「おやすみなさい」と挨拶をすると、自分の家に向かった。
帰ってきた時には夜中の0時を回っていた。
玄関の鍵を開けようとした時、ふとポストに手紙が入っているのに気づいた。
俺は家の中に入り玄関の出口で座り、その手紙を開けた。
すると、目を疑う内容だった…
(白石天斗様へ)とか書かれていて、差出人のは名前は、東玲那と書いてあった。
「玲那?」
俺は思わず口にした。
(久しぶり天斗、10年ぶり、かな?天斗は今元気ですか?
私は元気です。あのあと手術は成功して、今では自由に歩けています。私は今5年前ぐらいから始めた絵の勉強をしながら、制作のお手伝いているんだけど、ついこの前、日本の[伝えられなかった嘘]というアニメの、オープエンドのクレジットの作画監督欄に白石天斗という名前を見つけて思わずビックリしました!
私の知っている、大好きな天斗だとすぐに分かりました。
10年以上前に交わした約束を覚えていてくれて、本当にアニメーターになったんだね。やっぱり天斗は凄いなぁ〜
それでね、私もアニメーターとして、天斗と仕事をしたくて、それで本格的な勉強をしたいと思って来週から日本に帰ろうと思っています。お母さん達も賛成してくれて。それと…もし、天斗が良ければ、10年前の事を許してほしいです。本当にごめんね…それじゃ少年、私が帰って来るのを楽しみにしていなさい!!)
手紙の内容はそれで終わりだった、気づくと俺の目からは涙が溢れていた。
間違いない玲那とは昔、玲那のお母さんに頼まれ、一緒に勉強をした。その時の字と全く一緒だった。独特な綺麗な書き方、そして何かとその日の記録と称して、毎日書き続けていた日記帳に書いてあった、猫のイラストが文章の最後に描いてあった。許してほしいだなんて、「なんで玲那が謝るんだよ」と、俺は涙を流しながら少し笑い気味な声でつぶやいた、謝らなければいけないのは俺のほうなのに。
手紙の文章を見るに、昔の元気いっぱいの、相変わらずの様子に俺は少し安心した。そして、
「玲那が帰ってくる!!」
「玲那が、玲那が帰ってくるんだー!!!!」
俺は家の中全体に響き渡るぐらいの声量で叫んだ。居ても立っても居られなく、俺は鍵を閉めずに家を飛び出した。
「うぉぉーーーー!!!」と真夜中の住宅街を、近所迷惑だとか関係なしに叫ばながら走っていた。
もうすぐ玲那が帰ってくる。そしたら今度はちゃんと10年前の事を謝れる。玲那の家は俺の家の隣だ。帰ってくればすぐに会える。俺は無我夢中で走りまくった、嬉しさと喜びでいっぱいだった。
我にかえってふと気付くと、俺は隣町まで来ていた、工事中のビルの前で一息ついた。「はぁはぁはぁ」
ここまでほぼ全力疾走だった、「流石に、疲れ、たな」
でももうすぐだ、もうすぐ玲那が帰ってくる。
そう浮かれていた俺の頭上から[からん]と、鉄のような少し大きいものが落ちてきた。「あっ、ぶねー」もう少しで直撃するところだった。「いったいこれはなんだ?」と、ビルの上を見上げようとした瞬間…
[ガッシャーン]
それは一瞬の事だった、ものすごい高音が聞こえた。
「う…な、なんだ?」しばらく気を失っていたようだった。俺は、何が起きたか分からなかった。気付くと俺は、頭から大量に血を流しながら地面に倒れていた。俺の目に映る視界は、真っ赤に染まっていた。そしてその周りには、巨大な鉄の塊があちこちに落ちていた。
「痛っ、てー」痛い、頭が割れたような痛みだった。俺はなんとか立ち上がろうとした。地面に刺さっていた鉄を掴み、なんとか腰を上げる姿勢を取る事ができた。あとは足を上げるだけだ。
俺はゆっくりと立ち上がった。目眩がする、視界は相変わらず真っ赤で、フラフラしてきた。俺は頭が全く回らず、何があったかよく理解出来ず、一歩進もうとした。すると、
ズキっ、「うっ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」今までに感じた事のない痛みが、腹部から伝わってきた。恐る恐る見てみると、でかい釘のような何かが腹から背中にかけて貫通していた。「痛てー、痛てーよー、誰か、助けて….くれ」
俺はかすかに出る声で誰かに救いを求めた。だがここは住宅街からはかなり離れた開けた場所だ、それに真夜中ともなると、騒音が聞こえたとしても気付く人は少ない。
「茅野さん…」俺はポケットに入れてあるスマホを取り出し、茅野さんに助けを求めようとした。しかし、スマホはグシャグシャになっていた。「そ、そんな、はは」
俺は笑ってしまった。思考回路が全く回らず、その場に倒れてしまった。もうどーでも良くなってきた。しかしその時、
「天斗!!」
俺の頭の中で、俺の名前を呼ぶ玲那の顔が浮かんだ。
「はっ!?」俺は思わず声に出した。「そ、そうだ、俺はまだ、玲那に、謝って、いない」
最後の力を振り絞り、もう一度立ち上がった。「こんな、とこ…ろで、死んで、たまる、か!」壁側にもたれかかりながら、俺は歩いた。少し歩けば、病院がある。その事を思い出した俺はひたすら歩き続けた。
「玲那、玲那、玲那、れ…………な!」俺は何度も玲那の名前を叫びながら進んだ。しかし、
ばたん
再び倒れてしまった。「だ…だめだ、動け、動けよ、頼、む、動いて、くれ、俺の…体」かすかに出る声で俺はそう言った。するとやがて視界が暗くなっていき、俺は目を塞いだ。そして最後に
「………玲……………那、…ごめん………な」
その言葉を最後に、俺は…
『……て』
『…きて』
なんだ、遠くで声が聞こえる。
『起きて』
やがてそれが俺に向けられている声だと気づいた。
俺は恐る恐る目を開いた。すると、
???『あ、やっと起きたー。』???『ミリアーー、ルーゼやっと起きたよー』
知らない子が、俺の目の前で知らない名前を呼んでいた…
ここまで読んでいただいた皆様、初めまして。海と申します。
ここまで(アタシ達が確かに生きた証)を読んでいかがだったでしょうか?あらすじには転生、って書いてあるのに、なかなか転生しないじゃないか!って思った人もいると思いますが、ここにてようやく転生し、次回からいよいよ本編突入って感じです。これから始まっていく、主人公達に待ち受ける残酷な運命に抗う冒険譚を是非最後まで読んでいただけたらな〜と思います。これからも是非よろしくお願いします!!そして次回より、いよいよ本編、(偽りの楽園編)のスタートとなります!
感想等もよろしければ是非書いてもらえたら嬉しいでございます☺️