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「魔王は一体どこにいる」2  作者: ジョンG
5/19

5.シケタ町

『隠れ家』


盗賊とアサシンを見送った女盗賊は早朝に隠れ家へ戻った



女海賊「あ!帰ってきた…もうどこ行ってたのさぁ!!」


女盗賊「ちょっとね」


女海賊「アサシンと盗賊は行っちゃったよ?」


女盗賊「良いのよ…あなたも疲れてるでしょう?少しお休みなさい?」


女海賊「えーと何だっけな…盗賊がよろしく言っとけってさ」


女盗賊「分かってるわ…あの二人なら上手くやるわ」


女海賊「ちっと私寝てる暇無いんだ…商隊に加わる話を付けてくる」


女盗賊「一人で行けて?」


女海賊「これ見て!!ジャーン!!」ビシ


女盗賊「あら?貴族の身分証ね?」


女海賊「これを使えば簡単だと思うんだ!」


女盗賊「いつ出発する予定かしら?」


女海賊「わかんないけど出来るだけ早く」


女盗賊「少し休んでからでも良いのでは無くって?」


女海賊「早くシャ・バクダに行きたいのさ」


女盗賊「せっかちなのねフフ…まぁお好きになさい?」


女海賊「剣士はあっちで横になってるから後お願い…怪我は無いけど調子悪そう」


女盗賊「そう…見てくるわ」


女海賊「私はちっと出かけてくるね~」ノシ




『寝室』


剣士は放心状態なのかベッドの上で包まりガタガタと震えていた



剣士「ぅぅぅぅぅぅ」ブルブル


女盗賊「平気?どこか痛むのかしら?」



剣士の懐から声がする



妖精「混乱しているんだよ」


女盗賊「はっ…妖精の声!?」


妖精「今日は満月…もうすぐ沈んでしまうけどね」


女盗賊「どうしたの?何があったの?」


妖精「沢山の魂に触れてしまったんだ」


女盗賊「下水の奥で何が?」


妖精「剣士は目が見えない分彷徨う魂を感じやすいんだ…沢山の魂を感じて混乱してる」


女盗賊「そんなに沢山の魂が…どうして…」


妖精「亡くなった人達の魂の渦が剣士の魂を連れて行こうとしてた」


女盗賊「熱とかは無さそうね…どうすれば良くなるかしら」


妖精「魂が連れていかれないように心を閉ざしているんだよ…安心させてあげないと」


女盗賊「安心…こう?これで良い?」ギュゥ



女盗賊は包まって居る剣士を背中から抱きしめた



剣士「ぅぅぅ」ガクガク ブルブル


女盗賊「怖かったのね?安心なさい?…あなた…体は大きいけど子供みたいなのねフフ」


妖精「僕も入れて~」スポ


女盗賊「歌を歌ってあげましょうか…子供を寝かせる歌なんだけどね」


女盗賊「こんなに大きいのに困った子ですねぇ…」



寝んね~ん寝~♪


ルルル~♪


ララ~♪



女盗賊の歌ったその歌はシャ・バクダに伝わる意味のある歌だった


魔物を眠らせて夢を見させる事が出来る歌だったのだ


この時女盗賊はそんな事はつゆ知らず偶然にも剣士を夢に誘う


剣士はその優しい歌を聴き眠りに落ちた…






『夢』


剣士は物が見えると言う事を知らない


だから夢の中でもその情景は常に自分が思い描いたおぼろ…


おぼろの中で聞こえる声や音…匂いは思い出す事が出来る…そんな夢を見る



僕「……」


君「あんたさぁ…聞いてんの?」


僕(きみは…誰?)


君「何訳の分かんない事言ってんだよ!何処の国の言葉な訳?!ちっとこっち来いよ!」


いや…そんなつもりじゃ


君「ちょい顔見せて」…フードをめくられた


あ…


君「お!?ちょちょ…え?きれいな目してんじゃん…ほんで銀髪かぁ」


僕(え?目?)


君「はっは~ん!!あんた一人?」


僕(え~と…僕は…誰だ?)


君「まぁいいや!こっち来て…ちょい手伝って」


どうすれば


君「そっちを押すの…せーの!えい!!」


僕(???)


君「何やってのさ!あんた男でしょ!!もう一回!!」


僕(え?え?え?)


君「せーの!!」ズリ


君「もう一回!!せーの!!」ズリ


君「おっけおっけ!乗って」


僕(これに?)


君「良いから早く乗って!!」グイ


あ…


君「歩くより筏乗って行った方が早いんだよ!…とりあえず町に向かうよ?」


君「帆を開くからどいて」


君「何やってんのさ!!もうノロマかあんたは!!」


君「そこの箱に入ってる物食べて良いよ…お腹空いてんでしょ?わたしも一個取って?」


僕(これ?)


君「わかってんじゃん…ほら…あんたも食いなよ」モグ


……モグ


君「海の上は風が強いから体冷やさないように!!…聞いてんの?」


僕「ありがとう」


君「なんだ!あんたしゃべれるんじゃん!!ちょっと寒いからこっちに来い!」


僕(???)


君「毛皮なんか積んでないさ…ほらこうやって体よせて…おい逃げんな!!」


僕(???)


君「あっち向いて背中貸して…背中合わせがあったかいんだわ…手足は自分で何とかして」


あったかいなぁ…


君「あんたの名前は?」


僕(僕は…)


君「ん?あぁピーンと来た!ちょっと記憶が無い系のアレね」


僕(僕は…僕は…)


君「わたしのなまえは…」



---君は誰だっけ?---


---僕は誰だっけ?---


---それにしてもあったかいなぁ---





『翌日』


剣士は丸一日寝込んだまま次の日の夕方になっても目を覚まさなかった


揺すっても叩いても起きない剣士を見て女海賊は少し焦っていた


グイグイ ユサユサ



女海賊「こら起きろって!!!起きろ~~」ポカ


女盗賊「困ったわねぇ」


女海賊「明日の朝出発するのにぃ!!ちぃ…どうすっかな…」


剣士「ゥゥ…」


女海賊「あ!!動いた!!おい!!」グイグイ


剣士「アイ…リーン…」


女海賊「ちょ…目覚めの言葉がそれかよ…」


女盗賊「良かった~起きたわね?…お腹空いてるでしょう」


剣士「あ…」キョロ


女海賊「あんた昨日から寝っぱなしだったの!ホイこれ食べて」グイ


女盗賊「明日の朝に商隊でシャ・バクダに向かう事になったのよ?目を覚ましたばかりで混乱しているかしら?」


女海賊「そう!私は貴族の娘役…あんたは従士という設定ね…わかった?」


女盗賊「まぁ…起きたばっかりで頭が回ってないようね…食べたら荷物の整理しておいてね」


剣士「……」モグ



寝て起きた後に記憶がおかしいのはいつもの事だった様な気がする…


でも目を覚ますとだんだんと思い出して来る…


そうだ僕は下水の奥で何かの渦に飲み込まれたんだった…



女海賊「てかさ?あんたに私の本当の名前いつ教えたっけ?その名前秘密だから言わないで貰って良い?」


剣士「……」---なんか記憶が混同してる---


女盗賊「剣士?落ち着いて来たかしら?」


剣士「……」コクリ


女盗賊「あなたの荷物がどれなのか分からないのだけど…」


女海賊「あんた大した荷物持ってないじゃん」


女盗賊「フフ本当あなたはせっかちなのね」


女海賊「うるさいなぁ…剣士に手伝って貰おうと思ってたこと全部私がやったからイライラしてんの!」


女盗賊「そんなに大変だったの?」


女海賊「女一人だと商隊の連中は言う事聞かないんだよ!子ども扱いされて腹立つ!ムッカ!!」


女盗賊「ここを出るのは夜中かしら?」


女海賊「明日の日の出前に出発するから夜中の間に商隊の詰め所に行く」


女盗賊「それなら最後に今晩バーベキューでもしましょうかフフ」


女海賊「おぉぉぉ良いねぇぇ!!」


女盗賊「子供たちがバーベキュー大好きなの…娘たちもね」


女海賊「肉買ってくるわ」


女盗賊「お願いするわ…子供たちも孤児院から連れて来て貰って良い?」


女海賊「おっけー!!ダッシュで行って来る」ピューーー



何か行動を起こす時の女海賊はとにかく走る


もうそれしか考えていない…ひた向きな性格なのだ


彼女の本当の名はアイリーン…隠して居るのは理由ある


それはドワーフの国の主…海賊王の娘の一人だったからだ


彼女も又…伝説に名を連ねる一人になって行く最も需要な人物の一人だった





『バーベキュー』


酒場カク・レガのある建屋の目の前で肉を焼く


貧民街では焚火を囲んで食材を焼くのは珍しい事では無い


そこに寄り集まって来る者全員に焼けた肉と少しの酒を振舞う



女海賊「おいひいね」モグモグ



女海賊も直火で焼いた肉は大好物だった


一方剣士の方は女海賊に無理矢理食べさせられ迷惑そうにしている



娘1「お姉ぇ~こっち肉余ってない?」


女盗賊「足りないの?」


娘1「お客さんの分がちょっと足りない」


娘2「早く~」


女盗賊「仕方ないわね…子供たちの分は残しておくのよ」


娘1「分かってるって…ちょっと持って行くね~」


女盗賊「しっかりお酒も飲ませておくのよ?」


娘1「あ~い」


女海賊「お店の客にも振舞うと盛り上がっちゃうね…良いの?放っておいて?」モグモグ


女盗賊「あっちの方は放って置けば良いのよ…どうせ大したお金落として行く訳でもないし」



女海賊は女盗賊の横で座って食べて居る男の子が気になった



女海賊「ところでその子…どっか悪いの?」


女盗賊「…この子はね…生まれつき心臓が悪いの」


女海賊「見た感じ普通だけどね」


女盗賊「体は小さいけどあなたと同じくらいの年頃に思うわ?」


女海賊「ええ?この子が?立ってみ?」


女盗賊「ご挨拶なさい?」


青年「やぁ!初めてお話するね」


女海賊「本当だ…背の高さは同じくらいか」


女盗賊「体は弱いけどとても賢いのよ」


青年「僕もシャ・バクダには行ってみたかったんだ」


女盗賊「ダメよ…もう少し体が強くなってからね」


青年「分かってるさ…次来たときは僕も一緒に頼むよ」


女海賊「おぉー見どころあるねぇ!しっかり鍛えるのだぞ?少年」


女盗賊「フフ剣士はどこかしら?」


女海賊「あっちで食ってる…私から逃げてんのさ」


女盗賊「そろそろ準備した方が良いのでは無くって?」


女海賊「そだね…剣士ぃ!!そろそろ行くぞぉ~」タッタッタ グイ


剣士「うあ…」モグモグ


女海賊「あんた何食ってんだよ!豆ばっか食ってんじゃ無え!」


女盗賊「フフ…剣士!?無事にシン・リーンまで行けると良いわね?」


女海賊「私が気球で乗せてくから大丈夫!」


女盗賊「あなた達が居て楽しかったわ…元気でね?用が済んだら又遊びにいらっしゃい?」


剣士「ありがとう」


女海賊「うお!!しゃべった!!」


女盗賊「フフそれで良いのよ…そういう時に使うの」


剣士「ありがとう…ありがとう…ありがとう」


女海賊「あんたぁ!!しゃべれるならしゃべれるって言ってよ!!」


女盗賊「教えてあげれば良いのではなくって?しばらくは馬車なのでしょう?」


女海賊「んむぅぅメンドクサイけど話す相手が居ないのもツマンナイしなぁ…」


女盗賊「よろしくお願いね?」


女海賊「おっし!!今度来たときはさぁ!!気球に乗せてあげる!!」


女盗賊「楽しみにしておくわ…いってらっしゃい」


女海賊「ほい剣士!!行くよ!!じゃまたね~」ノシノシ



剣士は女海賊に引きずられる様に去って行く


女盗賊はその2人の関係が微笑ましく思った




『商隊詰め所』


そこには早朝の出発に向けて既に馬車が集まり待機していた


商隊を率いる隊長は焚火で温まりながらウトウトして居る



商隊長「ふぁ~ぁ…」


女海賊「おい!!」…女海賊はその隊長の前に仁王立ちする


商隊長「ん?…身分証…」


女海賊「昼間見せたじゃん!この顔をもう忘れたの!?」


商隊長「覚えてるが規則なんでね…こっちがお前の従士か?」…剣士の顔を覗き込む


商隊長「身分証を早くしろ」


女海賊「あぁぁイライラするなぁ!もう!!」パス


商隊長「貴族の娘…お前が貴族じゃなきゃ相手にしないんだがな」


女海賊「どの馬車に乗れば良いのさ!!?」


商隊長「こんな小娘を商隊の特定馬車とは…貴族は良いなぁケッ…通って良いぞー」


女海賊「むむむむむ…パパに言いつけるぞ!」


商隊長「おぉ怖い怖い…お嬢様…あちらのかぼちゃの馬車にてございます…これで良いんか?」


女海賊「剣士!!行くよ!!」プリプリ


商隊長「一つ注意してもらいたい事がある」


女海賊「何さ!?」


商隊長「身分を不用意に知られる様な事はしないでもらいたい…わかるかな?お嬢ちゃん」


女海賊「子供じゃないんだから分かってんよ」


商隊長「貴族と悟られると誘拐されるリスクがあってこちらが困る」


女海賊「はいはいわかったって!」


商隊長「手を掛けさせないでくれな…お嬢ちゃん?」


女海賊「いちいち勘に障ること言わないで!…おっさん!」


商隊長「あっはっは…3番目の馬車だ…早く乗れ」


女海賊「いーーーーーだ!ベロベロベーーーー!!」ベー



女海賊のこの振る舞いは良く居る貴族の娘らしい行動で誰も不振には思わなかった


従士を一人付けて馬車で移動するのは普通の事だったからだ


こうして白狼の盗賊団一味は女盗賊を残し全員セントラルから無事に脱出する





『商隊馬車』


この商隊は大規模編成では無かったから進行速度が少し早い


初めに向かうのはトアル町…剣士にとっては振り出しに戻る感じになる


ガタゴト ガタゴト



女海賊「おい!出てこい妖精!!」


女海賊「…今日は出てこないの?…んぁぁぁヒマ」


女海賊「あんたさぁ…何かしゃべろよ!!」


剣士「……」


女海賊「わたしの言ってる事分かる!?…ちょっとまねしてみて!?」


剣士「……」


女海賊「こんにちは」


剣士「こんにちは…」


女海賊「お!?出来んじゃん!!」


剣士「おできじゃん」


女海賊「ご主人さま」


剣士「ご主人たま」


女海賊「あなたは」


剣士「あたまは…」


女海賊「とても…」


剣士「とても…」


女海賊「美しい」


剣士「……」



肝心な所を真似しない



女海賊「おい!!!」


剣士「おい」


女海賊「もう一回最初から!!」


剣士「もういかいから」


女海賊「ご主人さま、あなたはとても美しい!」


剣士「ご主人さま、あなたはとてもむずかしい」


女海賊「…あのね」


剣士「あ…のね」


女海賊「ご主人さま、あなたはとてもう・つ・く・し・い!!!!」


剣士「ご主人様、あなたはとてもむ・ず・か・し・いのね」


女海賊「のねは付けなくても良いの!!あ~イライラする」


剣士「ご主人様、あなたはとてもむずかしいイライラする」


女海賊「ムキーーーーーーーーーー」



剣士はある程度理解しながら話して居た


女海賊をからかって遊んでいたのだ





『トアル町』


商隊は進行が早かったお陰も有り馬車に揺られる時間も少なく休憩を多くとりながら予定通り到着する


その間女海賊は剣士に言葉を教え3日の間に少しは話せるようになって居た



商隊長「…一日休憩を取る。明後日の夜明け前までに集合する事!!解散!!」



女海賊は隊長の言葉を殆ど聞いて居なかった


解散の一言を聞いて直ぐに動き出す



女海賊「剣士行くよ!!早く行かないと宿埋まっちゃう」


剣士「はいご主人様」


女海賊「…なんか気持ち悪いなぁ」


剣士「はいご主人様」


女海賊「もうご主人様は付けなくて良いから」


剣士「はいご主人様」


女海賊「もう!!はい!!だけで良いの!!」


剣士「はい…」


女海賊「付いてきて!?行くよ」タッタッタ



スポン!!


女海賊の胸の谷間に挟まって居た妖精が飛び出した



女海賊「お!!?あんた起きたね?」


妖精「なんか前と雰囲気ちがうなぁ」


女海賊「あんた達来た事あんの?」


妖精「ゴブリンの襲撃から逃げてきたんだ」


女海賊「そっかぁ…ここから来たんか」


妖精「前はもっと人が居たんだよ」


女海賊「商隊の商人達が物売りし始めたら人が出てくるんじゃね?」


剣士「におう」クンクン



剣士は焼け焦げた死体の匂いが気になった



女海賊「え?何?どこ?」


剣士「あっち」ユビサシ


女海賊「んん?…なんだろアレ…もしかして火刑跡!?」


妖精「魔女狩りだね…」妖精はそれを見たくないのかもう一度女海賊の胸の谷間に挟まった


女海賊「ちっと気になるけど…今は宿屋が先!!今日泊まれないと休めなくなる」


女海賊「ちょ!!剣士!あんなん見てないで早く行くよ!」グイ




『宿屋』


その宿屋は数か月前まで女盗賊が暮らしていた宿屋だった


今では様相が変わり番台のお婆さんの姿は無く男の人が店主をしていた



店主「い、いらっしゃいませ」ビクビク


女海賊「2人泊まれるかな?」


店主「食事は付きませんがよろしいでしょうか?」


女海賊「ベットが使えればおっけー…で?何かあったの?」


店主「2ヶ月ほど前に魔女狩りがありまして…皆疑心暗鬼になっております」


女海賊「やっぱ外にあるのは火刑跡なんだ」


店主「ここで番台をしていたお婆さんが犠牲になってしまいまして…」


女海賊「へぇー魔女だったんだ?」


店主「いえ異教徒を見たと騒いでおりましたら本人が審問に掛けられてしまいまして…その」


女海賊「あらら…」


店主「町の住人がお婆さんこそ魔女だと言い始めたのがきっかけで結局火刑にされてしまいました」


女海賊「ずっと外に放置してあんの?」


店主「はい…魔女は復活しない様100日間見張るのだとか…」


剣士「いこう」グイ



剣士はその話を理解したのか話を遮ろうとした



女海賊「あーメンゴ!!あんたがお話ししてくんないから…ツイ長話にさぁ…」


店主「お部屋にご案内いたします」



剣士にとってこの宿屋で普通に宿泊するのは初めてだった


案内された部屋は2人用の普通の部屋だ


でも剣士はその部屋に残って居る匂いで分かった


この部屋で女盗賊達が行為を行いお金を稼いでいた事を…そんな残り香が切なく思った




『路地のベンチ』


剣士は様相の変わった町と


そこに有った筈の女盗賊達の生活が無くなって居た事に


何か大事な物を無くしてしまった様な感覚を受けて彼女と一緒に歩いた路地をもう一度歩いてみた


もう日が暮れて人通りも少なくなった路地…そこにあったベンチに腰掛ける



妖精(そろそろ帰ろうよ)…妖精が心配そうにのぞき込む


剣士……


妖精(女海賊が怒るよ?)


剣士(ここで食べたパン…おいしかったんだ)


妖精(あー初めて人間からもらったパンだったね)


剣士(空っぽになったあの宿屋が寂しい)


妖精(君が寂しいって感じるとは思わなかった)


剣士(あの人は母さんみたいだった)


妖精(良い人だったね)


剣士(どんな顔だったのかな?心にその顔も描けないから心から消えてしまいそうなんだ)


妖精(だからここに?)


剣士(ここの匂いの中にあの人がいた事を思い出す)


妖精(はやく見える様になると良いね)


剣士うん


妖精(なんか分かって来たよ…見えない事で寂しさが積もって行くんだね)


剣士(うん…誰の顔も思い出せないんだ)



ドドドドド…


女海賊がダッシュで駆けて来る



女海賊「あ!!!居たぁぁ!!もう!!探したんだからぁ!!!」タッタッタ


剣士「あ…ごめんさない」


女海賊「行くなら行くって言ってよ!!心配かけんなタコ!!」


剣士「タコ?」


女海賊「そう!!タコ!」プンスカ


剣士「あはは…」


女海賊「あれ?笑った?あんた初めて笑ったじゃん…タコが面白いの?」


剣士「ごめんね?タコ」


女海賊「はぁ?あんた舐めてんの?…もう!帰るよ!!」グイ



そうだよ…君はいつだって僕の周りで騒々しくて


謎の言葉で僕を励ましてくれる…多分…夢の中でも…


剣士はこの時…その声と匂いが夢で見るその人と同じだと気付き始めて居た




『商隊5日目』


トアル町ではたった一泊するだけで何をするでもなくあっという間に休憩は終わった


女海賊は少し変わった趣味が有って爆弾の材料を買ったり謎の道具を買ったり


そんな買い物に付き合わされただけでもう商隊の馬車で出発する事になる


ガタゴト ガタゴト



女海賊「はぁぁぁアッと言う間にお休みが終わった…」



そう言って馬車の中で腹を出しながら寝転ぶ女海賊はとても女性とは思えない



女海賊「おい妖精!何処に居んだよ!!どうせおっぱいに挟まてるんだろ?出て来い」


妖精「んん?呼んだ?」ヒョコ


女海賊「暇なのさ…」


妖精「ええと…次の休憩は4日後って言ってたね」


女海賊「何処だっけな…地図によると…次はシケタ町という所」


妖精「行ったことある?」


女海賊「アサシンと何回か来てると思うけどどんな所かは忘れた…何でそんな事聞くん?」


妖精「暇なら本を買って置けば良いと思うな」


女海賊「ムリムリムリ!私文字読めないから…てか本なんか読むと速攻寝る」


妖精「アハハ…じゃぁ本読んで寝れば暇も潰せるね」


剣士「来る!」クンクン



剣士が何かに気付き動き出す



女海賊「お!?何か起きる?今度は何!?」


剣士「まて」ダダッ


女海賊「ちょちょ…どこ行くの?」


馭者「うぉ!!…おいおいどこ登ってんだ…降りろ」



剣士は馬車を動かして居た馭者を押しのけ幌の上によじ登る



女海賊「ちょい!どうしたん?」ヒョイ


剣士「うえ!」ユビサシ


女海賊「上?…なんだろ…何か飛んでる」


馭者「飛んでるだとう?…まさかドラゴンじゃないよな?」



馭者も慌てて上を見上げる



女海賊「そのまさか…かも」


馭者「うわわわ…先導は気付いて無いぞ?…嬢ちゃんそこの笛取ってくれんか?」


女海賊「これ?」ポイ



ピーーーーーーーー


馭者は笛を吹いて商隊を先導する馬車に異常を伝える



女海賊「ドラゴンもまだこっちに気付いてないかも…」


馭者「傭騎兵が来たら嬢ちゃんが伝えてくれぃ…わしゃ手が離せん」


女海賊「何て?」


馭者「ドラゴンの数と方向だな…それだけで伝わると思うで」



笛の音を聞いた傭騎兵が馬に乗って駆けつけて来る


ドドドドド



傭騎兵「どうしたぁぁ!」ドドド


女海賊「西の方角にドラゴンが見える!!こっちに向かってんよ!?」


傭騎兵「なんだとぉ…うわっ…こりゃまずい…ピーーーーーーーー」ドドド


馭者「嬢ちゃん!刃物何か持って無いか?」


女海賊「どうすんのさ?」


馭者「ドラゴンが来たら馬車切り離して馬で逃げなあかん」


女海賊「おっけー準備する!…て待て!それって私等置いきぼりじゃね?」


剣士「来る!!」


女海賊「え?え?え?もう?」



ギャオーーース バッサ バッサ


ドラゴンは商隊の上空を通り過ぎ旋回している



女海賊「うわっ…でか」


馭者「先頭は止まらんな…どうするんじゃ?」


女海賊「ドラゴンは上で旋回してる…こっち見てんのか…な?」


馭者「商人どもが変な荷物運んでなければ襲っては来んのじゃが…」


女海賊「ん?離れて行く…助かったかも…なんで?」


馭者「行ったかぁ?…うへぇ助かったわい」


女海賊「東の方向に飛んで行った」


剣士「もり…いった」


女海賊「あーびっくりしたね…もう大丈夫そうかな?」


馭者「先頭が速度上げてるぞい…ちっと揺れるで?」ハイヤ ヒヒーン


女海賊「剣士!?もう居ないから中に入って?」


剣士「…はい」ノソリ


女海賊「どうしてドラゴン行っちゃったんだろね?」


妖精「僕が見えたからだと思うよ」ヒラヒラ



妖精が得意げにクルクル回る



女海賊「こんなちっちゃいのに?」


妖精「ドラゴンは人間よりずっと目が良いよ」


女海賊「へぇ…妖精が居れば襲って来ないんだ?」


妖精「ちょっと違うけどドラゴンは妖精の役割を知ってるんだ」


女海賊「役割ねぇ…ふ~ん」


妖精「ドワーフも同じ筈なんだけどなぁ?」


女海賊「どゆ意味?」


妖精「君の場合違うのかもねアハハ」


女海賊「なんか腹立つんだけど…あんたぁ!妖精のクセに生意気だよ!!」



何かと騒がしい女海賊が近くに居ると僕はこの商隊の旅が暇だとは感じなかった


何故なら彼女はしきりに僕にちょっかいを掛けて来る


勝手に僕の髪の毛を切り始めたり…自分のへそのゴマの匂いを僕に嗅がせようとしたり…


僕のナイフと剣を磨いてくれたり…そのナイフで自分の体毛を処理したり


とにかく世話しなく僕の周りで騒々しい…そんなこんなで次の町まであっという間だった




『シケタ町』


商隊は予定通り次に休息する町へ到着した


でも昼寝していた女海賊が気持ちよさそうに寝て居たから起こさないで居た


もう日が落ちて暗くなった街道を2人で走る


タッタッタ



女海賊「まずいぃぃ!あんたのせいで宿屋泊まれなかったらどーすんのさ!!」


剣士「君が寝てた」


女海賊「さっさと起こせよ!スカポンタン!!」


剣士「スカポンタン?」


女海賊「あぁぁぁ宿屋が人だかりになってる…もう!!」


剣士「バーベキューしよう」


女海賊「お?いいねぇ…キャンプでもいっか」



女海賊は単純だった


機嫌を損ねても他に注意を逸らすと直ぐに忘れる性格だ



剣士「近くに川の音聞こえる」


女海賊「おけおけ!!暗くなる前に肉買いに行くよ!付いて来な!」タッタッタ



彼女はとても分かりやすい


目的が出来たらいつもダッシュで走り出す…ひた向きに前しか見て居ない


僕は彼女に付いて行くだけ…すごく楽だ




『川辺』


薪を集めて焚火する


その脇で横になれる様に寝床を作る…天気が良ければこれで十分休息出来る


メラメラ パチ



女海賊「…ほら剣の先に肉をぶっ刺して…そのまま火の中に入れる」ジュー


女海賊「焼けたら一口食べて又火に入れる」ガブ モグ


女海賊「これが山賊焼き…やってみな?」


剣士「こう?」ガブ モグ


女海賊「…なんかさぁ…あんたといっつもこんな事してる気がすんだよなぁ…」


剣士「どうして?」


女海賊「なんでだろ?前世は私の奴隷だったとか?」


剣士(僕は君の顔が分からない…)


女海賊「何訳の分かんない事言ってんだよ!何処の国の言葉な訳?」


女海賊「はっ…また既視感…何なのコレ?」


女海賊「あのさぁ!?あんた良くしゃべってる言葉…何なの?」


剣士「森の言葉」


女海賊「森?そんな言葉があるんだ…でもねあんま使わない方が良いんだよね」


剣士「ごめん」


女海賊「他の人に聞かれなきゃ良いんだけどさ…で?その言葉誰に通じるの?」


剣士「森の住人」


女海賊「おぉぉなんかすげーじゃん?…で住人て誰よ?エルフ?トロール?」


剣士「みんな」


女海賊「マジか…ちょい今度私にも教えてよ」


剣士「はい」


女海賊「うぅブルル…ちょっと冷えてきたなぁ…あんたは良いね毛皮着ててさ!!」


剣士「母さんの一部…あたたかい」


女海賊「ちょっと背中借りるよ…こうするとあったかいんだ」グイ


剣士「……」


女海賊「動かないでよ?」




---この背中---


---やっぱり君なんだね?---


---僕の夢の人---


---どうして僕の夢に君が出て来るんだろう?---



女海賊「ちょちょ…何すんのさ…なんで顔触ってくんの?」


剣士「君の顔…知りたい」


女海賊「え?なんで?もしかしてキスしたいの?」


剣士「違う…どんな顔か知りたい」


女海賊「わーったわーった…ちゃんと触らせてやるから鼻に指突っ込むの止めて」


剣士「鼻…」


女海賊「あんたにも付いてんじゃん…触り比べてみ?」



サワサワ ナデナデ



女海賊「なんかさ…顔をそんな撫でられると…変な気持ちになってくんだけど」


剣士「ごめん…」


女海賊「やっべ…アソコ濡れて来た」


剣士「アソコ?」


女海賊「何でも無い!はいはいもう終わり!!」


剣士「ありがとう…」


女海賊「ほんで?何で顔なんか触りたいのさ?」


剣士「夢を思い出せそうな…そんな気…した」


女海賊「ほ~ん…夢か…そういやなんか私もあんたの事夢で見た気がすんだよね」


剣士「同じ夢?」


女海賊「おーし!!肉食ったら一緒に寝てみっか?もしかしたら同じ夢見るかも!!」


剣士「はい…」


女海賊「寒いから背中くっつけたままね?ほらサッサと肉食え!」グイ




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