マユも語る
ダズッチャが大金を突っ返すのを見て、ドリドリとガングがのけぞる。
「えええええっっ!? マジかよんっ!?」
「ダズッチャ! 自分が何言ってんのか、わかってんのかっ!?」
「……わかってるっちゃ! オラだって金は欲しい! でも、オラは自分で稼いだまっとうな金で、カアチャンを喜ばせたいっちゃ! オラが払った2千モニアだけ返してくれ! それ以上は受け取れねぇっちゃ!」
ソヴリンがダズッチャに抱きついた!
「まあぁぁぁぁ! ソレでこそ、ワタクシの心友です! なんと高潔なお方! あなたへの友情と尊敬で、ワタクシの胸は張り裂けそうです! せめてものお礼に、心からのキッスを! チュッ! チュッ! チュッ!」
「うわぁ! やめるっちゃあああああ!!!!」
絶叫するダズッチャに、ソヴリンは2千モニアを押し付けた。
「今日ほどダズッチャさんの心友として、誇らしい日はありませんよ! それでは急ぎの用事がありますので、これにて失礼いたします! チュッ!」
ソヴリンはダズッチャに、とどめのキスをすると店から駆け出していった。
残された一同はボーゼンと立ち尽くす。
「……なんだったんだよん?」
「……わかんねぇ」
「……ダズッチャ、金は戻ってきたのかよん?」
「……ぜんぶ返ってきたっちゃ……」
「……あの欲深のソヴリンが……」
「……どうしてだよん??」
「……どうなってんだ??」
店の奥から、おそるおそるマユが顔を出した。
「あのぅ……うまく、いきました?????」
〇マユの説明
「かんぱぁ~いっっっ!!!!!」
グラスがぶつかり合い、盛大な乾杯の声が上がった。全員興奮しているが、酒を呑んでいる者は一人もいない。あれだけの騒ぎの後だ。ノンアルコールのドングリ水でも大いに盛り上がる。
「金が戻ってきて良かったよん! なぁ、ダズッチャ!」
「……ありがとうっちゃ……!」
「これでカアチャンに、本物の指輪を作ってやれよん!」
「……もう、だまされないっちゃ……!」
嬉しそうにニコニコ笑うダズッチャ。
ずっと黙っていたルウが口を開いた。
「マユはいったい何をした?」
派手な化粧を落としてドレスを脱いで、破れたシャツと穴あきデニムに着替えたマユは顔だけでなく、首まで赤くなっている。よく見るとグラスを持つ指先まで赤い。ガングとドリドリは赤いマユを見て心配そうだ。
「マユ、酒は呑んでねぇよな?」
「まじりっけナシの、ドングリ水だよん」
「ドングリ水で、どうやったら酔えるんだ?」
「わかんねぇけど、顔が真っ赤だよん」
「酔ってないです。まだ緊張してて……」
マユはドングリ水を飲み干すと、大きく息を吐きだした。ガングがドングリ水を注ぐ。
「なあ、マユ。ケチで有名なソヴリンがあんなに気前良く金を出したのは、何でなんだ?」
ドリドリはハンカチをパタパタ振って、マユに風を送ってやる。
「アイツ、村の祭りでみんながワインを持ち寄った時に、自分だけならバレねぇだろうって、樽にワインじゃなくて水を入れようとしたよん!」
「あった、あった! みんなで詰め寄ったら『酒の一滴は、血の一滴です! ワタクシに血を流せと言うのですか!?』って、意味のわからん逆ギレしやがった!」
ガングが激しく同意する横で、ドリドリは首をひねる。
「そんなアイツが大金を出すなんて、いったいどんな手を使ったよん?」
マユは赤くなった顔を手で押さえながら口を開く。
「えっとですね、ソヴリンさんのお店に行って『ザ・ルッツ』を探してるって言いました」
ガングが眉を寄せる。
「なんでソヴリンに豪華ホテルの場所を訊いたんだ?」
「たんに私は知りたかっただけです。でもソヴリンさんは勝手に、私がザ・ルッツに滞在してるとカン違いされました。おそらく豪華なホテルに滞在している、金持ちの貴婦人だと誤解したのでしょう。けれども面と向かって質問されたわけではないので、特に訂正はしていません」
ルウが怯えた目でマユを見る。
「金持ちのふりをしてソヴリンに近づいたか。あくどい……」