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マユが覚悟を決めたその時……!!

 招待客は嬉々として山海の珍味が並んだジオラマに近づくと、感嘆の声をあげながら料理を取り分けた。


「料理で立体的な地形を再現するとは!」

「素晴らしい!」

「こんな素敵なお料理は、見たことも聞いたこともありませんよ!」

「このローストビーフの美味なること!!」

「カルパッチョも絶品ですよ!」

「この鶏肉のようなモノは何でしょうかな?」

「それはアカルディ特産の蛇ですな」

「蛇っ!? 蛇はちょっと……」

「ご存じないのですか? これは男性の滋養強壮にとても効果があるのですよ」

「なんと!? それは素晴らしい! ぜひとも頂こう!! ムグムグ!」

「お味はいかがですかな?」

「たいへん美味ですな! いくらでも食べられる!!」

「わはは! あまり食べすぎてはいけませんぞ! 元気になりすぎる!ww」


「奥様、ご覧になって! デザートのコーナーがありますわ!」

「まぁ! なんて素敵! どれもおいしそう!」

「どういたしましょう!? 種類が多くて迷ってしまいますわ!」

「ケーキにタルトにパイにマカロン、クッキーにアイスクリーム!」

「どれも種類が多いですわね!」

「全部いただきたいのに、とても食べられませんわ!」

「あら、このお菓子はいったい何かしら?」

「ここに『ぷりん』と書いてありますわ」

「ぷりん? 知らないですわ。奥様は、ご存じ?」

「あたくしも存じませんわ」

「いただいてみましょうか?」

「…………」

「…………」

「んまああ! トロリとしてクリーミィーで!!」

「とろけるような美味しさですわ!」

「なんておいしいこと!」

「きっと天使の食べ物ですわね!」

「レシピを知りたいわ!」

「持ち帰って子どもたちに食べさせたいですわ!!」


 美味しい料理で皆が大いに盛り上がっている中、料理を食べることのできない四人がいた。プランタジネット王と美麗三王子だ。貴婦人たちの好き好き♡アタックを受けて、もみくちゃにされている。


「王様! 今日も素晴らしく素敵ですこと♡」

「いや……」

「アレックス王子も麗しくていらっしゃいますことよ♡」

「ありがとうございます……」

「オスカー王子! 後で一緒にダンスを踊ってくださいませんか?」

「…………」

「ノエル王子はすっかり立派になられて♡」

「ボク、大人になったよ♪」


 そしてマユは人生最大のピンチに陥っていた!!


「先ほど貴女の太ももを見てしまいました!」

「私は二の腕を目にしました!」

「あなたのヒザが脳裏から離れません!」

「ご婦人の下着姿を見たのは、生まれて初めてだ!」

「見てしまったからには、責任を取ります!」

「結婚してください!」

「わたくしの妻に!」

「きっと幸せにします! 伯爵夫人になってください!」

「いや侯爵夫人に!!」

「すぐに結婚しよう!!」


 詰め寄る男性貴族たちにマユは絶句している。

「……す、すみません……あれは手違いで……」

 言いながらマユはやっと気づいた。さっきのシェフたちの言い争いも、同じ理由だろう。大勢の男性からプロポーズをされて困惑していると、バラルディ公爵が乱入して並みいる貴族たちを蹴散らした!


「お前たち恥を知れ! あっちへ行け! 行かねば剣の露にするぞ!」

 いくら愛娘の婚約発表で大泣きしたとは言え、武闘派で知られるバラルディ公爵だ。貴族たちは恐れをなして、散りぢりに散っていった。貴族たちの後ろ姿を見ながら、マユがペコリと頭を下げる。

「あ、ありがとうございました。助かりました……」

「ふん! どいつもこいつも礼儀をわきまえておらん!!」

 バラルディ公爵は太った身体を怒りで震わせていたが、マユのほうへ身体を向けると、突然ひざまずいた。そして…………、













「マユ殿、ワシと結婚してくれ!」

「ええええええええええええええええ!?」

「今までコリンナに愛情を注いできたが、それもじきに終わる。これからは貴女を愛してゆきたい!」

「ええええええええええええええええ!?」

「焼き殺されそうになったにも関わらず、その身を挺して王たちを守ろうとした誠実さに感服した!」

「いや、あれは……!!」

「己の純潔を犠牲にしても君主を守る貴女の勇気に惚れたのだ!」

「いや、ちがくて……!」

「貴女のあられもない姿を見てわかった! これは神の思し召しだ! 見たからには責任を取る!」

「いえ、そんな……」

「貴女さえ構わぬなら、コリンナより先に結婚の儀を行いたい!」

「ちょ、待って……(涙)。」

「いつがよろしいか!?」

「…………」

「さあ、答えてくれ!!」


「バラルディ公爵、そこまでにしてくれ」

 公爵とマユの後ろから、落ち着いた声が響いた。

「プランタジネット王……」

「マユは私の妃になるのだ。悪いがあきらめろ」

 アレックスが金髪を揺らしながら割って入る。

「父上も公爵も落胆させて申し訳ありません。マユは私がめとります」

 がっしりとしたオスカーが無言でマユを抱き寄せた!

「マユは……俺の女だ!」

 ノエルが可愛らしく抗議をする。

「みんなやめて! マユはボクのおよめさんになるんだから!!」


 バラルディ公爵はワナワナと身体を震わせた。

「……王や王子たちと言えども、ワシは負けん! バラルディ家の名誉にかけて!!」


 男たちがバチバチの火花を散らす中マユはオスカーの腕から抜け出し、コソコソ逃げ出そうとしたがプランタジネット王に首根っこをつかまれた。王は緑色の瞳に深い愛情をにじませながらマユを見つめている。

「マユ、そろそろ誰か選べ」

「え……?」

「お前が選ばないと、私たちは決闘で決めねばならぬ」

「そんな……!」

「お前が選べば誰も文句は言わぬ。今ここで決めろ」

「…………」


 アレックスがマユの顔をのぞきこむ。間近で見ると青色の瞳にうっすらと紫色がかっているのがわかる。

「マユ、どうぞ私を選んでください」

「近い! 近いです!!」

 オスカーは実力行使で逞しい腕で、再びマユを後ろから抱きしめる。彼の胸の鼓動が背中に当たると、マユの鼓動も速くなった。

 可愛いノエルは泣きださんばかりだ。

「マユ、おねがい! ずっとボクのそばにいて!」


 王が口を開いた。

「さあ、誰を選ぶのだ?」

 五人に見つめられてマユは呆然としていた。しかし覚悟を決めて何か言おうと口を開きかけたその時…………、





















 マユの身体が透けて見えた! 彼女を抱きしめていたオスカーの腕が宙をつかむ。

「マユ!?」

「どうしたんです!?」

「マユ殿!?」

「マユ!?」


 男たちの声が遠のく。薄れてゆく意識の中で、たくさんの声が聞こえた。


「最近あの子を見ないねぇ? 元気にしとるのかのぅ?」

「いつも来るあのお客さん、このごろ店に来ないけど、どうしてるんだろ?」

「佐藤さんからメールが来ない……。メールしてみようかな?」

「マユちゃんに会いたいな♪ 遊びに誘ってみようかな♪」

「ソウさん、なろうのエッセイやめたのかな? 心配だわ」

「ソウ マチって人のエッセイ、今日もない……。ちょっと前まで毎日あったのに……」

「マチちゃん、小説家になろうをやめたのかな? Xも更新してないし……」

「マチさんは元気じゃろうか? Xにもなろうにも書き込んでないようじゃが……」

「DM送ってみようかな……」

「ソウさん、原稿はできたかしら? 連絡がないのは病気のせいかしら? 原稿も心配だけど、ソウさんも心配だわ……。連絡とってみようかしら?」


 聞こえてきたのは、現実世界でたくさんの人がマユを心配する声だった。

「わたし、一人じゃなかったんだ……。いろんな方が気にかけていてくれたんだ……。わたし……愛されて……いたんだ……」


 そしてマユは意識を失った。


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