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ソヴリン、おおいに語る

心配で気もそぞろな一同が店で待っていると、バタンと大きな音を立ててドアが開いた。唖然としている一同の横を駆け抜けながら、マユは首飾りをダズッチャに投げた。

「台座から宝石を外して! 宝石だけ持っててください!」

 ダズッチャが慌てて宝石を外す横で、ドリドリがマユへ問いかける。

「ねぇちゃん、首尾はどうだったんだよん⁉」

「私、隠れないとダメなんです!」

マユは問いに答えず、ダッシュで店の奥に引っ込んだ。


「なんだよん?」

「どうなってんだ?」

 一同ポカンとしていると、店に人間の男が駆け込んできた。男の顔を見た途端、ドリドリが男に殴り掛かる!

「ソヴリン、てめぇ! よくもダズッチャを騙したな! これでも喰らえよん!」

「わあぁ! やめろ! ドリドリ、落ち着け!」

 ソヴリンは怯えて逃げ惑いながらも、血走った目でダズッチャを見つけるとニヤアっと笑みを浮かべた。気持ちの悪い顔だが、本人は笑顔のつもりらしい。

「おぉ! ワタクシの最良なる親友ダズッチャさん! いえ、それだけではワタクシの気持ちを言い表すのに足りません! 心の友と書いて心友のダズッチャさん! 探していたのですよ!」

「ダズッチャはオイラの親友だっちゅうの! 詐欺師のオメェが言うなよん!」

 怒り狂ったドリドリは馬鹿力で、すがりつくガングとダズッチャを引きずりながらソヴリンに迫る。事を収めたのはルウだった。テーブルクロスを広げると、荒ぶるドリドリの頭からかぶせてグルグル巻きにした。

「何も見えないよん! はずしてくれよん!」

 もがくドリドリを押さえ付けて、やっとのことで静かになった。


 いつもは一糸乱れぬ恰好をしたキザなソヴリンが、今はヨレヨレになっている。この店まで全力疾走してきたのと、ドリドリに襲われたせいだ。ほどけた胸元のタイを結び、シャツの裾をズボンに入れ、外れてしまった片眼鏡をハンカチで拭いて掛け直し、上着の襟をきちんと正してコホンと気取った咳をすると、情熱的に両手を広げた。

「おぉ、ダズッチャさん! ワタクシの心友、ダズッチャさん!」

「オメェ、まだ言うのかよん!」

 怒るドリドリは暴れようともがくが、テーブルクロスでミノムシのように包まれていて、身動きできない。今にも噛みつきそうな顔のドリドリを、ソヴリンは横目で睨んで鼻で笑う。

「ふっ。外野は黙っていてください。ワタクシが探していたのはダズッチャさんです」

 名前を呼ばれたダズッチャは、ワケがわからずオドオドしている。小さな目を見開いて、無言でソヴリンを見返した。


「ダズッチャさん! あなたを探し求めて、ワタクシは街中を駆け巡りました! でも心友とは引かれ合うものです! 運命がワタクシをあなたの元へ導いてくれました!」

「……オラたちが友だちだったことなんて、一度もないっちゃ」

「おぉ! 何という悲劇! ワタクシがあなたを想う気持ちが通じていないなんて、胸が張り裂けるほど苦しいですよ! きっと、ちょっとした誤解のせいですね! もちろんつまらぬ誤解など、すぐに解けますとも! ダズッチャさん、この間ワタクシがお譲りしたちょっとした宝石は、お持ちですかな!?」

「……ニセモノの石ならココにある」

 ソヴリンが飛びついて引ったくろうとしたので、ダズッチャは石を強く握る。石を渡してもらえないソヴリンは、大げさに天を仰いだ。

「おぉ! ダズッチャさん! その憎らしい石のせいで、ダズッチャさんとワタクシの美しい友情が危機に瀕していまず! 二人の麗しい友情のためなら、ワタクシは喜んで犠牲を払いましょう! まさに無私の善行です! そうすれば二人の輝かしい友情は、宝石のように永遠の光を放つのです!」

「……でもお前が、こんなクズ石に金を払うバカはいないって言ったっちゃ……」

「んまあぁ! ダズッチャさん! ワタクシの大事なダズッチャさんを侮辱する輩がいるなんて、ワタクシは絶対に許しませんよ!」

「……でもお前が……」

「この憎らしい石にワタクシが大いなる犠牲を払えば、ダズッチャさんとの友情は完璧なモノになるのです! ええ、もちろん大切なお金を支払うのはワタクシの心が血を流すことになりますけれど、ダズッチャさんとの友情のためなら、ワタクシは命をも差し出しましょう! ここにダズッチャさんから受け取った、2千モニアがあります。さあ、どうぞ受け取ってください!」

「……ニセモノの宝石なのに? そんな価値は、ないっちゃろ?」

「なんとお優しい! ダズッチャさんの身体は半分どころか、すべて優しさでできているのですね! ワタクシが損をするのを見ていられないからと、正直に教えてくださるとは! もちろんニセモノでも構いませんとも! 二人の友情に陰が射すくらいなら、ニセモノにお金を払うほうがずうっとマシですからね! もちろんワタクシは内心、血の涙を流していますが!」

「……でもカアチャンと相談したいっちゃ……」

「それでは奥様に、驚きのサプライズで驚愕なビックリプレゼントを贈りましょう! ここに3千モニアあります。先ほどの2千モニアと合計して、5千モニアになります!」

「5千モニア!?」

とんでもない数字に一同驚愕する。

「5千モニアあったら、デカイ家が買えるよん!」

「家に置く新品の家具まで全部そろうぜ!」

 ドリドリとガングの感想にソヴリンは満足そうだ。上着の中から分厚い札束を取り出す。

「さあ! ここの5千モニアあります。これで奥様に驚きのサプライズプレゼントをなさればよろしい。ダズッチャさんの奥様の喜びは、心友であるワタクシの喜びです! さあ! 受け取ってください!」


 ソヴリンから札束を押し付けられたダズッチャは、強く押し返した。

「……ダメっちゃ! 受け取れねぇ!」


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