サラの決意
各国の王族による祝いの挨拶は済んだということになり(何も済んでいないのだが)、マユたちは部屋から閉め出された。マユはまともな格好に戻るため、サラと一緒に自室へ向かった。
マユの着付けを手伝う間も、サラはずっと無言だった。
「サラ……なんというか……」
おずおずとマユが言葉をかけても、サラは無言でドレスの紐を引っ張っている。
「…………」
「エンゾとエルザのことは、気の毒だったね……」
「…………」
「二人にもいろいろと事情があったみたいだし……」
「…………」
「男はエンゾだけじゃないし……」
「…………」
「また仲の良い女友達だってできるだろうし……」
「…………」
「ほ、ほら! 女友達ならわたしがいるじゃない!?」
「…………」
「そんなに落ち込まないで……」
「……マユ」
「な、なに!?」
「マユにお願いがあるんだ」
「いいよ!」
「まだ内容を言ってない」
「ご、ごめん……」
サラはドレスの紐を引っ張りながら、緊張した顔で切り出した。
「……マユから王様に、エンゾとエルザをあたしに任せてほしいって頼んでほしいんだ」
「サラに二人を任せる? どういうこと??」
サラはドレスのウエストの紐を引っ張りながら答える。
「エンゾとエルザは家族がいなかったから、悪いことをしたと思うんだ」
「だから育ててくれたベッラ女王の言いなりになったみたいだね……」
「それは本当の家族じゃないと思う」
「恩を売って悪いことをさせるのは、家族じゃないね」
サラはオレンジ色の瞳でマユをまっすぐに見た。
「あたしが二人の家族になる!」
「えっ!?」
「そして二人にたくさん愛情を注ぐ!」
「…………」
「両親や兄姉たちにも協力してもらう! みんなでエンゾとエルザの家族になる!」
「そんな……!」
「いっしょにご飯を食べて、いっしょに働いて、いっしょにたくさん笑う! そして本物の家族になる!」
「でも……もしまたサラが騙されたら? きっとまた傷つくよ……」
「あたしは傷ついてない! あたしは二人を信じてるから、何にも傷ついてない! もし裏切られたって気が付かないくらい信じてるから、ずっと傷つかない!」
「サラ……」
「エンゾはあたしを迎えに来たから捕まったんだろう?」
「……うん」
「エルザはエンゾを見捨てず追いかけてきたから、捕まったんだよね?」
「……うん」
「だからあたしは二人を信じる! 本当の家族になる!」
「…………」
「マユ、お願い! マユから王様に言ってほしいんだ! 二人をあたしと、あたしの家族に任せてほしいって!」
マユはどうしようかと迷った顔をしていたが、ため息をつきながら答えた。
「わかった。どうなるかわからないけど、お願いはするって約束する」
「ありがと!!」
サラの顔がぱああっと明るくなった。




