ナナメ上な結末
アカルディ王がベッラ女王に近づいた。蛇に噛まれた傷跡の残る右手で小さな女の子を慰めるようにそっと彼女の頭を撫でると、意を決したようにプランタジネット王をひたと見据えた。
「彼女のことは、拙に任せて頂けませんか?」
プランタジネット王はいぶかしげに緑色の目を細める。
「どういうことだ?」
「女王は……ベッラは、拙の命の恩人です。拙が蛇に噛まれた時に彼女が救ってくれなければ、拙は生きてはいなかった。今こそ彼女に恩返しをしたいのです! どうぞ恩赦を頂きたい!」
「このまま罰も受けずに済むとでも? 都合の良すぎる話だ」
「わかっています! アカルディ王である拙にできることであれば、何でもします! ベッラのためなら国を差しだしてもいい!」
「魅力的な申し出だが、それはいらぬ。ふぅむ。どうしたものか……」
プランタジネット王は難しい顔で考え込んでいたが、緑色の瞳をきらめかせた。
「アカルディ王は何でもすると仰ったな?」
「ええ! 拙にできることなら何でもします! ベッラのためなら、この命を差し出しても構わない!」
「それならベッラ女王を妻にしろ」
「ええええええええええええええええっっっ!?」
その場にいた全員が悲鳴をあげた。ショックで放心状態だったベッラ女王でさえも!!
プランタジネット王は笑顔で続ける。
「貴女はカベー王国の繁栄のために、プランタジネットの王族である私や王子との婚姻を画策していたのだろう?」
問われたベッラは思わず素直にうなずく。
「はい……」
「それならアカルディ王と結ばれても同じ事。それどころかアカルディは、我がプランタジネットより強大な国だ。願ったり叶ったりだろう?」
「それは……」
「そもそもなぜ、アカルディ王との婚姻を狙わなかったのだ?」
「ロレンツォお兄様と……? だってお兄様は家族ですから……」
「本当の兄なのか? 夫にはできないのか?」
「いえ血の繋がりはありませんから、そういうわけでは……」
「それなら良かろう?」
「でも……」
反論しようとするベッラにかぶせて、アカルディ王が口を開いた。
「拙は大賛成です! この上ない名案です! 拙が一生を懸けてベッラを正しい道へ導きます!」
「でも、お兄様……!」
アカルディ王は跪くと、ベッラを真っすぐ見つめた。
「ベッラ……! 幼い頃からあなたをずっと愛していた! あなたが王妃になってからも、女王になってからも! 愛するベッラ、拙の妻になってください!」
「でも……!」
「いいんだ! 今は愛してくれなくていい! 今はあなたの窮地を脱するためだけに、イエスと言ってくれればいい! 愛はこれから育もう! 長い間あなたのことを想って生きてきたのだから、側にいられるだけで拙は幸せです! ただ側にいてくださればいい!」
「…………」
「あなたの国を救うためだけに、イエスと言ってくれればいいのです。拙の妻になってくださいますか?」
全員が息をするのも忘れてベッラの顔を見つめた。青ざめていた彼女の顔に血の気がさし、頬がバラのように赤く染まった。
「…………イエス」
「やったあああああああ!!」
我を忘れて狂喜するアカルディ王を一同は唖然として見つめる。
「愛しいベッラ! ずっと愛していたのです! もうダメかと思っていました! もしも今日という日がダメだったら拙は失意で死んでいた! あぁ、神様! ありがとうございます!」
プランタジネット王が不思議そうな顔で尋ねる。
「今日? 今日、貴殿は何をするつもりだったのだ?」
「ベッラに愛を告白するつもりでした!」
「ええええええええええ!?」
またもや一同が異口同音に声をあげた!
「彼女をずっと愛していたのです! だから愛を告げるつもりでした! でもまさか想いが叶うとは! いえ、まだ彼女の気持ちが固まっていないのは承知しています! けれど側にいさえすれば、希望はあります! 希望はありますとも!!」
「おぉ……そうだな……」
唖然とした表情でザクセン王はつぶやいたが、気を取り直してニヤリと笑った。
「お二人に幸いあれ! そして天空神ユーピテルに幸いあれ!!」
一同は何が起きたかわからぬまま、反射的に祝福の言葉を口にした。
「天空神ユーピテルに幸いあれ……?????」




