毒蛇は人を殺すだけではありません♪
マユは誰が犯人か一所懸命に考えていたが、不満そうに口を開いた。
「誰かを犯人呼ばわりして間違えると後で困ります! いったい誰が犯人なんですか!?」
王は我が意を得たりとばかりに深く頷く。
「私もそれを知りたいのだ。このプランタジネット王を殺したいと思っている者は誰だ?」
小さなノエルが美しい金髪を揺らして無邪気に言った。
「ボクはアカルディの王様だと思うな! だってたくさん毒蛇をプレゼントくださったでしょう?」
小さなノエルから笑顔で殺人者だと指名されたアカルディ王は目を見開いた。
「拙はそのようなことは……!!」
アレックス王子がにこやかに問いかける。
「アカルディ王は一度でも、父王や私たち王子の死を望んだことがおありでしょうか?」
王は信じられないといった顔でアレックスを見ていたが、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「…………ないと言えば、嘘になります。でも拙はやってない!」
「そうでしょうね」
アレックスは納得したようにニコニコ顔でうなずく。しかしノエルは不思議そうな顔だ。
「それならどうして、蛇をプレゼントしてくださったの?」
「あれは……」 アカルディ王は疑われたショックで、滝のような冷や汗を流している。
「あの蛇にかまれると、しぬのでしょう?」
「それは、そうだが……」
「おうさまは、その蛇にかまれて、しにそうになったのでしょう?」
可愛いノエルは無邪気に王を問い詰める。
「たしかに、拙は死ぬところだったが……!」
アレックスが絹糸のような金髪を揺らしてノエルに笑いかけた。
「あの蛇は猛毒を持っているのですけれど、薬にもなるのですよ」
「くすり? おくすりになるの?」
「そうです。しかも美味しい薬です」
「おいしいおくすり? それならボクも食べてみたいな!」
「あはははは! ノエルには早いですよ!」
「なぜ? ボクもたべてみたい!」
「あの蛇は大人の薬なのです。特に男性の。ww あれを食べると男性に元気が出るのですよ。ww」
「ボクもおとこだよ?」
「あれが必要なのはアンドレア王子なのです。ww アンドレア王子に元気が出れば、コウノトリが早く来るかもしれませんから。ですからアカルディ王は蛇を贈ってくださったのですよ。ww」
何のことかと耳をそばだてて聞いていた新郎新婦は、同時に顔が真っ赤になった。アンドレア王子が赤い顔でモゴモゴと礼を言う。
「アカルディ王、お気遣いいたみ入ります……。しかし私は薬無しでも……」
「いえいえ! そういう意味ではありません! 非常に美味なので祝いの宴の一品にでもなればと……!!」
プランタジネット王は愉快そうに緑色の目を細めると、マユに向き直った。
「バラルディ公爵もアカルディ王も、今回の件には関わりがないらしい。他にはどうだ?」
「わかりません!」うんざり顔でマユが答える。
「マユを殺したい者がいるのではないか?ww」
「わかりません!」
「本当にわからないのか?」
「わかりませんし、知りません!」
「それなら私が答えを言おう」
プランタジネット王はエメラルドの瞳を煌めかせると、ベッラ女王へ向き直った。
「なぜマユを殺そうとした?」
ベッラ女王は燃えるような赤髪を振りたてた。その瞳は怒りに燃えて煌めくルビーのようだ。
「女王のあたくしを殺人者呼ばわりするのですか!? いくら王でも許されませんことよ!」
「それは互いに同じことだ。いくら貴女が一国の女王でも、プランタジネットの王である私や王子たちの命を狙ったと公になれば、国同士の争いになる」
「…………」
「しかし機知に富んだ貴女のことだ。その程度の事は、わざわざ言わぬでもわかっておろう。そうすると今回の一連の出来事は、カベー王国がプランタジネット王国に対して行った宣戦布告と解釈できる。王として私は徹底抗戦する」
「……そんな……あたくしは、ただ……!!」
「ただ?」
「…………」
マユはポカンとした顔で聞いていたがおずおずと口を開いた。
「……王様? 間違っていますよ」
「何が間違っている?」
「だってベッラ女王には動機がありません! それどころか王様たちを殺したら、女王は損をするだけです!」
「なぜだ?」
「だって女王は、王様と結婚したいんでしょう!? その王様を殺してしまったら、意味がないじゃありませんか!」
ベッラは我が意を得たとばかりに声を張り上げる。
「そうですよ! けれども人殺しと疑われたとあれば、我慢なりません! ただでは済ませませんことよ!」




