役者は揃った
王は身に着けていた深紅のマントを外してマユの身体を覆い、王子たちが彼女の汚れた顔や黒髪を撫でて整えていると、ベッラ女王と三人の王女たちが我先にと声をあげて王たちの元へ駆け寄ってきた。
「リチャード、お怪我はなくて!?」
「アレックス! アタクシ怖かったわ!」
「オスカー、もう大丈夫よ!」
「ノエルたん!」
王たちは抱きつこうとする女王たちが目に入らないようすで無視すると、マユを壇上へ上げ玉座へ座らせた。
「ちょっ! ここ王様の席じゃないですかっ!? わたしが座ったらダメですってば!」
「他に椅子がないのだ。ガマンしろ」
「ガマンとか、そういう問題じゃないです!!」
四人から椅子に押さえつけられてアタフタしていると、太ったバラルディ公爵がぜいぜい言いながら部屋へ入ってきた。
「いったいこれは、どうしたことだ!?」
プランタジネット王は、エンゾとエルザの側で直立不動している兵たちに目配せをした。兵たちは最敬礼すると足早に部屋を出ていった。兵たちがいなくなったのを見計らって、サラは床へ座り込んでいるエンゾに駆け寄ると、縄をほどいてダランと下がっている彼の右腕を捻じりあげた。ゴクッと鈍い音がして、骨が肩の関節にはまった。
「骨なんか外して、ごめん……」
「…………」
「……ごめん。また縛るよ……」
「…………」
サラは泣きそうな顔でエンゾを元通り縄で縛った。
「さて……と」
王はさりげなくマユの頬に優しくキスをすると、銀髪をかき上げて緑色の瞳で壇上から一同を見下ろした。
「ザクセン王、アカルディ王、ベッラ女王と王女たち、バラルディ公爵、新郎新婦、マユ、アレックス、オスカー、ノエル、そしてサラと……、エルザとエンゾと言ったな? 役者はそろったようだ」
アレックス王子が進み出る。
「父上、ベルナデット王女とノエルはまだ年端もいかぬ子どもですが、どうしましょうか?」
「ノエル、王女、二人はどうしたい?」
「ボクはここにいるよ! マユがしんぱいだもの!」
王女も怖い顔でうなずく。
「それならここにいるがいい。まずはサラ、礼を言うぞ」
「どうも……」サラが顔を真っ赤にしてモゴモゴ言う。
「やはりセヴィの人選に間違いはなかった」
満足そうにうなずく王にマユが問いかける。
「どういうことですか? そういえばセヴィさんが、サラの特技がどうとか……?」
「サラは四ヶ国の武闘大会で優勝したことがあるのだ」
「え!? 武闘大会!?」
「大事なマユに何かあってはならぬので、武芸に秀でた者を側に置きたかった」
「だから公爵令嬢や伯爵令嬢を断って、サラを……」
「そうだ。彼女が人質になってしまった時はあわやと思ったが、やはり強かった♪」
「どうりで王様が落ち着いてたわけだ……」
王はマユの濡れて汚れた顔や黒髪をしげしげと見つめる。
「それでマユ、何があったのだ?」
「私の悪い噂について話したいと、名前のない手紙で呼び出されました。そしたらエルザさんに礼拝堂へ案内されて、エンゾさんが……」
「二人に殺されかけたのか?」
「……はい」
バラルディ公爵がアゴの肉を震わせながら訴える。
「ワシがすぐ側にいたから良かったようなものの、あのままだったら焼き殺されていた!」
プランタジネット王はにっこり笑う。
「私の大事なマユを助けてくれて感謝する」
美麗三王子も壇上から公爵へ向かって笑顔を見せた。




