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シャレにならない!!

 その場にいた兵たちは飛びのいて目を覆った! ドレスを脱ぎ捨て下着姿になったマユは駆けだす! 何事が起きたかと集まってきた大勢の兵たちに向かって、マユは叫んだ!

「ヒザどころかもっと上まで見せたらぁ!! お前ら覚悟はできてんのかああああああ!?」

「「「「「「「うわあああああああ!!」」」」」」」


 ヒザだけでもとんでもないのに二の腕や太ももまであらわになった姿を見た兵たちは衝撃で腰を抜かす! 禁忌の場所を見てはならじと目を閉じて逃げ出した兵たちは、重なり合って派手に転んだ!!

「オラオラオラオラ~!! どきやがれええええええ!」


 行列を作っている下級貴族たちは、兵たちの中から飛び出したマユを見て信じられないといった顔で目を真ん丸にした。そして現実だとわかると悲鳴を上げながら散りぢりに逃げ出した。

「ぎゃあああああああ!! れ者がああああああ!!」

「うわあああああ!! 近寄るなああああ!!」

「こっちへ来るなあああああ!!」

「わたしには妻も子もいるんだああああああ!!」

「ウソだろおおおおお!!」


 マユは見せてはいけない場所をさらけ出したまま扉の中へ飛び込むと、城の廊下を駆け抜けた。その場にいた者たちは何事が起きたかと振り返ったが、マユの露出に気づくと悲鳴をあげながら両手で顔を覆い隠す。


「きゃああああああああ!!!!!!!」

「太ももがあああ!!!!!!!」

「見ちゃだめだ! 目を閉じろおおおおおお!!」

 とんでもない部分を見るまいと固く目を閉じた者たちの横をマユは疾風のように駆け抜ける!!

「どけどけどけどけええええええええええ!!」


 遠くにエルザが見えた。ドレスの裾に足を取られながら謁見の間へ入ってゆく。マユが息を切らしながら後を追って部屋へ入ると…………、



 すぐ目の前にいたエルザにぶつかり、二人は派手に転んだ。マユは必死でエルザにしがみつくと叫んだ。

「この人を捕まえて! サラは!? 王様は!? 王子は無事ですか!? エンゾさんを捕まえて!」


 マユの大声が静まり返った謁見の間に響き渡ると、広間の中央にいるカベー王国のベッラ女王が「ひぃっ!」と小さく叫び、手に持っていた黄金の錫を取り落とした。錫は甲高い音を立てて大理石の床にぶつかり、その衝撃で先端に据えてあった聖石のダイヤモンドが砕け散った。一国の宝が目の前で壊れたのに誰も動かない。そしてその場の全員がとんでもない姿のマユを見ているはずなのに、誰も動く気配はない。

「この人を捕まえてください!」

 マユはがむしゃらにエルザに抱きついて声をあげるが、女は無抵抗で動かない。そして他の者たちも、まったく動く気配がない。不審に思ったマユが広間を見渡すと……、


 玉座の側でサラの首筋にナイフをあてたエンゾが、ギラギラと血走った目でこちらを見ていた。その周りを5人の近衛兵が囲んでいるが、サラを人質に取られて動くことができない。壇のすぐ下には新郎新婦、新婦の親族であるプランタジネット王と三人の王子、新郎の父ザクセン王が立っていて、少し離れた場所にベッラ女王と三人の王女たち、彼女たちをかばうようにザクセン王が立っている。全員がマユのあられもない姿に驚いて目を見開いているが、それでも微動だにしない。


「エンゾさん……サラを放して!」

「うるさい!」

 マユはサラの側にいるプランタジネット王へ懇願する。

「王様! サラを助けてください!」

 王はマユの言うことが聞こえないかのように動かない。マユの姿を見て驚いたのは一瞬だけで、今は落ち着き薄く笑みさえ浮かべている。

 王が動かないのを見て業を煮やしたマユは叫んだ。

「エンゾさん! サラを放して!」

「うるさい! サラは連れていく! 姉さん、マユ様を連れてこっちへ来てくれ!」

 エルザは声を絞り出す。

「エンゾ……やめなさい……!」

「姉さんもマユ様も早くこっちへ来るんだ!」

 サラを人質に取られていては抵抗できない。座り込んだまま動けないエルザを立たせるのにマユが手を貸して、二人はフラフラしながらエンゾの側へ近づいた。エンゾはサラを突き飛ばすと、マユを羽交い絞めにして首筋にナイフをあてた。サラは押された拍子に転んで、床に手をついたまま呆然としてエンゾを見上げている。


「エンゾ……マユ……エルザ……どういうこと? マユ、その格好は……?」

「いろいろあって……」

「うるさい! 黙れっ!」

 エンゾが大声をあげるが、サラはひるまない。フラフラと立ち上がりながらも気丈に問いかける。

「マユ、エンゾになんかされたの?」

「……焼き殺されそうになったの……」

「ひどい! エンゾ、ほんとにマユを殺そうとしたの!?」

「それしか方法がなかったんだ!」

「そんな……! まだ間に合うってば! あたしも一緒に謝るよ! マユから手を放して!」

「もうダメだ! でも目的は達成する!」

「目的ってなに!?」

「……マユ様を……殺す……!」


 エルザが悲鳴をあげた。「エンゾ! やめなさい!」

 エンゾの真っ青な顔から滝のような汗が流れ落ちる。

「マユ様、悪く思わないでください! 他に方法がなかったんです!」


「「エンゾ!」」エルザとサラの悲痛な声が重なった。

「うわあああああああ!!!!」

 エンゾが絶叫しながらマユの首を搔き切ろうとした瞬間、サラがエンゾに飛びついて腕をひねると鈍い嫌な音がした。

「うわあああああああ!!!!」

 悲鳴をあげるエンゾの腕はサラにつかまれ、ありえない方向に曲がっている。弟をかばおうとして飛びかかってきたエルザの首筋へサラの鋭い蹴りが入ると、エルザは気絶して床へ倒れ込んだ。サラが左手でマユを遠くへ突き飛ばすと同時に王と王子たちが壇上へ上り、マユを囲んで安全な場所へ導いた。


「近衛兵! 二人を捕らえろ!」王の命令で兵たちは弾かれたように飛び上がり、エンゾとエルザを取り押さえた。


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