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地獄の業火

「あんなにたくさん! なんのお札?」


 マユが目をこらして見るとどの札にも「厄災有れ!」と呪いの言葉が書かれている。

「ひどい! いったい誰がこんなことを!? もしかしてシャンデリアを落とした犯人のしわざ?」

 床に置かれた巨大なシャンデリアを見てマユはぞっとする。

「一歩間違えたら、わたしはあれの下敷きになってたんだ……。わたしだけじゃない、王様や王子たちも……」

 天井とシャンデリアが落ちた時の轟音を思い出したマユが身震いしていると、祭壇の奥から男が出てきた。

「あら? あなたは?」


 祭壇から下りてきた青年の髪は新緑を思わせる緑色で、瞳も同じ新緑の色だ。

「マユ様、お呼びだてして申し訳ありません」

「え? エンゾさんですか? サラの彼氏さんですよね? どうしてここに?」

 男はサラの名前を聞くと一瞬苦しげな表情になったが、すぐにっこり笑った。

「サラを迎えに来たんです。彼女はどこにいますか?」

「エンゾ、やめなさい! サラのことはあきらめなさい!」

「姉さんは黙ってて!」


 マユはきょとんとする。

「姉さん? お二人ってご姉弟きょうだいなんですか? え? でもサラは知りませんよね? 弟さんはサラの彼氏さんで、お姉さんはサラと同じ部屋なのに? なんで彼女は知らないんですか?」

 マユが混乱していると、エンゾは強い力で彼女の両腕を掴んだ。

「痛い! 放して!」

「サラは……僕の大事なサラはどこにいますか?」

 興奮のせいか緑色の目がギラギラ光っている。勢いに押されたマユは口を開いた。

「謁見の間に……」

 男は手早くロープでマユを縛りあげると乱暴に床へ転がした。

「どどど、どういうことですか!? やめて! エルザさん、助けてください!」

 エルザは厳しい顔で黙ったまま立ち尽くしている。

「僕はサラを迎えに行く!」

「エンゾ! やめなさい!」

「エルザさん!? エルザさん助けて!」


 エルザはマユの声を無視して胸元から呪詛が書かれた札の束を取り出すと、マユの周囲にバラまきながら近づいてきた。マユがロープの結び目をほどいてもらおうとうつぶせになったが、女は強く肩を押して無理やり仰向けに転がすとマユの胸元へ呪詛の札を押し込み、床に数本のナイフを投げ落とした。

「ななな、なにするんですか!?」


 エルザとエンゾは問いに答えず床に置いてあったビンを手に取り中身をまき散らし、寝転がっているマユの頭や身体にもかけた。

「やめて! これ、油ですよね!? なんでこんなことを!?」

 エンゾはやり残したことがないか油断のない目つきでさっと部屋を見渡すと、「姉さん、後は頼んだ」そう言って扉から出ていった。


 エルザは蝋燭に火を灯すとマユへ向かって投げた。火はあっという間にドレスへ燃え移り、黒い煙をあげながら勢いを増してゆく。マユは悲鳴をあげながら床を転がり火を消そうとする。

「助けて!! 誰か助けて!!」

 マユの悲鳴を無視して、エルザは扉から出ていってしまった。


 なんとかドレスの火を消して起き上がったマユは扉へ駆け寄り開けようとしたが、鍵が掛かっていて開かない。

「助けて! 誰か助けて!」

 煙を吸って咳き込みながら声をあげ扉に体当たりする。炎はますます激しくなりノドが灼けるように痛い。床を伝って燃え広がった炎が、再びマユのドレスへ燃え移った。

「た……すけ……たすけて……」

 マユが最後に見たのは、我が身を焼き尽くそうとする地獄の業火のような紅蓮の炎だった。


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