差出人不明の手紙
プランタジネット城へ到着した新郎新婦は休む間もなく謁見の大広間へ向かった。盛大な披露宴が始まる前に、各国の王族や貴族たちからお祝いの言を受けるためだ。レティシア皇太子妃の付添としてプランタジネット王や美麗三王子、アンドレア皇太子の側にはザクセン王が寄り添う。最初はカベーとアカルディの王族たちがお祝いを述べ、その後に公爵や侯爵と位が下がってゆく。マユは宴の準備を見に行こうとしたが、笑顔の王と美麗三王子に連行されて、ズルズルと謁見の間へ引きずられていった。
「わたしは王族でも貴族でもありません! 場違いです!」
「それならば私の妃になるがよかろう。今すぐ私の伴侶になるがいい」
「お断りします!」
「マユは貴族になりたいのか? それならこの場で爵位を与えるが?」
「いりません! そういうことじゃありません! 王様、職権乱用はやめてください!」
マユについてきた侍女のサラがそのようすを見てオロオロしていると、レティシアの第5侍女のエルザがそっと近寄ってきた。
「サラ、マユ様へお手紙を預かってきたの」
「誰から?」
「さぁ。知らない人だったわ」
「ありがと。マユに渡しておくよ」
「お願いね」
サラはプンプンしているマユに近づいて手紙を渡した。
「マユ、エルザが誰かに手紙を預かったんだって」
「ありがと」
マユは手紙を読むと、顔をしかめた。
「わたし、ちょっと用ができました」
王と王子たちが不思議そうな顔をする。
「いったい何の用だ?」
「よくわかりません。ちょっと失礼します」
部屋を出ていこうとするマユに、サラが声をかける。
「マユ、あたしはどこにいればいい?」
「サラはレティシアさんのそばにいて。用が終わったら迎えに来るから、一緒に披露宴の準備を手伝ってほしいの。それまではレティシアさんのそばにいて、お手伝いしてくれる?」
「わかった!」
マユは祝いの言葉を捧げるために並んでいる各国の貴族の列を横目に見ながら廊下を抜けると、裏口から城を出た。列は外まで続いていて、すれ違う人たちに頭を下げながら回廊を小走りで進む。お祝いムードでがやがやしていた声は間遠になり、木立に囲まれた道を歩く頃には小鳥のさえずりしか聞こえなくなっていた。待ち合わせ場所に指定されたラマルキーの木の下で朝露を踏んで待っていると、樹々の間から緑色の髪と瞳の侍女が出てきて、マユにお辞儀をした。
「エルザさん? サラと同じお部屋のエルザさんですよね?」
名前を呼ばれた女はにっこり笑う。
「どうぞエルザとお呼びください」
「そんな! サラがいつもお世話になっています。ありがとうございます!」
「こちらこそ。手紙の主からマユ様をご案内するよう言いつかっております」
「誰が手紙をくれたんですか?」
「今は申し上げられません。どうぞこちらへ」




