王族や賓客たちは、いつでも注目の的です
花婿の親族席にはアンドレア王子の父であるザクセン王が輝くプラチナブロンドの髪に王冠を戴き、聖石のダイヤモンドを据えた王錫を手にして、小さな笑みを浮かべ威風堂々と立っている。
そんな王を見て、貴族の令嬢たちはウキウキと噂話に花を咲かせる。
「花婿様のお父様だというのに、若々しくていらっしゃること!」
「まるで王子のお兄さまのようですわね!」
「最近、おみ足を怪我なさったとか……」
「なんでも乗馬の最中に馬が暴れて……」
「わたくし、お見舞いの花を贈りましたわ♡」
「まあ! 抜け駆けはおよしになって! でもわたくしも、お見舞いのお菓子を贈りましたわ♡」
「あら! まさか王様を狙っていらっしゃいますの?」
「うふふ♪ だってまるで少年のようで放っておけませんわ♡」
「あの空色の瞳で見つめてほしいですわ♡」
「わたくしは抱きしめてほしいですわ♡」
「まあ! わたくしだって!」
「負けませんことよ!」
両家の席の後方には国賓の席がしつらえてあり、招待されたカベー王国のベッラ女王と三人の王女が不機嫌な顔で座っている。ザクセンの大臣たちは横目で女王を見ながら、コソコソと言い合う。
「あの方がやり手と噂の高いベッラ女王ですか」
「見ただけではわかりませんなぁ! 華奢でたおやかな女性に見えるが!」
「あの赤い髪の毛や瞳と同じように、激しい気性らしいですぞ!」
「王女たちも母譲りの気性らしいと聞いておるが、いかがかな?」
「まだあの力を発動していないので、未知数といったところでしょう」
「ベッラ女王はあの力をお持ちで?」
「女王はあの力を持っていません」
「それなのに、なぜ女王になったのです?」
「亡き王の遺言で、いずれかの王女が力を発動するまでの一時的な君主です」
「いわば暫定措置か」
「王女が力を発動しない場合は、どうなるのでしょう?」
「さあ……。王女たちの父王は亡くなり、母である女王は隣国の貧しい男爵家の娘……。王女たちはさぞ心もとないことでしょうなぁ!」
「国の民たちも不安でしょう」
「よその国のことながら心配ですなぁ!」
アカルディ王は誰とも目を合わせないように、じっと床を見つめている。王と同じアカルディ王国の貴婦人たちは、扇で口元を隠して小声で言い合う。
「久しぶりにお見かけしましたけれど、お疲れのご様子ですわね」
「お若い頃は茶色の御髪だったのに、すっかり銀髪になられて……」
「我が国は四ヶ国のうちで一番強大な国ですから、色々とご心労もおありでしょう」
「幼い頃に蛇に噛まれたので、あまりお強い身体でないとか……」
「王妃が亡くなられた時も、ずいぶんとお気を落とされたようですわ」
「お顔の色が心配ですこと……」
「まるでご病気のように真っ青で……」
貴人たちが思いおもいに話をしていると緋色のローヴをまとったエバンズ枢機卿が、花婿であるアンドレア王子を先導して祭壇の横手から出てきた。王子の麗しさに貴人たちがざわつく。
「まぁ! なんて素敵!」
「アンドレア王子こそ、本物の王子様ですわね!」
「絹のようなブロンドの髪の毛が!」
「宝石のような青い瞳も!」
「童話から抜け出してきたようですわ!」
「お相手のレティシア王女様がうらやましいこと!」
「本当に!!」
「まるで絵画のようですわ!」
一同がアンドレア王子に注目しているのに紛れて、マユがそっと美麗三王子の後ろの席へ滑り込んだ。いち早く気づいたアレックスが微笑んで小声で囁く。
「マユ、ブライスメイドを引き受けてくださってありがとうございます。今日もとても綺麗ですね。花嫁みたいです♡ わたしの花嫁になってくれませんか?」
「……お断りします」
ノエルも兄に負けまいと口をはさむ。
「マユは、おひめさまみたい♡ ボクがマユにキスしたら、ボクのおひめさまになってくれるの?」
「……なりませんってば!」
赤毛と同じように赤い顔をしたオスカーがやっとの思いで囁く。
「すごく……すごく……綺麗だ……!」
「……ありがとうございます」
真っ赤になって照れるマユを見て美麗三王子がにっこりするのを、周囲の独身女性たちは鬼のような目つきでにらんでいる。視線で人が殺せたら、マユはこの場でバッタリ倒れ伏しただろう。




