ドゥワーフの男泣き(涙)。
「ちきしょう……! やられた……! オラ、騙されたっちゃ……」ダズッチャが涙をこぼす。
「誰にっ!? 誰にやられたよん!?」ドリドリは身を乗り出して詰問する。
「宝石屋のソヴリンに……。オラ、もうダメっちゃ……」
「いったい何されたよん!?」
「ううう……カアチャンに指輪を……ううう……」
「カアチャンに指輪? なんだよん?」
「……オラたち、結婚して100年になるっちゃ……ううう」
「そっか! もう100年もたつか! おめでとうだよん!」
「……明日が結婚記念日。アレクサンドライト婚になるっちゃ…………」
「無一文で鍛冶屋になったオメェに、カアチャン黙ってついてきてくれたよん! 100年前は指輪どころか、縫い物の指ぬきさえ買ってやれなかったもんな!」
「……カアチャンずっと『アレクサンドライトっちゅう宝石の指輪がほしい』って言ってたっちゃ。だからアレクサンドライトを買ってきて、それでオラが指輪を作ってカアチャンに贈ろうとしたっちゃ……」
「そりゃあイイ考えだよん! 武器ばっか作ってる荒っぽい鍛冶屋にしちゃあ、上出来のプレゼントだよん!」
「……ところがよ、大枚払って宝石を買ったらニセモノだったっちゃ……」
「ニセモノ!? なんてこったい! なんでニセモノってわかったんだよん?」
「……アレクサンドライトっちゅう石は、お日さまの下だと緑色に見えて、ランプの光だと紅色に見えるらしいっちゃ……」
「ほえぇ!? 緑と赤に見える!? スゴイよん!」
「……カアチャンが教えてくれたっちゃ。昼間にソヴリンの店で見たときは緑色だったから金を払って帰ったら、夜になっても色が変わらんかったっちゃ……」
「ニセモノなら突き返してやれよん!」
「……次の日に朝イチで店に行って、本物と替えてくれって言ったら、できねぇって言われたっちゃ……」
「そんなら石を返して、金を返してもらったらいいよん!」
「……もちろん言ったっちゃ。ソヴリンのヤツ『ニセモノのクズ石に金を払う宝石商が、どこにいるのですか?』だって……!」
「自分が売っといてそれかよん!?」
「訴えてやるって言ったら『訴えたら恥をかくのは、あなたのほうですよ』って笑われたっちゃ……」
「ぐぬぬ! 許せねぇ! ダズッチャ待ってろ! オイラがぶん殴ってきてやるよん!」
ドリドリはスツールから飛び降りてドアへ向かう。
「わああ! ドリドリやめろ!」
カウンターから走り出たガングがドリドリにしがみ付く。ダズッチャとルウとマユも手伝って、全員でドリドリを押さえ付けた。
「行かせてくれよん! 親友がコケにされるのは許せねぇ!」
「気持ちはわかるけど、やめろって!」
ガングが宥めてドリドリを落ち着かせ、ふたたびダズッチャの話を聞く。
「……また買い直す金はないっちゃ……あきらめるよ……」
「そっか……。これからどうするよん? 結婚記念日は明日だろ?」
「……それを相談したいっちゃ……」
「ダズッチャのカアチャンは、ずっと黙ってついて来てくれたよん! 喜ばせてやりたいよなぁ!」
ドリドリはドングリ水を一気に飲み干すと、グラスをカウンターに叩きつけた。
「ソヴリンのヤツ……! 悪どいことして儲けた金で、アイツの嫁は女王様みたいに振る舞ってるって話だよん! 嫁は10本しかない指に、指輪を30個も付けてるってウワサだよん!」
「……オラが不甲斐ないばっかりに、カアチャンに苦労かけるっちゃ……ううう」
ダズッチャは男泣きに泣いている。そんな姿を見て、ドリドリも泣きながら肩を叩く。二人のドゥワーフは抱き合ってオイオイ泣き出した。
「あのう……」
マユがおそるおそる口を開いた。